2007年09月22日

'Thin-Computing'って?

 先日のNYTimes技術関連記事から。情報技術分野では、あたらしい市場の火付け役となったり人々の行動を一変させるような技術革命は単独では出現せず、そういった革新があるていど蓄積されたあとで出現するもの。言ってみれば個人芸のソロではなく、「シンフォニー」。たとえば革命的とも言える個人使用のコンピュータ(PC)を可能にしたのはチップとソフト両面で長年にわたり進歩しつづけた結果だし、インターネットも数十年の試行期間を経て、多くの人が安価なPCに高速回線、高性能ブラウザを手に入れられるようになって爆発的に普及した。おなじことがnetwork computer, またはthin-client computerにも言えるとつづき、1990年代はさっぱり普及しなかったこの市場もこの10年の飛躍的な技術革新により、ようやく当初の構想が実現してきた…とあります。最初、このthin-client computer/thin computingという語を見て、てっきり「いまはやりの軽量薄型PC」のことかと早合点してました。そうじゃなくて、最近はどこの職場でも見かけることの多い、構内LAN経由でホストサーバーと結ばれた「安価で、セキュリティ面でも堅牢で、障害にも強い」コンピュータネットワークシステムのことでした。

 Wikipediaこちらの記事を見ると、おおまかに1). ネットワークブート、2). サーバーベース、3). ブレードPC、4). 仮想マシンの4通りがあるみたいです。そういえば以前、起動に失敗した職場のノート型クライアントマシンのエラー表示を見たら、'PXE-E51: No DHCP or BOOTP offers received'とかなんとか、こんなメッセージが出ていて、あとで調べてみたらどうも「Intel社のPXEネットワークブート型」のthin-clientシステムらしい。自分はSEでもなんでもないし、一介の末端人員にすぎないのでじっさいのところよくわからないが、Timesの記事を見てそのときのことを思い出した。

 たしかに何百台というPCをただつないだだけでは投資金額はべらぼうな額になるし、セキュリティ上なにかまずいことがあったらそれこそ一大事で復旧するまでこれまた膨大な手間とお金がかかる。だから「稼動OSもアプリもすべて中央サーバーで一括管理、LANでつながった子機(クライアント)には必要最低限の機能のみ」のほうが安上がりで維持管理がしやすいことはずぶの素人にだってわかる。とはいえまだ技術水準が追いついていなかった時代では、かつてのインターネットと同様、永らく研究開発はつづけられてきたけれどもなかなか当初の思惑どおりにはことは運ばなかった。けれどもここへきてチップセットの高性能化と低価格化が同時に進み、ブロードバンド環境が普及したこともあって、ようやく最近になってあらためて「古くてあたらしい」thin-computing技術があらたな市場として注目されるようになった、ということらしい。表計算などのオフィスアプリだって、バカ高い某社のソフトを買い込まなくたって、無償のOpen Officeや、あるいはまだ試験段階だがGoogle提供によるWebベースで走るまったくあたらしいサービスだってありますし、この点ではAjaxをはじめとしてWeb2.0の技術も一役買っている思う。たとえば医療機関で使用されるPC。以前はMRIなどを描画するグラフィック性能上の限界から、この手のthin-computingには不向きだと思われていたけれども、いまや安価なthin-clientマシンに相当数が置き換え可能になったとか、カリフォルニアのメリーズヴィル市警もノート型の――文字どおり「薄い」――thin-clientマシンをパトカーに搭載して州警察とのやりとりに活用しているとか、ダイエット商品会社も社内の全PCをthin-clientに切り換えたとか、米国での導入事例がいくつか紹介されています。コスト面ではほかにも、PCにくらべて格段に消費電力が少ないこともこの手のシステムの大きなメリット。環境にもやさしいというわけ。

 たしかにマシンじたいの価格差はたいして開きはない…のですが、維持管理にかかる費用で大きな差が出ます。記事にもあるWyse Technologyという会社はこの筋では最大手らしくて、個人向けPCの大手ヴェンダーであるHP社もこの手の会社の買収に積極的に乗り出しているとか(→関連記事)。つまりは

 ...: thin-client computing was a market that could not be ignored.

