2012年12月31日

ジョイス ⇒ 鉄拳 ⇒ サッチモ

 いま Ottava を聴きながら書いてます。さっきまでバッハの名曲がいくつもかかっていて、とりわけ印象的だったのが BWV. 106 カンタータの「ソナティーナ」。カンタータ関連はたとえば有名な「コーヒーカンタータ」や「狩りのカンタータ」、「神はわがやぐら」、「心と口と行いをもって」、「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」などは音源を持っていたりするけれど、器楽作品にくらべると未聴の曲が多いのは、致し方なし ( オルガン好きなので ) 。なのでこの流れるような美しい「ソナティーナ」を発見したのは、無上の喜び。あとでまた鍵盤用の譜面とか探してみようかな。

 今年、とくに後半は Hisperica Famina とジョイス / ヤナセ語訳『フィネガン』三昧、といった感じになってしまった。昨年のいまごろ、来年は空き時間は本家『聖ブレンダンの航海』英語版サイトとりあえずの完成に優先的に充てよう、なんて目標を立ててはいたものの、あっさり放棄 ( 苦笑 ) 。あせらずぼちぼちやっていくつもり。一時期はほんとにヤナセ語訳『フィネガン』とその関連書籍三昧だったもので、その副作用なのか、「あばあばあばよわん、達っぱでな ー ! 」とかヘンテコな日本語を平気で口走ったりするしまつ ( 苦笑 ) 。

 『フィネガン』第二巻には、たがいに張りあっている双子兄弟の片割れにしてジョイスの分身らしいシェムについて、こんなくだりが出てくる。「 … 冠涙にむせびて己の挽歌を、天使の機関車の泣きむせぶごとく。理非ィなる人生は遺棄るに値するや ?  ( ) な ! 」。で、ジョーゼフ・キャンベルの対談本『神話の力』にも、ジョイスのことばとして、おそらくこの『フィネガン』からの一節をキャンベルはこんなふうに引用している。曰く、「人生は、それを捨てるに値するものだろうか ? 」。この直前に仏陀の「生はすべて苦」ということばも引いている。きのう書いたことのつづきみたいな感じではありますが、ここでキャンベルの思想の代名詞みたいにも言われることの多い「あなたの至福に従え / あなたの無上の喜びを追求せよ」ということについて、ちょっと書いておきたい。

 'Follow your bliss' がその原文なんですが、こちらの記事の一節にもあるように、向こうの人にもキャンベルのこのことばを曲解 ( 故意に ? ) する向きがいて、古代グノーシスの一派に存在していたという、いわゆる「快楽放蕩三昧」のように受け取っている人が少数だろうけれどもいるらしい。もちろんそんなことキャンベルはひとことも言ってない。前に書いたこととも重複するが、ようはエリオットの言う「回転する世界の静止する一点」、どんなことがあろうと自分を見失わない心からの、真の関心事ないし心から求めてやまないこと / ものをつかめ、ということだと思う。キャンベルの言う詩人のように、それが一生の仕事、「天職」そして「生業」になればもう言うことなしだけれども、とにかくそういうものやこと、時間やよりどころを持つべきだ、ということです。
わたしたちにはその日の新聞になにが書いてあるかも忘れ、自分の友だちがだれで、だれに借りがあるのかといったこともいっさい忘れる時間や空間が必要です。… 人は歳を重ねるにつれ、周囲から課せられる要求があまりにも大きくなって、いったい自分がどこにいるのか、なにをしようとしていたのか、わからなくなりがちです。四六時中、やらなければならない用事に追いまくられてしまう。しかし、自分にとっての無上の喜び、至福というものを追い求めるべきなんです。それは大好きな音楽を聴くことかもしれない。たとえそれが、他人は見向きもしない陳腐な音楽でもかまいません。あるいは好きな本を読むことでもいい。そういう時間や空間を持つことです。そこでは、人生を崇高なものとして感じることができます。かつて平原の狩猟民族は、世界のどこにでも、そういう「聖なる場所」を見出していました。

