2012年04月30日

受難曲、オランダの歴史的オルガン、レオンハルト

1). 先週の「古楽の楽しみ」は、「ドイツ・バロックの受難曲」特集。月曜の朝、のっけから案内役の磯山先生が、「復活祭を過ぎているけれども、お許しをいただいてお送りします」。額面通りに受け取ると、だれか文句つけた人とかいるのかしら ? べつにすこしズレたっていいじゃない、音楽なんだから … と、こんなこと書くと信徒の方からお叱りを受けそうだが。

 ドイツバロック教会音楽における「受難曲」というジャンルは、格別のものがあると思う。古くはシュッツの作品とかよく演奏されたりするけれども、ここで磯山先生はとくに「北方ドイツ起源の」ルター派典礼における受難曲、とくに「オラトリオ受難曲」の変遷を時代順に作品を紹介しつつ丁寧に解説されていた。

 でも個人的にはこの記事にもあるように、受難曲という形式そのものの起源はそうとう古く、中世初期のいわゆる「神秘劇」にまで遡ると思う。神秘劇っていうのは、イエスの受難と十字架上の死、そして復活を再現した典礼劇のこと。たとえば英国の大聖堂ではヴォールト天井のてっぺんに穴が開いていて、そこから子どもの聖歌隊員扮する天使が下ったりといった手のこんだ演出がされていたという話を読んだことがあります ( → 関連拙記事 ) 。いずれにしてもヨハン・クリストフ・ローテなる人の「マタイ」とか、フリードリヒ・ニコラウス・ブラウンスという人の「マルコ」とか、ふだん耳なじみのない作品ばかりで、楽しかった。ちなみに磯山先生の解説によるとなんとなんとこの「マルコ」、以前ラインハルト・カイザー作とされてきた通称「ブロッケス受難曲」なんだという !!! それほんと ? とちょっと調べたら、こんなすごいページがありました ( 「2009.10.16 (金) W. ヨハネ受難曲をめぐって――15」の項目 ) 。言い出しっぺはクリストフ・ヴォルフ先生であられるか。

2). ところでいまひさしぶりに Pipedreams サイトで聴いているんですが、最新のオンエアはこれまたうれしいことに、「オランダの巨匠たち」。オランダのオルガン音楽、とくるとまっさきにヤン・ピーテルスゾーン・スヴェーリンクが思い浮かぶんですが、もちろんほかにも当時有名な人というのはいるわけで、ふだんなかなか耳にできない貴重な音源をこれでもかというほどの大盤振る舞い ( 笑 ) 。オルガン音楽好きにはまったく、たまらない。これぞ至福のときと云ふべきか。

 オランダの当時の楽器って、小型中型のものは建造家の個性が出ていておもしろい意匠の凝らされた楽器がけっこう残っています。演奏台が真正面ではなく、なぜか側面にくっついていたり、ストップノブがどういうわけか譜面台のてっぺんのほうに横一列に並んでいたり ( 操作しずらそう … ) 。たいして大型の楽器は「ブラバント型」とか「ニーホフ型」とか呼ばれるタイプが残っていて、巨大な「ペダルタワー」が両側にそそり立っている場合が多い ( シュニットガーの楽器でもそんなタイプの楽器、たとえばハンブルクの聖ヤコビ教会の楽器とかあるけれど、規模がまるでちがう ) 。たとえばこのハーレムの聖バーヴォ教会のミュラーオルガン。プロスペクトと呼ばれる「外装用パイプ」を収めるケースの高さは、なんと 30m にも達する。今回のプログラムでは、ヴァルヒャの弾いたアルクマールの F.C. シュニットガー改作の大型楽器とかも登場します。主鍵盤とポジティフ鍵盤が物理的に分離している場合がほとんどで、現地でその響きを聴いたことはないが、レオンハルトが最後の来日公演で弾いてくれた明治学院チャペルのオランダバロック期のレプリカ楽器のように、心地よいステレオ効果をもった音響だと思われます。天井が木造の会堂が多いため、残響はそんなにはないかもしれない。そのぶん、鍵盤どうしの対比効果は明瞭に聴き分けられるはずです。

