2011年04月03日

西洋音楽の源流

 「バロックの森」って、もう記憶にさだかではないが(苦笑)かれこれ5年くらいはつづいていたらしい(その前は「あさのバロック」)。3月末をもっていったん終了、こんどは看板を一新しまして「古楽の楽しみ」へとリニューアル。記念すべき第一週目は、「歴代トーマス・カントルの音楽」。大バッハの前任者ヨハン・クーナウは「聖書ソナタ」とかが有名ですが、自分が知っているのはその前のヨハン・ヘルマン・シャインくらいまで。その前のカントルのめんめん、クニュプファーだのシェレだのは、まったく知らず(嘆息)。ゆえに貴重な音源ともいえるわけで興味深かったわけなんですが、なんだ、かかる作品はあんまり変わらないじゃないの、なんて思っていたらこれから週末の放送回は「古楽」の領域へといきなり(?)突入。西洋音楽すべての源とも言うべき、「グレゴリオ聖歌(グレゴリアン・チャント)」を皮切りに時代を追って紹介していくらしい。

 けさかかったのはミサで歌われるグレゴリオ聖歌のうち、「ミサ固有文」に当たるもの、「入祭唱(introitus)」、「昇階唱(graduale)」、「詠唱(tractus)」、「アレルヤ唱(Alleluia)」などでした(ほかに「聖体拝領唱(communio)」や「奉献唱(offertorium)」がある)。「固有文(Proprium)」というのは、祝日とか特定の機会(レクイエムとか)のみに歌われる/唱えられる一連のお祈り文の総称で、その反対が通年で変わらない「通常文(Ordinarium)」。入祭唱…は読んで字のごとしなのでよいとしても、「グラドゥアーレ」とはなんぞや?? と思った向きもいたかもしれない(案内役の先生からはとくに説明はなかった)。これは中世のミサ式次第において、使徒書簡朗読と福音書朗読とのあいだに歌われた一連の斉唱聖歌で、書見台のある説教台もしくは石造りのスクリーン上の書見台へと「あがる」ことから「昇階」と言われるようになった(と記憶している)。まぎらわしいのは英語でGradual Psalms と呼ばれるもので、こちらは「詩編」中、とくに「都にのぼる歌」として知られている120 - 134 番までの詩編歌を指す(『聖ブレンダンの航海』17 章に出てくるのはこちらのほう)。

 「アレルヤ唱」はもとは復活節用の唱和詩句だったものが6世紀以降に使用が拡大されたもので、特定の斎日とか四旬節には代わりに「詠唱」になったり、「続唱(sequentia)」になったりする。「聖なるかな(三聖頌)」は「栄光の賛歌(Gloria)」ちならんで最古の聖歌ともいわれ、その起源は4世紀にまで遡るとも。

 「終課(Ad Completorium)から」は一日の聖務日課のお勤めの最後に当たるもので、修道院生活の活写でもある『航海』にもたびたび登場します。で、だいぶ前にも書いたことですがLibera ファンには聴きおぼえのあるラテン語歌詞'Te lucis ante terminum ...(汝、光の消える前に…)' は、もとはこの「終課」で全聖歌隊が唱和する聖歌。一説には聖アンブロジウスの作だと伝えられている。

 最後にかかった「クリスマスの真夜中のミサから」は、なんとビザンツ聖歌をベースにしたローマ聖歌版で歌ったものらしい。…アレルヤ唱「主はわたしに言われた」なんかは、とても印象的。ドローン(!)に乗って、たゆたうようにメリスマティックに歌いあげてました。

 グレゴリオ聖歌は単旋聖歌と言われるように、ほんらいはどのパートもみなおなじ旋律をユニゾンで「斉唱」するもの。これだとつまらない! と思ったかどうかは知らないが、大聖堂の大伽藍の豊かな残響を効果的に生かした歌唱法がしだいに編み出されてゆく。グレゴリオ聖歌から派生して大量に生み出された「セクエンツィア」や「トロープス」、斉唱から聖歌の定旋律をテーノル(テノール、本来の意味は「保持音」)声部で歌い、数度離れた音程ですこしずつずらして歌ったり、あたらしい旋律を上声部に即興的に追加したりした(ディスカントゥスとかクラウズラ。ディスカントゥス[discantus, 異なる歌の意]ついでに、たとえばアングリカンでdiscant 云々…と表記されていたりする場合があるが、そちらはたんに上声部、つまりソプラノ/トレブルパートのことだったり、たんに旋律を指したりする[→ descant recorder]。中世の英国で流行ったEnglish Descant とは別物)。

 来週末はヒルデガルト・フォン・ビンゲンの応唱聖歌(responsorium)ですか。手許の資料にはセクエンツィアの「鳩は見た」とかが載ってましたが、あんまり聴いたことのない曲なので、いまから楽しみです。ちなみにセクエンツィアはあまりにも量産されてしまったものだから、1546年の「トリエント公会議」で一度すべて廃止、そして例外として4つが復活し、さらに18世紀になってもうひとつ、追加されました ―― それがあの有名な「悲しみの聖母(Stabat Mater)」です。

posted by Curragh at 20:53| Comment(0) | TrackBack(0) | NHK-FM
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