 キャンベルの言う「至福を追求せよ」というのは、目先の快楽ではない、真に喜びを感じることやものを見出し、それを追求せよということでしょう。では自分はどうなんだろ … と顧みるとはなはだ心もとないが … 。でもバッハの音楽やジョイスの作品を読むこと、そして ―― 自分にとってもっとも重要 ―― ラテン語版『聖ブレンダンの航海』に関する本を読み漁ることが、「無上の喜び」なんかなぁ。ちなみにキャンベルが自分の言う「あなたの至福に従え」を曲解する向きを批判して言った 'Follow your blisters' 、ヤナセ語ふうに訳せば「おまえの至福ならぬ獄でも追いかけてろ」くらい ? かなあ。

 と、いま、かけっぱなしにしている Ottava から、リクエストにこたえてブクステフーデの「暁の星はいと美しきかな BuxWV. 223」がかかってます ! なんでもリクエストしたリスナーの人はこの一年、オルガンの実演をあっちこっちと聴いて回っていたんだそうで、ご同慶の至りです。DJ の清水氏の言うように、たしかにこのオルガンコラールは鍵盤交替とレジストレーションによる音色変化が「星がキラキラ光っているように」際立っている愛らしい作品ですよね。ついでに Ottava がらみでは、「みんなでつくる復興コンサート」とか、震災で被災した音楽を学ぶ子どもたちに楽器を届ける活動とかも行なっているようです。すばらしいことだ。

 「至福に従え」の身近な例としては、たとえばパラパラ漫画の鉄拳さんなんかがそうなんじゃないかと勝手に思っている。この前「情熱大陸」という番組で、鉄拳さんの名前を世界中に轟かせた「振り子」をはじめて見て、これはすばらしい作品だと感心したしだい。ご自身の両親がモデルのようですが、「作者自身の心を捉える、真の関心事」を主題にした作品にはかならず普遍的なメッセージがこめられているものだから、これだけの支持を獲得したのだろう。番組を通して鉄拳さんの仕事ぶりも拝見したけれども、この手の仕事は翻訳もそうだけれども、好きでなければとてもじゃないができっこない。好きこそ … という使い古された言い方もあるけれども、とにかく心から打ちこめるもの、好きなことを仕事にしている人は、輝いています。それは年収がいくらとかそんな次元とはちがう。と、こんなこと書くと「それはちがうでしょ」とクレームがきそうだが、キャンベルという人は「カネのためだけになにかをやったためしのない人」だった。げんに大学教授を定年退官後、著作と講演、そして TV 対談番組出演などで生計を立てていたのですが、年収はいまの水準から見ても低いくらいだったという。『神話の力』対談でもしゃべっていたけれど、シンクレア・ルイスの『バビット』のように、「オレを見ろ、オレは生まれてからこの方、自分のしたくないことばかりして生きてきたんだ ! 」という人生に、いったいどんな意味があるというのか。そういう人は遺産はたんまり残せそうですが、はたしてそれで満足して納得して旅立っていけるのかどうか。もっとも人の死ぬ時期がいつ来るかなんて、だれにもわからないものですが。

 というわけで、またしても ―― ほんとうに毎年こればっかし、反省 ―― このなにを書いてんのか当人も関知していないブログは本日をもって今年はお開き。妄言多謝。最後の締めは、この人にご登場いただきましょう ! 



ワタシはとくに、最後の節が好き ( 下線部 )。
I see trees of green, red roses too
I see them bloom for me and you
And I think to myself, what a wonderful world
I see skies of blue and clouds of white
The bright blessed day, the dark sacred night
And I think to myself, what a wonderful world
The colors of the rainbow, so pretty in the sky
Are also on the faces of people going by
I see friends shaking hands, saying how do you do
They're really saying, I love you
'I hear babies cry, I watch them grow
They'll learn much more than I'll ever know
And I think to myself, what a wonderful world
Yes, I think to myself, what a wonderful world'


グノーシス派のある文書にたしか、老人が生後何か月かの赤ん坊に人生の道を教えてもらう、とかそんなこと書いてあった。イエスも、「あなたがもっとも幼いひとりの子どもにしたことは、わたしにしたことである」と言った。これは真実だと、自分も感じている ―― 「泣き声をあげる赤ん坊。成長し、わたしの知り得ないことをたくさん学ぶだろう。そしてひとりごちる。なんてすばらしい世界だろう、と。世界はなんてすばらしいんだろう、と」。

posted by Curragh at 20:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日々の雑感など
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