2006年03月11日

某週刊誌の記事を読んでみました

 先週発売の某週刊誌。ふだんこの手の雑誌は買わないほうですが、さきのトリノ五輪で日本に貴重な金メダルをもたらしてくれた荒川選手の演技について、NYTimes がこきおろしたと文句をつけていたのでつい買ってしまいました。

 で、いっさいの先入観なしで原文を読んでみますと…たしかにこの女性記者、そうとう口が悪いということは認めます。そうは言っても――この記者の書いたほかの記事を読んだことがないからなんとも言えませんが――荒川さんひとりをバッシングしているとも思えませんでした…最後の一文で、2位・3位の入賞者にたいしても苦言を呈していることからしても。

 スポーツはからっきし素人でよくわからないけれど、フィギュアが盛んな米国では、「難易度の高い技にあえて挑戦する態度」を是とするようなところがあって、このような批判の流れができたのも、荒川選手が公式練習では「3回転・3回転」を成功させていたにもかかわらず、本番では「3回転・2回転に落とした」と受け取られてしまったのがそもそもの発端らしい。

 そんな批判的な米国人も、もしNHKで放映されていたドキュメンタリーを見ていたら、見方が変わっていたのでは…とも思う。あるとき荒川さんは自身のサイトで、ファンからの書きこみを読んでいた。そのとき、「難易度の高い技の連続もよいけれど、もっと美しい演技が見たい」旨のコメントに目がとまった。それを目にしたとき、ご本人は「お客さんに感動をあたえられるような美しいスケーティングをしよう」と心に決めたそうです。

 こういう事情があってのイナバウアーのこだわりであり、回転技の 'downgrade' も、「演技の芸術的美しさ・優雅さ」を最優先させたための決断だったのでしょう。これはこれでよいのでは? 

 女性記者の記事中、個人的にもっとも唖然としたのはつぎのくだり。

 ...And she did not seem nervous, which may have been her biggest accomplishment (くわえて、彼女は緊張のそぶりも見せなかった。これこそ彼女がなしとげた最大の快挙だったかもしれない).

 いくらなんでもそりゃないでしょう!

 …週刊誌の記事もそこのところはきちんと書かれていたので、いたずらに反米感情をあおる系列の記事ではなかったのですが、すこしばかり気になる点も。

 NYTimes の記事中、前回五輪の金メダリスト、サラ・ヒューズの発言の訳が、

 「今回のオリンピックでは、信じられないような素晴らしい演技はひとつもなかった。誰も、自分の人生を賭けた演技はしていなかった。抑圧された戦いだった。どんなオリンピックでもあってはならないことだ

 となっている。原文を見ると…。

 "There was no unbelievable performance," said Hughes, who was here watching her sister Emily. "No one skated the performance of their life. It was a more subdued final. But every Olympics can't have that one amazing night."

But that is what figure skating fans have come to expect. Sarah Hughes's spectacular, seven-triple jump performance lifted her from fourth to first. In 1998, Tara Lipinski dazzled the crowd with a near-perfect skate that snatched a gold from the favorite Michelle Kwan.

 そんなこと言ってませんよ。

 'that one amazing night' は前回大会で、自身が「7回の3回転ジャンプ」を決めて4位から這い上がって金メダルを獲得した劇的な夜のことを思い出して言ったまでのこと。だから「それこそまさしく詰めかけたフィギュアファンの期待するところ」とつづくのです(ついでに 'It was a more subdued final.' にはヒューズの「しらけた印象」がにじみ出ていますが、「抑圧された戦い」ではやや難あり)。

 語法的には、太字の部分がよくわからない。おそらく主語が単数形だったからそれに引きずられてこんな変則形になったのか…ただたんにこちらのアタマが悪いだけなのでしょう…orz。

 …でもこれってひょっとしたら、雑誌ではよくある字数制限のための意図的な編集なのだろうか…。

 翻訳ものの雑誌記事は、たいてい字数制限のために原文を勝手に省略したりはしょったりというのが茶飯事です。理由はただたんに、横文字の記事と漢字仮名まじりの日本語とではおなじスペースに入れられる情報の許容量が決定的にちがうため。National Geographic 日本版が創刊された当時、ためしにおんなじ記事を突きあわせて調べてみたら、記事の情報量は原版記事のせいぜい三分の二ていどのものでした。

 でもさらに気になったのは、このNYTimes の記事について発言を求められた識者のコメント。さる著名なスポーツライターの方は、

 「この報道に学ぶべき点はないと思う…逆に、スルツカヤが転倒して3位になり、"それでも満足だ" といっているがそれは負け惜しみでしかないんです

 下線部、いったい主語がだれなのか判然としないが、スルツカヤ選手およびこの記事を書いた記者の名誉のために申し上げますと、だれもそんなこと言ってない。きちんと読んでから批判してください。

 ... But while Slutskaya said at her news conference that she was happy with a bronze, she was not wearing it. After the medal ceremony, she stalked into the dressing room and threw her medal aside. Mikhail Kusnirovich, a close friend, said she was sobbing. Kusnirovich, the deputy chef de mission of the Russian Olympic delegation, put the medal in his pocket...

 おそらくこのくだりだろうと思いますが、「顔で笑って心で泣いて」いたんですね。奇しくも前回大会のときとまったくおんなじ最終演者というプレッシャー。追う側のあせり…とはいえまたしてもふがいない出来で、演技後、控え室ですすり泣いていたそうです…そんなスルツカヤ選手ですが、こうも言っています。

 「それでもメダルを取れた自分はまだ幸せなほう。せっかく出場しても18位や20位で終わって、なにももらえなかった子が大勢いたのだから」。

 これはけっして「負け惜しみ」ではないと思いますがね。

 それとこれは「売るために」挑発的タイトルにしたんでしょうけれど、いくらなんでも「卑怯な女王」はないでしょう! それこそ失礼ではないですか(NYTimes の記事だってさすがにそこまで暴言は吐いていないし)。まぁ、週刊誌やタブロイド紙なんてどこの国でもこんなものですが。

 …読まなければならない和洋書が何冊もありながらまたしても寄り道してこんなつまらんことを書いてしまった、とこれは自分自身へのセリフ…。

posted by Curragh at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近のニュースから
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