2013年02月11日

文は人なり、音楽もまた人なり

1). NHK-FM および「Eテレ ( この言い方好かんわ … ) 」から。「きらクラ ! 」と「ららら ♪ クラシック」とかけもち出演 ( ? ) されたギタリスト鈴木大介さん。かつて「きらクラ ! 」の前身番組「気ままにクラシック」の「マスター」を務めていた方だけに、ひさしぶりの登場はうれしかったですね。で、これは「ららら」のほうで大介さんがしゃべっていたことなんですが、あの有名なシューベルトの「セレナーデ (「白鳥の歌 D.957 / 4 」) 」は、じつはギターを爪弾きながら作曲したんじゃないか、ですと。当時のウィーンではギターが大流行、シューベルトも一丁、持っていたんだとか。へぇ、それは知らんかった。でも似たような話はバッハにもあります。若きバッハ、アルンシュタットの教会オルガニストに就く前は一時期、ヴァイマール公の宮廷でヴァイオリンを担当したことがあり、またリュートもダ・ヴィンチに負けず劣らず名人だったようなので、たとえばあの超有名な BWV.565 のニ短調のトッカータも、じつはヴァイオリン用として作曲したんじゃないかっていう説がある。その説にもとづいた「復元」演奏盤というのもいつだったか「バロックの森」でかかったことがあったけれども、譜面を見ればワタシのような素人でもそれとわかるほど、あきらかにオルガンらしからぬ書法で書かれてます。加羽沢さんも、あれはピアノだと弾きにくいんですよね 〜 とかおっしゃっていた。自分は弦楽器系はからっきしわからないのでなんとも言えないが、大介さん曰くギターで弾くと左手はコードを押さえたままで右手で爪弾けばいいのでラクなんだそうな。

2). もうひとつ音楽関連でおどろいたのは ―― なにをいまごろ、とお思いの向きもいるだろうけれども ―― 冨田勲さんの最新作「イーハトーヴ交響曲」の世界初演のこと。なにがって、またですわ、初音ミク。こんどはなんと !! 指揮者にあわせて歌うことが可能になったという ! しかもさらにおどろくのはオペラシティの大オルガンの前面に掲げられた半透明なスクリーン上に映し出された彼女の姿。… まるでオルガンパイプの真ん前で、現実に空中に浮かんでいるかのような圧倒的存在感で歌っているではないですか。… 番組で、技術者たちは当初、冨田さんの要求に頭を抱えていたけれども … こうしてリアルタイムで指揮者の指示、あるいはリタルダンドとかテンポの大きな揺れにも対応可能となると、いままで想像もしなかったような「コラボレーション」が実現するということでもあるので、これを機に ( ? ) いよいよ仮想空間を突き破ってじっさいの演奏会場へと「進出」する、なんてことが今後ますます増えるのかなあ … とおどろきと懐疑とが入り混じった印象を受けつつ見入ってました。でも冨田さんのこの交響曲の場合、初音ミクの起用は成功していたと思う。ヤナセ語ふうに言えば、宮沢賢治文学の放つ「化身とならざる霊 ( 『フィネガンズ・ウェイク III 』 ) 」がみごとに表現されていたと感じたから。そしてこの番組で、冨田さんが幼少時、直下型の「三河地震」を体験していたこともはじめて知った。それゆえ初音ミクの起用とその扱いも、いたずらに流行を追った皮相的なたぐいに堕しなかったのだと思います。とにかく感動的な「世界初演」でした。ちょっとおもしろかったのは、作曲にはもちろん PC を使っていたけれども、五線紙と鉛筆という昔ながらのアナログな道具もまた健在だったこと。もっともご本人は、「こんな何段もある管弦楽用の総譜なんて、もう年だししんどいよ … 」みたいなことを漏らされていたけれども。「音楽もまた人なり」、をあらためて感じたしだい。そして本日は、東日本大震災からまる 1 年11か月目。宮沢文学には東北地方を再三襲った大地震と大津波の影響がつよく反映されていると言われ、冨田さん自身もやはり大地震で被災した体験を持つひとり。だからこそこのように聴く者の魂を深く揺さぶる音楽作品が作れるのですね。そういえば本日の午後、NHK-FM でオンエアされた冨田さんの特番もたいへん興味深かった。へぇ、大阪万博のとき、モーグ・シンセサイザーでバッハの「シンフォニア ( BWV.29 ) 」なんて演奏していたんだ ! カーロスの「スイッチト・オン・バッハ」に触発されてのことだったらしいけれども、原点はバッハだったんだな、と勝手にひとりごちる。

