2013年02月24日

BWV.639 と「オルガンつき」と …

 先週の「第 1750 回 N響定演」。2011 年 6月に裾野市で東フィルの演奏で聴いたリストの「レ・プレリュード」ふたたび。そして「ピアノ協奏曲 第 1 番 変ホ長調」。ソリストはルーマニア出身の中堅奏者ヘルベルト・シュフという方でしたが、バッハ好きにとってはアンコールがなんといってもよかった、おおいに満足の二重丸。「オルガン小曲集」のなかでわりとよく演奏される、そして「母べえ」にもヴォカリーズ版としても流れていた、「主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる BWV.639 」。これは「小曲集」中唯一の三声部作品で、コラール旋律がソプラノで歌っているあいだ、不安に駆られた人間の拍動のような 16 分音型をずっと刻む内声、そして歩みのリズムのバスという構成 ( ↓ 動画参照 ) 。ブゾーニの編曲版でしたが、いやあ、このアンコールとにかくすばらしかった。感動しました。ワタシの判断基準はバッハしかないので ( 苦笑 ) このルーマニア出身のピアニストの名前はおぼえておくことにします。



ちなみに前にも書いたけれども、N響定演の番組最後にかかるオルガンコラールも「オルガン小曲集」に収録されたもので、こちらは受難節用のコラール。こちらも BWV.639 と同様にわりとよく演奏される曲で、「マタイ受難曲」にも同コラールによる合唱が出てくるから、ご存じの方も多いはず。でもこの日の白眉はやっぱりサン-サーンスの「オルガンつき」。フルオルガン、なんだろうけれども、指揮者メルケルさんのサジ加減が効いているようで、わりと抑え目な印象を受けました。でもワタシは以前聴いた、小澤征爾指揮の、フランスのどっかの教会 ? みたいなえらく残響の長い空間で録音された音源のような、もっとパンチの効いた最終楽章の演奏のほうが好きですね。好みの問題。池辺晋一郎氏によると、この公演にそなえてふたりのピアニストが長時間、練習していたそうです。音楽家はたいへんだ。残念ながら主役のオルガニストのお名前を失念してしまったが … たしか女流奏者の方だったと思う。Brava !! そしてこんどの N響定演は 4月ですか … 花粉症がひどくなっていそう ( くしゃみと涙目 ) 。

 「古楽の楽しみ」はなんでもチェロの活躍する作品特集だったそうで、バッハのモテット BWV. 228 や、フレスコバルディの「音楽の花束」から楽曲がかかったりと、けっこう多彩な内容。もっともオルガン好きにとっては木曜朝の「前奏曲とフーガ ホ短調 BWV.548 」が最高 ! でしたが。演奏者は名手ピート・ケー。このリンク先記事見てはじめて知ったのですが、若かりしころ、あのリヒターやハイラーをおさえて即興演奏部門で優勝した経歴の持ち主だったんですね、これはびっくり。アントン・ハイラー … とたんに目頭が熱くなりそう … この人のお名前ほんとひさしぶりに聞いた。ウィーンのオルガン楽派の代表だったみたいな人で、中学生のとき、はじめて買ったバッハのオルガン作品集の LP ( !! ) の演奏者がこの人だった。録音もたいへん古くてたしか 1950 年代の、モノラルに毛の生えたようなしょぼい音源だったように思う。ジャケット表紙の写真に使われていた楽器はオランダの有名な古オルガンで、マーススライス大教会のルドルフ・ガレルス製作の歴史的楽器だったこともはっきりおぼえている。もっともそのレコードの録音に使用された楽器がそれだったわけではなかったが。このときはじめて「ニ短調のトッカータ BWV.565 」や「幻想曲とフーガ BWV.542 」、「パッサカリア BWV.582 」、「目覚めよ ! と呼ぶ声が聞こえ BWV.645 」なんかに接したものでした。

 ところで先日まで、カザルスホールのアーレントオルガンを使用した音源を図書館から借りて聴いていたんですが、解説を読むとカザルスホールの楽器、ミラノの聖シンプリチアーノ教会の楽器とは兄弟関係で、しかもミラノの楽器は若きバッハがほんの短い間、オルガニストをつとめていたミュールハウゼンの聖ブラジウス教会のバッハ自身によるプランで製作されたオルガンのストップ構成に似せて建造された楽器だというから、こっちもおどろき。… ギエルミさんによるアーレントオルガンのシリーズはたったの一枚しか持ってないけれど、ふーん、なるほどそうだったのか … でもあくまでも個人的な独断に満ちた印象ながら、なんかこう「乾いた」音色だなあ、というのが率直な感想としてあったりする。バッハが「セスクィアルテラ」という混合パイプ列によるストップの音色が好きだったらしい、ということはケラーの『バッハのオルガン作品』にも引用されてて知ってはいたけれども … 自分の感覚としては、このブラジウス教会のバッハ・オルガンを手本としたアーレントオルガンよりも、むしろそのあとバッハがオルガニストをつとめていたヴァイマール宮廷の城内礼拝堂「天の城」にあったといわれるオルガンのほうが気になる。この時代のオルガン作品の理想の音色って、むしろこっちなんじゃないかと思うんですが、どうなのかな ? ちなみにこの「天の城」、1774 年の大火で焼失 … この楽器もまた着任早々にバッハが改造させたものなので、りっぱに「バッハ改オルガン」と呼べるものでした。オルガンは礼拝堂の何層にもわたって吹き抜けになった高ーい天井の最上階にあったらしいから、「天使の歌声」同様、オルガンの響きは文字どおり天から降ってきたように聴こえたはずです ( → 関連ページ )。

 … 来週は「バッハのチェンバロ協奏曲」の再放送。BWV.1056 の有名な「アリオーソ」ふたたび、というところですか。

posted by Curragh at 17:41| Comment(0) | TrackBack(0) | NHK-FM
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