2007年09月08日

こんなものまであるとは

 最近ちっともアクセスしていなかったYouTubeをひさしぶりにのぞいてみました(NHK-FM「ジャズ・トゥナイト」でパット・メセニの新譜を聴きながら書いてます)。

 アクセスしたとき、ふとバッハのオルガン作品名で検索したら(いまや検索はGoogleエンジンですね)どんなのが出てくるのかな…と思ってためしにやってみると、オルガンなんてマイナーなジャンルなのにけっこう出てくるではないですか。

 なかにはあきらかに――投稿された国の現地法でもおそらく――著作権法に抵触しそうな動画もありますが、すでに絶版になりお蔵入りになっていたであろうTVの音楽番組の録画から抜粋したものとか、YouTubeでなければ一生(ちょっと大げさか)、目にすることはなかったであろう貴重な映像もあります。たとえば往年の名手カール・リヒター。たしか国内盤アルバムとして発売されているのはスイスのベルン――またしても著作権がらみな地名――だかどこかの大聖堂のオルガンを使った録音と、デンマークのマルクッセン社が建造した現代楽器を使った録音くらいのものだと思う。ところがリンク先の動画を見てびっくり!! 南ドイツ・オットーボイレンのベネディクト会修道院教会にあるリープ作の歴史的銘器(内陣聖職者席と一体化されたデザインのオルガンで、セントポール大聖堂の内陣オルガン同様、ふたつの楽器がたがいに向き合っている。リヒターの弾いたのは「聖霊オルガン」なのか「三位一体オルガン」なのかは不明)を弾くリヒターの姿! 感動で鳥肌さえ立った。つづくフーガの演奏では足鍵盤の速いパッセージの弾きぶりが印象的ですが、ナポリの6でいったん終止したあとに怒涛のごとく雪崩れこむコーダではカプラーで手鍵盤を連結しています…ふたつの鍵盤を物理的に連動させると当然鍵盤は「重く」なるので、指にそうとうな力を入れて弾いているはずです。リヒターついでに、おなじ場所で収録したらしいモダンチェンバロの演奏もありますね。

 しかしこれっていったいいつごろ収録されたものなんだろうか…コメント欄には晩年のものらしいことが書かれてあるけれど、とても信じられない(晩年のリヒターは分厚い眼鏡をかけていた)。髪の毛もふさふさしているし、肌のつやといい全体的にとても若々しい。

 弾き方はたしかにいまからするとやや古風かもしれない…でも手許のCDやテープで聴いていたのとおなじ「トッカータ BWV.565」でも、不思議なことにずいぶん印象がちがう。マルクッセンの楽器で録音した演奏よりこちらのほうがはるかに今風というか、違和感がないのはなぜなんだろう…響きの美しさのちがいもあるかもしれない。オットーボイレンのリープオルガンはトン・コープマンほか、さまざまな名手たちが名演を録音してきた楽器ですし、残響も長くて圧倒的。それにしてもこの楽器、演奏台もはじめて目にしたけれど、どのへんに組み込まれているのだろうか…楽器本体の基壇部分がアーチ状に刳りぬかれていて、そこに演奏台が収まっている感じ。

 オルガンつながりではほかにもいろいろあったけれども、リヒターについで印象に残ったのはコープマンが弾くフライベルク(Freiberg、黒い森近くのフライブルクではない)大聖堂のゴットフリート・ジルバーマンオルガンの映像。コープマンの弾く「小フーガ BWV.578」は何回か実演に接したことがあるけれど、どこの楽器で弾いてもあいかわらずせかせかテンポが速いなー(笑)。おそらくこの人の演奏する「小フーガ」はいままで聴いたさまざまな演奏のなかで最速だと思う。3分くらいで終わっちゃいますし。こちらの楽器もハンス・オットーが弾いた盤をもってますが、おなじ楽器を使用した演奏とはいえ、ストップの組み合わせもぜんぜんちがうし、演奏者によってずいぶんと印象が変わるもんだなーと当たり前ながら思ってしまいます。

