1). 手で弾く鍵盤がふたつある、とくるとオルガンかチェンバロか…と思いきや、なんとかつてピアノにもそんな「変わり種」が存在していた! ということをこちらの記事にてはじめて知りました。20世紀初頭には欧州の有名製造元ベーゼンドルファーが50台ほど製造したけれど、88鍵だけでじゅうぶん…な楽器なので、ほかのメーカーはほんの数台作ったのみ、米国のスタインウェイにいたってはたったの1台しか製作しなかったという、文字どおり幻のピアノだったという。
このけったいな楽器の考案者は、エマニュエル・ムーアというハンガリー出身の作曲家らしい。上段の鍵盤はごくふつうのピアノとおなじ象牙製で76鍵、下段は上段鍵盤を乗せる出っ張りのついた特殊な形状の鍵盤で88鍵、上下あわせて164鍵(!!)。てっきりチェンバロとおんなじように弦がそれぞれの手鍵盤用に張ってあるのかと思ったらそうではなくて、どちらもおなじ弦を共有。ではどんな仕掛けになっているかというと、記事を読むかぎりでは「上段鍵盤を弾くと、下段鍵盤側のオクターヴ高い同音鍵が同時に鳴る」、または「4番目のペダルを踏み込むと、下段鍵盤で弾いた音鍵のオクターヴ上の同音鍵が上段鍵盤で同時に鳴る(カプラーペダル機構)」んだそうです…。動画もあるので、ピアニストのテイラー氏によるデモ演奏を見たほうが早いかと思います…テイラー氏曰く、このdouble-keyboard ピアノで弾くのにもっともふさわしい曲はバッハの「ゴルトベルク」だとか。たしかに「二段手鍵盤つきチェンバロ」と――バッハにしては珍しく――楽器指定している数少ない作品だし、演奏作法としてもテイラー氏の言うとおり、「両手交差」などなかった時代の鍵盤作品の演奏としては「よりバッハ時代に近い」かたちかもしれない。
と言ってもこの楽器の構造からしてバッハ時代のチェンバロとは似て非なるものなので、このへん微妙と言えば微妙ですが。「12度、またはそれ以上離れた音鍵が片手で同時に弾ける」という、この楽器ならではの弾き方はありますが、音楽的にはどうなのか。アルフレッド・コルトーはムーアの二段鍵盤ピアノで演奏していたらしい(録音が残っていないのが残念)。ラヴェルにいたっては、「自分の作品が意図どおりに演奏されているのをいまはじめて聴いた」と賞賛したり、音楽批評家サー・ドナルド・トーヴィーは1920年代、Encyclopedia Britannica のピアノの項目でこのムーアピアノを絶賛しているとか(ちなみにトーヴィーは「フーガの技法」最終フーガの補筆完成版も作ったりしていますが聴いたことなし)。
いずれにしても上下段とも、おんなじ弦を叩いて音を出しているので、チェンバロのように音色の対比という効果はありません。テイラー氏自身も最初、この復元されたスタインウェイ社製ムーアピアノをどう弾いたらいいのかあれこれ試してみたそうなので、ムーアが目指していた響きを再現する弾き方はどうだったのかはわかりません。動画を見るかぎりでは、バッハの一部のコラール作品で見られるような、「定旋律を弾きながら上または下の手鍵盤の音鍵を弾く」といった感じで片手で上下段両方弾く(または指をスライドさせる)、という奏法を披露してました。バッハがこの楽器を見たらなんて言うかな??
記事の出だしの'Jeopardy!'は、米国の有名なクイズ番組名。いま調べてみたら、Real Arcade にも同番組を模したオンラインゲームがありました(笑)。
2). 柏崎刈羽原発の被害は想像以上にひどい。TVニュースを見て目を疑いました。NYTimes はじめ海外メディアの関心も、地震で運転中の原発施設が被災した、というのは――当然ながら――いままで例がないから、どうしてもそこに集中します。AP通信配信のこちらの記事、すでに最新版に差し替えられて、自分が見た17日付けの記事とは内容が異なりますが、自分が見たとき、柏崎刈羽原発のことを'the world's largest nuclear plant in power output capacity'とあり、日本最大規模の原発=世界最大級とは恐れ入った。これほどの地震大国でありながら、この国の電力はあまりに原発に依存しすぎとしか言いようがない。デンマークみたいに自然エネルギーによる発電を早くから真剣に検討していた国を見習うべきだった。静岡には浜岡原発があるけれど、いざこのような「不測の」事態が起きたら起きたですぐ「想定外でした」のひと言でお茶を濁そうとする。そのくせ浜岡のときもそうだったが、原子炉増設のときの地元住民への公開説明会ではきまって「絶対安全です」と平然と口にする。自然はときとして人知のまったく及ばない恐るべき力を見せつけてきたことはいままでの歴史を見ても明らかなのに、いともかんたんに「絶対安全」とのたまう。自然に絶対なんてありっこない。「絶対」をつけると、そのことばを聞かされたほうはかえって不安を募らせるものです。今後は「絶対…」という科白を軽々に使わないでいただきたい。それより大切なのは、もっと具体的に「発災時にはこれこれの対策をとります」と周辺住民にたいして周知をはかることではないでしょうか。それでも最近は、なにか不具合があったときには新聞の折り込みに経過報告のチラシを入れるようになったから、以前にくらべればましにはなりましたが。とにかくへたに隠蔽工作なんかしないで、きちんと情報開示してください。というわけで、自分はこちらの方の意見にまったく賛成です。
…それにしても、IAEAの調査申し入れを断るとは、首相周辺はいったいなに考えているんだか。新潟県知事がIAEA調査を政府に要請するにいたって一転、受け入れると方針転換するとは、お粗末にもほどがある。そう言えば17日付けのAP配信記事には'Officials ... acknowledged it took a day to discover about 100 drums of low-level nuclear waste that were overturned, some with the lids open.' とあって、じっさいそのとおりの画像をTVで見ました。幾重にも重なり、ひっくり返っている黄色のドラム缶の山! 17日の段階でかなり具体的に被災状況を伝えていますね。国内ニュースでそこまで報道していたところがあったかどうかはわかりませんが、すくなくとも自分は見ていません。
3). ハリー・ポッターの最終巻をめぐってひと悶着、震源地はなんとNYTimes の書評欄だった、と聞いて、さっそく見てみました。ほとんど野次馬。原作者の逆鱗に触れたのはこの箇所らしい。
... and in this volume, the losses mount with unnerving speed: at least a half-dozen characters we have come to know die in these pages, and many others are wounded or tortured.
たしかに「解禁直前」に一部でもストーリーをばらすような書き方はまずかったかも知れないが、このていどでもだめなのかな…というのが率直な感想でした(→関連記事)。
また記事では、寄宿学校ものから探偵もの、果ては叙事詩的探求物語にまで広範なジャンルを融合させて発展する『ハリー・ポッター』シリーズの巧みな語りは、「ジョーゼフ・キャンベルの調査した英雄の神話的元型における重要証拠Aになるかもしれない」とキャンベル氏まで引き合いに出しておりました。
2007年07月22日
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