2012年03月19日

パディントンの命をつないだマーマレード

 昨年暮れ、クリスマス時期に放映されたこちらの番組。英語初学者 ―― いや、万年初学者 ?  ―― だったころ、全巻ではないけれど読んだことのある『くまのパディントン』シリーズの原作。ぼんくらなワタシはこれらを見て、児童文学って奥が深い、そして意外とむつかしい … と感じたものです ( ただたんに読解力がなかっただけだが ) 。「どうぞこのくまのめんどうをみてやってください おたのみします」はすばらしい名訳 ! だと思っているんですが、とにかく懐かしさもありまして、とりあえず録画していたのです ( 年末はなにかと忙しいから、見ていられなかった ) 。で、やっと先日、録画を見たんですが … おどろきました! パディントンが首から下げていた荷札のあのことづてに、作者マイケル・ボンド氏の体験した忘れられない悲しい思い出がこめられていたとは … 。

 子グマのパディントンはご存知のように、ロンドンのパディントン駅構内で例の荷札を首からぶら下げて佇んでいたところをブラウンさんの奥さんに拾われ、ブラウンさん家に「居候」することになり、そこでさまざまな騒動を繰り広げる … という筋立ての物語。ペルーの「老グマ園」にいるルーシーおばさんに送り出されて「密航」して英国までやってきたとき、パディントンの命を文字どおりつないだのがあの大好物のマーマレード。今年 86 歳になられるボンド氏にとって、あれは少年期の忘れられない光景が下敷きになっている。当時、ロンドン大空襲から疎開してきた子どもたちが、パディントンとおんなじように名前と住所が書かれた紙札を首から下げて、大切なものをいっぱいに詰めこんだ鞄を持っておおぜい佇んでいた … と言います。そうなのか、あの出だしにはそんな原体験が投影されていたとは … 「殺し合いから逃れてきた人々を見るのはいたたまれませんでした」。ボンド氏の両親も、ナチス・ドイツから逃れてきたユダヤ系の子どもふたりを預かっていたという。はじめてパディントンを見たブラウン夫人が、「クマの首から下がったあの札を見て、同情する。ここが、重要なんです」。

 'PLEASE LOOK AFTER THIS BEAR Thank you.'

この一文にこめられた原作者の深い深い「思い」が、ようやくわかったように感じたのだった。

 それにしてもボンド氏はお元気だ。きっと奥様手作りのマーマレードのおかげなんだろう。『くまのパディントン』シリーズもなんと 55 年目 ! だそうで、たいへんなロングセラーだ。そしてなんと、番組が放映された昨年暮れも、ボンド氏はパディントンの最新作を 7 か月かけて執筆していた ! 執筆シーンも見ましたが、昔タイプライター、そしていまは Macbook と iMac が執筆道具なのですね !! 最新作って邦訳が出るのかどうか知りませんけれども、これはぜひ原本で読んでみなければ。『くまのパディントン』シリーズは、なんと全世界で 30 か国語以上もの翻訳が刊行されているという。ボンド氏いわく、「いまの世の中は急激に変化しています。パディントンは変わらないからいいのです。居場所もあるし、自由です。読者はそんなところに憧れを抱くのでしょう」。これを聞いて頭に浮かんだのは、サザエさん一家。あれだって変わらないから、いいんですよね。パディントンとよく似ている。ちなみにパディントンは典型的な英国紳士だと思う。まず彼は、自分のことを子どもだと思っていないふしがある。言葉遣いもいいし礼儀正しい。よれよれの帽子に、ダッフルコート。この微妙なアンバランス ( 正確には、インバランス ) さが受けたのかもしれない。'trick cyclist' なる俗語も、くまのパディントンから教わった ( 意味は「精神科医」、つまりアタマを診るお医者さん ) 。もちろんパディントンは真に受けて、「はやく自転車曲乗りを見せてください ! 」とせっつく ( 笑 ) 。こういうすっとぼけた英国流ユーモアがこのシリーズの特徴でもある。

 料理ものにはとんと疎いワタシは、英国「伝統」のマーマレードというのが苦いセビルオレンジが原料だということも知らなかった ( そういえばきのう、NHK-FM で MET によるロッシーニの「セビリアの理髪師」がオンエアされていたけれど ) 。セビリア ( 厳密に表記すればセビーリャか、セビージャ ) … とくると、『語源論』の聖イシドール ( イシドルス ) 。 アイルランド人修道士はこれをせっせとラテン語訳した。そして、パディントンの命をつないだマーマレードの原料セビルオレンジの原産地であるそのセビリアに、この前ハイドン作品の実演に接して感動した、鎌倉のグロリア少年合唱団が公演を行う、というわけなんですね。

 … しかしあの「ゆずのマーマレード」っておいしそうだな。柑橘系のワインとか西伊豆でも観光用に売り出しているけれど、「ゆずのマーマレード」ってあったかな ?? 

posted by Curragh at 22:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 日々の雑感など
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