2011年10月09日

He who made a difference.

 … 自分はひねくれ者なので、世間で話題になっていることの後追いみたいなことを書くのがきらいときている。最近どうにも時間がとれなくて ―― というかヤボ用が多い、と言ったほうがいいかな ―― 書きたいことはあいかわらずあって、そろそろ『航海』関連のこととか書きたいなとか、今週の NHK-FM 「ベスト・オヴ・クラシック」のこの時期恒例「欧州古楽週間」の放送の感想とかも書きたいなとか思っていても、あっという間に時間がなくなってけっきょくボツにしてしまう、ここのところずっとそんなことの繰り返し。でも最低限、「週 1 回」くらいで投稿というペースは守りたいと思っていますので、本日もたいしたものじゃありませんが書かせていただきます。

 先週はなんといってもカリスマ経営者だったスティーヴ・ジョブズ氏が亡くなった、という一報でもちきりみたいな感じでしたね。なのでほかのことはまたのちほど、ということにしまして、「個人差のある」卑見なぞをすこしばかり。

 きのう見た「海外ネットワーク」で、ゲストのダニエル・カールさんはジョブズさんを ' visionary ' だったと評してました。芸能関係者のみならず、DTP や DTM 、とくに CG でなにかをこさえるといったいわゆる creative と呼ばれる仕事に携わる人にとって、パソコン = Mac という印象があります。そしてほかならぬ「個人向け」コンピュータというのを世界に先駆けて開発して売り出したのがジョブズさんたちの仲間が起業した Apple Computer ( 当時の呼称 ) 。あいにくワタシは Mac とはあんまり縁がなかったけれども、たしか1994年ごろだったか、三省堂書店にて 1 台の Mac を見たときはちょっとおどろいた。当時の汎用 OS は Windows ではなくて、まだ MS-DOS 機が主流だった時代。そんななかで鮮やかなグラフィカルインターフェイス、マウスによるかんたんで「直感的な」操作性をそなえた Mac はひときわ「ちがって」見えたことを憶えている。もっとも値札見てぶっとんだのは、言うまでもないが … ( 苦笑 )。またおなじころ、『風景写真』という雑誌があって、巻末のほうに「Mac を使ってリヴァーサル原版をデジタル化」みたいな記事があった。記事で紹介されていたその人はアマチュア風景写真家で、ブローニー判や35mm 判で撮影した画像をせっせとスキャンして Mac に取りこみ、デジタルアーカイヴ化していた。なにしろ当時のことだから、これだけの作業をぜんぶひとりでこなすのは一大事。母艦の Mac はじめ、どれもコモディティ化しておらず、しょせんワタシにとっては高嶺の花、指をくわえて「世の中、すごい人がいるもんだ」と感心するばかりだった。

 ジョブズさんの経歴についてはくわしい人が思い思いに書いているからそちらを参照していただくとして、言動とか見てまして以前からこの人、時代の最先端をゆく企業のトップにしてはなにかしら異様というか、あきらかにちがう空気をもった人だと感じていた。孤高の求道者というか。デザインや操作性にたいする徹底的なこだわり、感性の鋭さなんかはたんなる天才肌の理系人間とはまるでちがうぞという印象を抱いていた。今回、ジョブズさんの訃報にさいして、若かりしころになんと「禅」にはまっていた、なんて話を聞きまして、合点がいったしだい。なるほど、あのギリギリまで無駄を削ぎ落した優美なデザインの発想源のひとつは、禅の思想にあったのか、と。

 またジョブズさんは自身が大学を1年ほどで中退したからなのか、世の中の大人たちの作った既成概念というものにたいへん skeptical な人だったようです。とにかく「常識を疑え」、と。たしか Apple に復帰した当時、流れていた Mac の宣伝文句が、' Think different. ' だったように思う。これもその一種の「反骨精神」の現れだったのかもしれない。初代 iPhone お披露目のプレゼン動画とか見たことがあるけれど、例の出で立ちで登場し、自信満々に「キーボードもマウスもない。ではどう操作するのか? そうだ、指だ! 」と説明するさまは、まことに compelling というか、とにかく聞く者をぐっと惹きつける説得力に満ちていた。「こんなもん売れない」なんて言っていた国内のキャリアだって、いまじゃどうですか。そこがその「売れない」と思っていたはずの iPhone の軍門に下っているというのは、なんとも皮肉な展開ではある。そしてそこから出るという iPhone 4S は、ちょっと食指をそそられる ( 笑 ) 。