 当時のオランダの教会って改革派、カルヴァン派がほとんどだから、教会音楽もルター派のように「会衆みんなで参加してコラール」、なんていうふうには発展しなかった。反対に、それを埋め合わせるかのようにオルガンの自由な即興演奏は長いこと認められていて、それがスヴェーリンクのような名人芸を売り物にするオルガニストを輩出し、まだ音楽後進国だったドイツからスヴェーリンクの名声を伝え聞いた弟子たちが大量に押しかけていった … ようです ( だからといって、この前の「音楽遊覧飛行」の DJ のように、スヴェーリンクを評して「ジミ・ヘンドリックスみたいな存在だったのかな」というのは、いやはやなんとも … ちなみにそのときかかっていたのは「大公のバレット ( Variations on Balletto del granduca ) 」で、鬼才ブリツィのクラヴィオルガン版でした。原曲は、Pipedreams のこのストリーミングで聴ける。演奏者はピート・ケー ) 。スヴェーリンクの有名な弟子にはザムエル・シャイトもいて、有名な変奏曲「わが青春はすでに過ぎ去り」も、シャイトから聞いたドイツ古謡の旋律にインスピレーションを得て作曲したとか言われてます ( → 関連拙記事 ) 。ちなみにレオンハルトも永らくオルガニストを務めていたアムステルダム新教会の楽器がそのニーホフという建造家の製作した楽器で、スヴェーリンクの音楽をよく響かせるにはこのニーホフ型の楽器がもっともふさわしい、ということになる。そしてペダルタワーが大型化するにつれ、それまで爪先だけで補助的に演奏していたにすぎない「プルダウン式」足鍵盤もしだいに大型の鍵盤に代わり、やがて両足を華麗に使ったブクステフーデのような北ドイツオルガン楽派が発展します。足鍵盤の音響が著しく発達したのもネーデルラント - 北ドイツオルガンの特徴。カトリック勢力の強かった南ドイツの楽器では、足で弾く鍵盤の役割は北ドイツほど発達せず、いまだ「プルダウン式」か、「奥行きの短い」補助的な足鍵盤が主流だった。

 番組ではオランダゆかりの故レオンハルトの演奏した音源もかかっていて ( この音源は持ってる。曲はスヴェーリンクの「主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる」による 4 つの変奏 ) 、今回、はじめてどこの楽器を使用していたのかがわかった。カンペンにあるこの巨大なオルガンだった。なんて心に染み入る、いい音色なんだろう ! と、この音源を聴くたびに思ってきたのですが、なるほどここの楽器だったわけだ。

 ちなみにレオンハルト氏の葬儀はここでとり行われたようですが、こちらのブログでは、「なんで新教会とかオルガニストとして務めていた教会から送り出さないのだ ? 」と疑問を呈している。コメントとか見ると、ただたんに「新教会は国事行為以外では 30 年以上も使用されてないし、ヴァールセ教会は狭すぎる。選択肢として残ったのはその教会」ということのようです ( ちなみにこの記事によると、レオンハルト氏は癌を患っていたらしい。あらためて氏のご冥福を祈ります ) 。

 番組では DJ のマイケル・バローン氏が、「今年生誕 450 年を迎えるオランダの巨匠の作品の演奏者としてレオンハルト氏ほどふさわしい奏者はいない」みたいなことを言っていたが、そうか、今年はスヴェーリンク生誕 450 周年なのか !! 根が単純なので、ひさしぶりにレオンハルト校訂版「わが青春は … 」の楽譜を取り出してみようかしら … 。またバローン氏は、高校生のときに接したパワー・ビッグズの演奏から受けた強い印象についても述懐していた。

< 本文とまるで関係のない追記 >:こちらの記事を参考に ―― というかコピペしただけ ―― CSS 3.0 というものを一部、本家サイトに取り入れてみました。といっても日本語表記のほうではなく、横文字版のほう。見ていただければどこを変えたのか気がつかれると思います。ようするに、洋雑誌とかの書き出しみたいに、最初の文字をでかくしたかった、ただそれだけです。ただしこの属性に対応しているのは Google Chrome や最新版の Firefox など。Windows7 に搭載されている IE9 ではどうだか … 年季の入った XP ユーザーなので、このへんのところはよくわかりませんが。

posted by Curragh at 14:24| Comment(2) | TrackBack(0) | NHK-FM
この記事へのコメント
Win7&IE9で本家のドロップキャップを確認しました。予想通り、無視されています。CSS3については、WindowsでもMacでも対応が早いのはChromeですね。続いてFirefox、Opera、Safariといったところです。

なお、ドロップキャップは、CSS2の疑似要素「:first-letter」でも可能です。こちらだと、WinのIE5.5から対応しています(はず)。もちろん日本語のドロップキャップも可能です(Macでは文字化けしますが回避可)。
Posted by aeternitas at 2012年05月01日 13:44
aeternitas さん

わざわざご確認、ありがとうございます ! m(_ _)m

ドロップキャップと言うのですね。この年になるまで呼び方さえ知りませんでした ( 苦笑 ) 。それで思い出したのですが、紙の本にもいろいろな呼称がありますね。背、折丁、天小口、地小口、見返し、しおり紐、オビ、奥付 … こういった呼び名も、いずれ電子書籍がひろく普及するころには死語になってしまうのでしょうか … 。

せっかくの CSS3.0 でしたが、やはり互換性重視ということで、ご教示いただいた first-letter 疑似要素にてすべて代用することにしました。いちおう↓ も参考にしたのですが、段落ごとに適用したかったので、手っ取り早く span class セレクタで無理やり割りこませました。

http://www.web-liberty.net/improve/basis/css.html
Posted by Curragh at 2012年05月03日 20:49
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