なのです(ちなみに記事中の画像に出てくるノート型thin-clientマシンはHPに買収されたNeoware社の製品みたい)。

 と、ここまで読んではたと気づく。こういう小回りのきいたというか、さらなる使いやすさを提供する商品とかサービスの開発って日本のほうが米国より秀でているんじゃないのか…と思っていくつか当たってみたら、売り込みはしているみたいです。たとえば日立とか、NECにもそういうラインアップがあるみたいですね(余談ながらIBM製のHDD、デスクスター/トラベルスターは何年か前に日立の一部門HGSTに買収され、PCショップに行くと日立のロゴのついたバルク品を見かけますが、HGSTはかなりの赤字つづきで苦戦しているみたいです)。

 昨年、けっこう話題になった「山田ウィルス」は、けっきょく「端末マシンにはデータを置かない」これらのthin-computingシステムではなく、ごくふつうのPCを職場で使用していたために引き起こされたということも被害を拡大した背景としてあると思う。私企業のみならず医療機関、警察、学校でも守秘義務というのは当然あるのだから、職場(仕事)で使う端末は個人が勝手に怪しげなソフトのインストールのできない、HDDすら内蔵しないこの手のthin-client方式にすべて切り換えるべきではないかなとこの記事を読んで思ったしだい。記事にも'No sensitive information, like criminal records, is stored on a notebook, which could be lost or stolen. “From a security standpoint, it’s wonderful,” Lieutenant Kostas said.'と書いてありますし。

 …とはいえ基本的な疑問なのだがこのthin-computingシステムって本家本元の中央サーバーが倒れたらどうなるんだろうか? まさかクライアントごと共倒れ…なんてことはないとは思うけれども。そう言えばいつだったかさるblogを見たら、大家のサーバーがこけたらしくて、「記事が消えるなんてことがあるんだ!」と慨嘆まじりに綴っていました。

 ほかのサービスではどうだかわかりませんが、いちおうここの大家(さくらのブログ)には「MTインポート/エクスポート」というツールが用意されていて、これで自分のマシン上にMTファイルをバックアップしたり、またそれを大家に転送できるみたいです…大家が倒れた場合、じっさいにはどうなるのかさっぱりですが…こんな駄blogでも記事数があるていどまとまってくると、やはりアーカイヴとしての価値というか、自分の書き残してきた記録でもあるし、これがいっぺんに消滅したらやっぱり本意ではないですし。みなさんも一度、利用しているサービスでバックアップが取れるかどうか、確認してみるとよいかもしれません――老婆心ながら。

posted by Curragh at 23:45| Comment(2) | TrackBack(0) | Articles from NYTimes
この記事へのコメント
技術的なことは疎いのですが、バックアップの重要性だけはずっと身にしみていた・・・はずでした。
が、ブログのバックアップはとっていなかったことに気づき、慌てて確認したら、とれました!
まあ、リンクしているファイルやなんかは魏勢になってもやむを得ませんけれど。
おかげさまで、でした。ありがとうございました。

閑話休題

カルミナ・ブラーナについてろくな資料に巡り会えないので、目を皿にしていたら、こんなサイトを見つけました。

http://www.medieviste.org/

私のような者には、これくらいしか当てに出来る、信頼できそうな「資料の揃った図書館」はないのですけれど、Curraghさんの目からご覧になっての評価はいかがなものか、お暇なおりにご教示頂けたら幸いに存じます。
この中のArchiveを、けっこう頼りにしてみたのですが・・・
Posted by kan at 2007年09月23日 17:41
さすがKenさん、またすごいサイトを発見されましたね。さすがはその道のプロ。面目躍如といった感じです。

カルミナ・ブラーナについては、ゴリアールと呼ばれていた「放浪学生」たちの戯れ歌集であること、大多数はラテン語歌詞だがなかにはドイツ語やオイル語といった俗語歌詞が付されているものが含まれること、かなりの数が復元可能であること、ミサ曲のパロディまであること…といった通り一遍のこと(いやそれ以前)のことしか知りません。

ご紹介していただきましたサイトのpdf資料はまだすべてに目を通していませんが、エロイーズとの恋愛沙汰で有名なアベラールもゴリアールなんですか…。いずれにせよ中世ヨーロッパの「放浪学生」がいまの世界にひょっこりやってきたら、あまりの拝金主義の跳梁跋扈ぶりにさぞ驚くことでしょう。

しかもクレティアン・ド・トロワなんかも出てきたり、修道院制度の変遷についても割いていますね。音楽がらみではヒルデガルトにも言及されたり。一読した感想としては、とてもよくまとまっている…と思いました。

ただ、西欧における修道院の歴史については修道士と在俗組織である司教区・在俗参事会との確執、またおなじベネディクト会則を採用しながら方向性の異なる「改革修道院」クリュニーとシトー会(函館のトラピスト修道院は後者の流れを汲む「厳律シトー会」のもの)そしてドミニコ会やフランシスコ会などの托鉢修道会との相違点をあるていど知らないとなにがなんだかさっぱり、ということになるかもしれません。修道院史としては、最近読んだK.S.フランクの『修道院の歴史――砂漠の隠者からテゼ共同体まで』という本がわりととっつきやすかったです(この手の本は高度に専門的なものが多いので、一般読者向けに書かれた本というのは貴重な存在です)。
Posted by Curragh at 2007年10月02日 02:02
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