 ジョブズ「語録」にも反骨精神というかそんな信念がにじみ出ていたようにも思う。たしか「個人が動画や音楽の編集をもっと楽しめるようにすること」も製品開発の目標というか、ヴィジョンとして持っていたようなことも聞いた。で、最近流れている iPad 2 の TV CM なんか見ても、やはりそういう信念が感じられる作りになっている。「 … わたしたちは会議に出て、ホームムービーを作り、あたらしいことを学ぶだろう。しかしその方法は、もはやおなじではない」。それにしてもオバマ大統領の追悼の辞は簡潔にしてじつに言い得て妙だと思った。とくに ' By making computers personal and putting the internet in our pockets, he made the information revolution not only accessible, but intuitive and fun. ' というくだりなんかは。 ジョブズさんとその仲間たちの功績をひとことで言えば、「インターネットをポケットに入れて持ち歩く」ことを可能にして、しかも「直感的で楽しい」 IT 革命だった。たしかに! 

 ジョブズさんがたんなるアタマでっかちのテクノロジー・ギークじゃなかったことはたしかだと思う。でもジョブズさんもやはり自分の立ち上げた IT 企業の経営者。競合他社にたいしては容赦なかったし、また自社製品を製造する工場では周辺環境への配慮があまりなかったとかいわれる。iPhone 製造の委託先での社員の労働環境もいっとき問題になったりしたことがありましたし。もっともこれは経営者の問題ではなく、形を変えた「帝国主義」的な米国型グローバリゼーションのひずみの問題だとは思うが … いま「農本主義者」ウェンデル・ベリーの古い著作を読んでいるから、よけいにそう感じるのかもしれない。

 ジョブズさんが世に送り出した製品はある種革命的で、たしかに世の中を便利にし、世の中の「仕組み」そのものも変えたかもしれない。でもベリーやマッキベンの著作 ( 最新刊の Eaarth もすこし読みだしたところ ) なんかを読まなくても、いまのわれわれを取り巻く情勢はけっして楽観視できないギリギリの崖っぷちであることには変わりはない。ようするに、不要不急なモノをもちすぎている。そのために地球そのものにたいへんな「負荷」をかけてしまっている。われわれは、しょせん「仮住まい」のはかない現し身でしかないのに。いつまでも「経済成長」前提の経済構造ないし社会がつづくわけもない。石油だっていずれ枯渇する。温暖化はさらに加速している。大震災と原発事故もある。放射線の影響は、子々孫々までつづく。ではどうすればいいのか? と、ひとりひとりが真剣に向き合わざるを得なくなっている、という気持ちがますますつよくなっているのもまた事実。

 そういうときこそ、ジョブズさんのつぎのことばがヒントになるかもしれない。これも何度も TV で流れたから、いまさらという向きもいるとは思うけれども。2005 年、スタンフォード大学の卒業式で送った餞のことばの掉尾です。この部分、なんとなくヨーダのような、キャンベルのような … ↓

“Your time is limited, so don’t waste it living someone else’s life. Don’t be trapped by dogma − which is living with the results of other people’s thinking. Don’t let the noise of others’ opinions drown out your own inner voice. And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.”

( ↑ の引用元はこちら )

R.I.P. Steven P. Jobs.

追記:いまさっきこんな記事を見つけました。え、Einstein : His Life and Universe ? 著者が Walter Issacson ?? これってあの「機械翻訳」で出版したとかで回収騒ぎになったという、あの本の原著者じゃないですか。こういう原本はおそらくどこかが邦訳版権を押さえているはずなので、こんどは原著者にたいして非礼失礼のないように願います。そういういいかげんな「やっつけ仕事」を人一倍きらっていたジョブズさんにたいしても失礼ですしね ( 後記:講談社から邦訳本が発売されることがすでに決まっているそうです。早っ! ) 。

posted by Curragh at 20:59| Comment(0) | TrackBack(0) | おくやみ
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