 「フーガの技法」はどうなんだろ…と思って検索したらこちらもそこそこ出てきました…出だしの「基本主題による4声単純フーガ(Contrapunctus 1)」。クラヴサンで弾いたのとピアノで弾いたのを見ましたが…ピアノの人、すごい! だれだこのGenなんとか言う筋骨隆々の演奏者は? グールドばりにやたら遅い演奏…でもすこぶるいい! さっそくお気に入りに追加(笑)。

 また「12度の転回対位法による基本主題と新主題の二重フーガ(Contrapunctus 9)」を弾いている方の動画。鍵盤の真上から撮影しているので、運指法の勉強にはなるかも。とはいえこんな超絶技巧のフーガとなると、なかなか素人にはおいそれと手は出せないが…。

 またオルガンコラール「いざ来ませ異邦人の救い主よ BWV.659」も好きな作品なんですが、コープマンの演奏(使用楽器はおなじフライベルクのジルバーマンオルガン)とこちらの方の演奏とを比較すると、指使いのちがいがわかってたいへん興味深い。後者は伴奏声部をすべて左手で弾いているのにたいし、コープマンは定旋律の出番がないときは上のハウプトヴェルク鍵盤へ右手を移動していっしょに弾いている。もっと複雑なコラールになると、定旋律を弾きつつ上または下の鍵盤を同時に弾く、なんてこともあります。こちらの曲はスコアをもってないのでなんとも言えないけれど、やはり手を移動して(手鍵盤変更)弾くほうが楽だし当時の指使いにも近いと思います。

 MySpaceもそうだがYouTubeもアマチュア演奏家にとってはかっこうの発表の場でもある。たとえばこちら。一生懸命さが伝わってきていいですね。コメント欄にもあるとおり、いまいちレジストレーションが単純なのと、フーガ主題のアーティキュレイション(とフレージング)をもっとつけたほうがいいですね。で、こちらの動画は…なんだかよくわかんないけれどちょっとコミカルというかおかしい。場所は自宅の一室のようにも見えるが…スピーカーから音を出すチャーチオルガンで弾いているのだろうか。でもただでさえ弾きこなすのが難儀なこのトッカータを――足鍵盤も弾いて――これだけ弾いているのはたいしたもの。コメント欄を見ますと…「リードストップを使っているのは好感がもてるけど、もうすこしゆっくり弾けばミスタッチももなくなるのでは」、「自分はこの曲をオランダの教会にある33ストップの楽器で録音して公開している…でもみんなこの作品のもっとも精緻な部分、つまりフーガを捨てていることが多くてすごく残念。それ以外はいい。音もいいね」。ちなみにこのコメントを書いた人はプロのオルガニストで、動画を拝見しますとこっちも負けずに速い。「大フーガ BWV.542」の演奏もさすが、安定していますね。

 それにしても…みんな大まじめに書き込みしているなぁ…リヒターの動画なんか、いちばんの問題はストップ出しすぎで風圧が下がり、あきらかに音高が下がっているだの、かかとを使った足鍵盤の奏法が時代を反映しているだの、いやあれは背の高さゆえにすぎないだの…。

 投稿者本人の演奏ならともかく、この手の無断の二次配信についてはたしかに著作権の問題をどこで線引きするかという問題はありますが、見るほうとしてはやはりこちらの方の意見に傾いてしまう。

 It is a treasure to be able to see and hear this great musician as he played in his youth---great energy, musicality and depth(heは早世したリヒターのこと).

 日本のTV局サイドはYouTubeを映像コンテンツのゴミ捨て場のごとく批判するけれど、そう言いながら最近ではTV局側がそんなYouTubeで世界中に配信された映像をネタにする場合が多いというのは、矛盾しているような気がしますがね。ほんとうに問題なのは、著作権がビジネスになり、ほんとうに権利を守られるべきクリエイター本人の権利保護にはかならずしもなっていない点にあるように思う。あるていどの開放というか、public domainという発想が必要ではないかといつも感じています。

 最後にこちらの心なごむ動画を。NBCのニュースでも取り上げられたほど有名になったので、ご存知の向きも多いかも(また最近のデジカメにはYouTubeに投稿しやすい動画形式で撮影する、なんて機種まであるみたい→関連記事)。

posted by Curragh at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | Web関連
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