畏友の Ken さんのこのすばらしいブログ記事を見ていただいたほうが、はっきりいって手っ取り早いのですが ( 汗 ) 、案内役の花井哲郎先生の解説のとおり、もともとこの典礼劇は 13 世紀初頭ごろ、ゴシック様式の大伽藍で有名なフランスのボーヴェ大聖堂にて、バビロン捕囚時代の預言者ダニエルと救い主のイエスとをむすびつけた筋書きの劇としてクリスマス時期に上演されたのがはじまりだったらしい。これが受けて、大陸中に広まったといいます。
前書きはともかくじっさい放送を通して聴いてみると、なんというか、マンロウなどの「ゴシックの音楽」と、遊び心満載の巷の流行歌をまぜこぜにしたような、じつに活発で明るい歌と器楽でした。コンドゥクトゥス、なんて聞くとなんだか重々しいですが、なんのことはない、いまふうに言えば行進歌で、王妃とダニエルの退場とか、そんな場面でにぎにぎしく歌われてました。ときおり持ち運びできる小型オルガンの「ポルタティフ」と思われる楽器の音色も伴奏に加わってました。花井先生によると、現存する最古の楽譜は 13 世紀のもので、おそらく即興的に複数の声部をつけて、「オルガヌム」つまりもっとも初期のポリフォニーとして奏でられたらしい。想像するだけで楽しくなる。すべて通して聴くと 1 時間以上にもなる大作なので、今回は前半のみかかりました。
この件について手許の資料のコピーをそのまま引用すると、
ボヴェから伝えられた 13 世紀初頭の<<ダニエル劇>>とフルーリから伝えられた幼児殺しに関する<<ヘロデ劇>>は、今や古楽演奏団体の ( 力を入れ過ぎている感も有るが ) 主要演目になっている。これらの劇の音楽は多くの聖歌を連ねて出来たものであるが、演劇に似て、行列と仕草を伴っていた。時に舞台、背景、衣装、聖職者から選ばれた俳優が用いられていた証拠を示す写本も、少数ながら有る。
これにつづいてヒルデガルト・フォン・ビンゲン作の非典礼用宗教音楽劇「諸徳目の秩序 ( c.1151 ) 」というのが紹介されてます。これはたとえば後年のモンテヴェルディの「倫理的・宗教的森」所収のモテットのような、いわゆる「道徳劇」だったらしい。
ワタシはこの手の中世ゴシックの大聖堂で演じられた典礼劇、とくると、以前読んだ少年聖歌隊員の歴史本の影響なのか、すぐ 'Quem quaeritis in sepulchro' 、「墓でだれを探しているのか」 と天使に扮した子ども聖歌隊員の話とか思い出す。「ダニエル物語」が降誕節の劇だったのにたいし、こっちは読んでわかるように復活祭用。なんでも大聖堂のあの高いヴォールトアーチ天井に開いた穴から宙吊りになって降りてきたりと、かなりのスペクタクルだったらしい。やらされた少年聖歌隊員は、そうとうな肝っ玉の持ち主だったんだろうな。→ 参考リンク。
ちなみにボーヴェ大聖堂は 1247 年に建設がはじまり、1272年に内陣が完成したときは、天井高が当時の欧州最高の 51 m にまで達したものの、さすがに中世の建造技術の限界で、完成後たったの 12 年であえなくヴォールト天井が崩壊してしまったという、いわくつきの聖堂。その後百年戦争などで遅々として再建は進まず、1569 年に高さ 153m に達する塔が交差部に完成したが、こちらもあっけなく倒壊してしまった。けっきょく当初規模での工事続行は不可能になり、ちっぽけな外陣のみが付け足された T 字型のヘンテコなかたちになってしまった。というわけでいまも、巨大な威容を誇る内陣のみがやたらと目立つ、奇妙な外観の大聖堂になっている。おそらく「ダニエル物語」が上演されたころは、巨大な内陣の工事の最中だったのではないかと思います (現在の内陣天井高は 48 m で、これはケルン大聖堂よりも高い)。→ ボーヴェのサンピエール大聖堂。
… そのあとで聴いた「名演奏ライブラリー」は、往年の名フルーティスト、オーレル・ニコレ特集。カール・リヒターとのデュオで伝バッハの「フルートとチェンバロのためのソナタ 変ホ長調 BWV.1031 」やヴィヴァルディの「ごしきひわ」、シューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ イ短調」に、バッハの「組曲 第2番 ロ短調 BWV.1067 」などなど、盛りだくさん ! ニコレさんて、リヒターとおない年だったんだ。リヒターの早世が、いまさらながら惜しまれる。「3声のリチェルカーレ」ではなんだか生き急いでいるかのようなアップテンポの演奏だったが、「シチリアーノ」では、わりとゆったり目のテンポでしたね。そういえば次回の花井先生の出演する「ビバ ! 合唱」はなんと、今年が生誕 450 年の記念イヤーのスヴェーリンクの合唱曲特集 ! だそうで、いまから楽しみ。
関係のない追記。前にも書いたけれども SSD 、やっとのことで導入しました。いまのところはとくに問題はないですが、しばらくはようすを見ないと。HDD ほどではないけれど、それなりに発熱はするようです。導入したのは、CFD の 64GB 製品。電源とは反対側のいちばん端っこの 41 番ピンのみがはじめからなかったので、?? と思っていたが、そういう仕様らしい。電源側ピンにはジャンパまでついてました ( 2.5 インチタイプの HDD には、ふつうはジャンパ設定はなし ) 。SSD のいいところは、やはり起動が速いことですか。でも時代遅れの UATA133 ( IDE ) 接続なので、体感はこんなものかな、という感じ。それでもこの製品はキャッシュメモリを搭載しているためか、いわゆる「プチフリーズ」というのはないみたいです。そしてなんといっても SSD のいいところは、HDD 特有のあのカリカリいう騒音がいっさいないこと。「カッコーン」というあの大きな音は、心臓にはあんまりよくないですね。↓ は、PC 本体から取り外した現行 HDD と、SSD。
こちらの記事には私のなんか足元にもおよびません。映像集めただけですから。(汗)
たいへんお返事が遅れました。m(_ _)m
再放送を聴取したのですが、ダニエルが召喚された場面では、ラテン語ではなく当時のフランス語、つまり現地語でト書きがしてあるそうです。現存する写本は単旋律とト書きのみのネウマ譜らしいですが、おそらくほかの器楽とともに即興的に対旋律を追加して上演されたのではないか、ということです。Ken さんの紹介してくださった動画も見ましたが、番組でかかったものとはまたべつの解釈によるものと思われます。
この典礼劇が、日本風に言えば正月に当たる新年の「愚者の祭り」とつながっていることは、寡聞にして花井先生のお話を聞くまで気づいておりませんでした。orz