2012年08月10日

Paddington Races Ahead

 日本でも松岡享子氏の名訳で知られている『くまのパディントン』シリーズ。個人的にはもうひとりの世界的に著名な子グマ氏よりこっちのほうが好きなんですが、まだ英語初学生だったころ、無謀にも原書で読もうと一冊買ったものの、意外と ( ? ) むつかしい言い回しが多用されているのを見て辞書片手にびっくりしゃっくりした覚えがある。たとえば 'He produced 〜 .' みたいな言い方が、子ども向けの本なのにふつうに出てくる ( 意味は、〜 を「取り出した」 ) 。フランス語表記の料理名も出てくれば、シェイクスピアなどの引用とか、あるいは ( 前にも書いたかな ? ) 'He kept something up his paw ( 本来は sleeve )' みたいな「変化球」もぽんぽん出てくる。でもなんだかおかしい。この「暗黒の地ペルー」からやってきた子グマの引き起こす大騒動の顛末は、いつもきまって愉快で楽しい。

 原作者のマイケル・ボンド氏は、ここにも書いたように今年 86歳になるそうですが、あの番組で見るかぎりたいへんお元気で、精力的に執筆活動をつづけているようです。で、おそらくそのとき執筆中だった作品が、このたびほんとにひさしぶりに読んだこちらのパディントン本。で、シリーズ最新刊の書名とカバーイラストを見ればだいたい察しがつくように、いま開催中の「ロンドン五輪」が隠れテーマになってます。

 それにしてもこのすっとぼけた英国流のユーモアはあいかわらず。パディントンが居候しているブラウンさんちの家政婦バードさんのキツイものの言い方といい、「ブラウンくん」とパディントンを呼ぶ大の親友、骨董品屋のグルーバー氏といい、意地悪な隣人カリー氏といい、個性派ぞろいのウィンザーガーデン 32 番地とポートベロ通りの商店街の人々。とくにロンドン下町ことばの「コックニー」まで出てくる。ちなみにコックニーとは、たとえば「スペイン」を「スパイン」みたいに発音したり、h を落としたり ( 'You 'eard.' とか )。きわめつけは以前ここでも書いたかもしれないが、「あなたのベースタイムはいつ ? 」。こたえ → your birthday.

 最新刊では、まず「エイプリルフール」でカリーさんに一杯食わされたパディントンが、倍にして返し ( Ch.1 )、はじめてロンドンバスに乗ったパディントンが「オイスター」というパスモ ( ? ) みたいな IC マネーの代わりに本物のオイスターを読み取り端末にべちゃりと押しつけ ( Ch.2 )、部屋を大掃除するはずが途中から生まれ故郷ペルーのお菓子をひとりで作ろうとして失敗し ( Ch.3 )、Evening Banner という日刊紙のスポーツ担当記者、食らいついたらテコでも離れない腕っこき ( ? ) 氏につかまってどういうわけか開催迫ったロンドン五輪大会のペルー代表選手とカンちがいされて記事まで書かれ ( Ch.4 )、たまたま玄関に落ちていたチラシを見てなにかのセールと思いこんだパディントンがきびしいトレーナー女史経営のヘルスクラブでトレーナー女史相手にトンチンカンな問答を繰り広げ ( Ch.5 ) … そうかと思えば、バードおばさんが、ブラウンさんちにいきなりやってきた不審な男たちめがけて傘突き出して「アンガルド ( en garde ) ! 」なんてフェンシング ( Congrats, 日本代表 ! ) よろしく大声を発したり、どことなくオリンピックな単語がさりげなくまぶしてある。かと思えば、グルーバーさん、ブラウンさんちのジョナサンとジュディの兄妹と一緒にピクニックに出かければ、そこの野外劇場ではなんと ! 『ハムレット』が上演中。もちろんパディントンはここでもとんでもないカンちがいをしていて、「ハムレット」=ハムサンドかなんかだと考えて舌なめずり。ちなみにパディントンは礼儀正しいクマくんですが、相手がなにかおかしなことを言ったりすると、hard stare する癖がある ( ↓ はパディントン、オイスターカード読み取り機に本物のオイスターを押しつけるの図 ) 。

パディントン、本物のオイスターを押しつけるの図


 英語で書かれた原作本ならではのおもしろさもいろいろあって、こういうのは翻訳者泣かせというか、腕の見せどころなんだろうなぁ、とひとりごちる。ついでに児童文学ものは、いざ翻訳しようとなるとある意味、これほどの難物はないのではないかとさえ思う。ジョー・キャンベルの比較神話ものとはまるでちがうむつかしさがある。これについては以前も似たようなこと書いたけれども … 。

 たとえばヘルスクラブの経営者兼トレーナー先生との、こんなやりとりなんかどうですか。思わずニヤリとくるでしょう。↓
'I think perhaps we had better check our weight first of all ...'
'After you, Miss Brimstone,' said Paddington politely.
'No,' said Miss Brimstone through slightly gritted teeth. 'After you. When I said our weight I meant yours, of course.'

 またこの場面のすぐあとで、「あなたはウェストをもっと細くしなくちゃね。フレンチフライの摂りすぎのせいかしらねぇ、とにかくこれ、燃やしましょ」。「『燃やす』ですって ?! 」みたいな掛け合い漫才みたいなやりとりがあったり。それにしても骨董屋のグルーバーさん、昔は障害物競走が得意だったとは知らなかった。シリーズ既刊本を見れば、そのへんのことも書いてあるのかな ?? 

 『ハムレット』もそうだけど、今回のお話にもいろいろと英語特有のイディオムが出てきまして、英語、とりわけ英国英語の学習にも最適かもしれない。たとえば 'Accidentally on purpose ... ', 'Good riddance to bad rubbish', 'I haven't got all day.', 'Unbeknown to her ... ', 'There are no flies on Paddington.', 'That bear's got his head screwed on the right way.' といった言い回しがたくさん出てきます。

 いずれにせよ著者のボンドさんには、これからも楽しい「パディントン」シリーズを書きつづけてほしいと思います。五輪ついでに、今大会は静岡県出身選手のめんめんもけっこう出場していて、おのずと熱が入ったりしますが、体操の内村選手の「ゆか」演技の銀メダルはスポーツ音痴のワタシもすなおに感動した。そう、「終わりよければすべてよし」ですよね ! もちろんパディントン最新作にもこの名言がさりげなく出てきます ( p.29 )。そういえば 'Tomorrow was another day, ...' なんて言い回しも出てくるけれど、これってやはり … を意識して書いたんかな ?? 関係ない話だが、大英図書館ってブラウンさん夫妻がパディントンを拾ったパディントン駅から、徒歩数分のところにあるのですねぇ、知らなかった。そしてこちらもどうでもいいことながら、あの競歩とマラソンのコースといったら !! とくにセントポール大聖堂のあたりから金融街シティに抜けるあたり、せまい路地ありアーケードあり石畳ありで … なんと競技のしにくそうなコース !!! セントポール界隈ってあんなに道がせまいのですねぇ、こちらもオリンピック中継ではじめて知った。

評価:るんるんるんるんるんるんるんるん

posted by Curragh at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 最近読んだ本
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