3). 本日は祝日。で、こちらの番組も見ました … ロアルド・ダールの『チャーリーとチョコレート工場』とくると、ダール好きでなくても聞いたことのある作品じゃないでしょうか。ロアルド・ダールとくると、以前ここでもちょくちょく言及していた自伝『少年』。正月いっきに読みまして、ああ、「除籍本市」でもらって正解だった、と思えるおもしろい本でした。永井淳氏の訳も、この作者特有のひねりとブラックユーモアがきらりと光る名訳だと思う。番組でも取り上げていたけれども、ダール氏の送りこまれた寄宿学校とその後進学したパブリックスクールでは、上級生によるいじめと教師による「鞭打ち」が日常茶飯事に行われていた … たしか元首相のチャーチルも、やはり自伝にそんなこと書いていた。いまはどうだか知らないが、とにかく昔の英国のパブリックスクールにおけるいじめないし教師の「体罰」は、それはヒドかったといいます。折りしもいま、この国でもあらためてこの「古くてあたらしい問題」について、さまざまに取り沙汰されているけれども … 。

 番組でも「かまど」が言及していたように、『少年』を読んでとくに印象的だったのは、ダール氏が母親宛てに綴った手紙の数々がまるまる一章を割いて書かれている章です。1957 年に母親が死期を悟ったとき、愛息ダール氏にそれまで大切に保管していた手紙の束を渡したのですが、なんとその総数 600 通以上 ! だったそうです。「年をとってから昔を語るときに引き合いに出せるこういうものを持っているということは、とてもしあわせだと思う」。

 『少年』で、ダール氏は「体罰」について、こんなふうに怒りをこめて述懐している。
… ここまで書いてくれば、みなさんはなぜわたしが学校における体罰をかくも強調して書くのかと不思議に思われるに違いない。その答は、要するに書かずにいられないからである。学校生活を通じて、わたしは教師や上級生がほかの生徒たちを文字どおり傷つける、それもときには手ひどく傷つけることを許されていた、という事実に愕然とさせられた。わたしにはそのことがどうしても納得できなかった。いまだに納得していない。当時すべての教師が常習的に生徒を殴っていたといえば、もちろんいいすぎになる。そんなことはなかった。常習的に生徒を殴るのはごく一部の教師だけだったが、それだけでわたしに永続的な恐怖の印象を刻みつけるには充分だった。そのことはもうひとつの肉体的な印象をもわたしに刻みつけた。いまでも、固いベンチや椅子にある時間坐ることを強いられるたびに、約五十五年前にお尻にできた古い鞭の痕が疼きだすのを感じる。… あの当時だれかにこのサディスティックな聖職者がやがてカンタベリー大主教になることを教えられたとしても、わたしは絶対にそれを信じなかっただろう。
 わたしが宗教はおろか神さえも疑うようになったのは、このことが原因だったと思う。

ロアルド・ダール自伝 『少年』

 ちなみにここで描かれているヒドい校長にして聖職者の人は、のちにカンタベリー大主教として現女王を戴冠した人なんだそうです … 。

 文学ついでに、このほどやっと柳瀬新訳版『ダブリナーズ』、読了しました。でもなんかこれ、ほぼ一世紀前の西の果ての島国の首都の物語というより、21 世紀のいまを生きる自分の住んでいるところもそうだが、現代日本の疲弊した一地方都市の市民生活とがダブリまくりなのはいったいどういうことなんだろう、と … そしてやはり前評判どおり ( ? ) 、掉尾を飾る「死せるものたち ( 'The Dead' ) 」の印象がかなり強烈。ところで最近『神話の力』を繰っていたら、インタヴュアーのビル・モイヤーズの書いた「まえがき」に、ジョン・ヒューストン監督がこの 'The Dead' を映画化して、その試写会のこととかにも触れてまして、あらためてへぇそうなのか、と思ったしだい。ところでこの映画化作品、国内でも封切られていたんだろうか … あいにく記憶がない。そういえば「かまど」で読み上げられた『チャーリーと … 』も、柳瀬訳版でしたっけ。柳瀬先生は『ユリシーズ』はどうなってんだろう … いまだ「辛航中」なのかな ? 全訳刊行成ることを期待しています。
 ああ、腹がへった。
 彼はデイヴィー・バーンへ入った。謹厳なるパブ。おやじは無駄口を叩かない。たまに一杯おごることもある。もっとも閏年みたいに四年に一度。いつか小切手を両替してくれたっけ。
 さて何を食おうか ? 彼は懐中時計を取り出した。さて、ええと、シャンディーガフ ? 
 ―― やあ、ブルーム。でかっ鼻フリンが坐ったまま声をかけてきた。
 ―― やあ、フリン。
 ―― 元気か ? 
 ―― ああ、最高 …… 。ええと。バーガンディを一杯もらおう …… それから、ええと。―― 『ユリシーズのダブリン』より

posted by Curragh at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | NHK-FM
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