いま、故吉田秀和氏が長年案内役をつとめてきた「名曲のたのしみ」の後釜番組、「クラシックの迷宮」を聴きながらライヴ進行で書いてます ( 笑 )。今宵は「私の試聴室」でして、なんと「ブクステフーデとバッハ」! その音源というのが、ルクセンブルク出身の今年 31 歳になる若きピアニスト、フランチェスコ・トリスターノ・シュリメという人の音源から。
寡聞にしてこの人のことは知らなかったが、びっくりしたことに、けさの朝刊日曜版の「CD セレクション」欄にもこのフランチェスコ・トリスターノの同名音源の紹介がありました … 「作曲も手掛けるルクセンブルク出身のピアニストが、17〜18 世紀の作曲家ブクステフーデとバッハ、さらに自作を弾く。バッハの『ゴルトベルク変奏曲』にはブクステフーデの影響が見え、ピアニストはバッハをリミックス。古典は時空を超え、現代音楽とつながり得ると実感させてくれる」。むむむ … ワタシにとって「古典」とは「本来時空を超えているものである」という認識でいるものだから、まあそうでしょうよという感覚なんだが … それはともかく先週のこの紙面にも、北イタリア・ドロミテ渓谷麓の村に暮らす吉田愛さんの新譜「4 手の対話」が紹介されていたりと、うれしいことながら最近はクラシック関連アルバムの紹介がつづいてます。… とにかくこのフランチェスコ・トリスターノなる人、きわめて個性的な演奏家なのかもしれない ( 作曲もするので、加羽沢美濃さんじゃないけど、「コンポーザー・ピアニスト」と呼ぶべきなのかも ) 。
前半、かかったのは若きバッハの師匠と言ってもよいリューベックの教会オルガニストで作曲家のディートリヒ・ブクステフーデの鍵盤作品。うち BuxWV. 160 のみオルガン作品であとはクラヴィーア作品。… おそらく演奏者トリスターノ自身の編曲によるピアノ版なんだろうと思うけれども、粒のきれいに揃った、端正な品のいい演奏、というのが第一印象。前にちょこっと書いたけれども、この音源、「ゴルトベルク変奏曲 BWV.988 」の第 30 変奏「クォドリベット」にひょこっと顔を出しているという、ブクステフーデの「アリア 『ラ・カプリッチョーサ』と 32の変奏曲 BuxWV.250 」に絡めているらしい ( いつもご教示いただいている、「一日一バッハ」の aeternitas さんの情報によれば、バッハもブクステフーデももとをたどれば「ベルガマスカ」の旋律にたどり着くようです ) 。バッハの音楽は、きのうの「小惑星」や「隕石」とはちがって、突如として出現したわけではない、「ビバ ! 合唱」でも案内役の先生が言っていたように、スヴェーリンク → シャイト → … トゥンダー → ブクステフーデ、というぐあいに受け継がれてきた北ドイツオルガン楽派という下地があってのこそ、というわけです。
案内役の先生の話でちょっとおもしろかったのは、バッハ晩年の傑作「ゴルトベルク」には、若き日に薫陶を受けた北ドイツの巨匠ブクステフーデへのオマージュというか、そんな気持ちが「それとなく隠してある」ということ。隠してありますよ … そういえば柳瀬先生の『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』にもそんなようなことが書いてあったな … それとなくほのめかす、ここに隠してありますよ、と。それでさらに思い出したのですが、リストだけでなくシューマンにも「BACH の名による … 」というオルガン曲があり、それをついこの前 Organlive.com にて聴いたばかり。こっちにもおどろきました。けっこうおもしろい作品だったので。
アルバム名の 'Long Walk' 、ジョイスお得意の「カバン語」じゃないけど、バッハがドイツ中部の田舎町アルンシュタットからハンザ同盟都市リューベックまでてくてく歩いていった「リューベック詣で」と、バッハから自身までえんえんとつづく音楽の系譜とを引っかけたネーミングらしい。この演奏者自身の作品は、バッハ最晩年の「14 のカノン」のコラージュ的なもの … に仕上がっているらしい。電子音楽的テイストをこれまた控えめに効かせた作品ながら、印象としてはうん、たしかにこれ以前聴いた、小学館の『バッハ全集』に収録されていた「ゴルトベルク」低音旋律をもとにした「カノン」ベースの作品ですね。
… それにしてもあの隕石落下にはびっくりした … あの火の玉、核爆弾の炸裂のようにも見えたが、不気味な白煙を曳きながら落下してゆく隕石の映像を見ながら思ったことは、1908 年にやはりおんなじ国 ( 当時は旧ソ連 ) のシベリア・ツングースカで大量の針葉樹をなぎ倒した「大爆発」のことだった。ついでに 1910 年にはハレー彗星のしっぽが地球と衝突する、人類滅亡だなどと騒がれたこともありましたね … 今回の隕石は秒速 18 km くらいの、文字どおり想像を絶する猛烈な速さで地球の大気圏に突っこんできたものだから、火球は何万度という超高温プラズマ状態だったらしい。衝撃的映像の数々を見ると、瞬間的に「太陽がふたつ」あった状態だったと言っても言いすぎじゃないでしょう。まさしく一寸先はなにが起こるかわからず、そんな折も折ワタシもバスに乗ろうとしたそのせつな、暴走運転の自転車にハネ飛ばされそうになって瞬間湯沸器状態になったりと、まさに「無常」を痛感した出来事ではあったが、いやそれだからこそ人生は「無上」だったりするわけで … とにかく隕石落下の直接の犠牲者が出なかったことは、不幸中の幸いだったと思う。
『ユリシーズ』のブルームじゃないけれども、バッハの音楽に耳を傾けていると、やっぱりこう思ってしまう。「ああ、最高 … 」。
2013年02月16日
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