2013年03月31日

Iona の語源は ? 

 最近、こちらの Web マガジン ( ? ) を知りまして、この号を見たらなんか聖コルンバゆかりのアイオナ島の名前についての考察記事みたいなものが載っていたものだから、くだんの記事だけプリントアウトしておきました。

 で、よくよく読んでみると、へえ、そうなの、という事実がいくつか目にとまったので、ここにも備忘録として書きだしてみることにしました。

 アイオナ島はメンデルスゾーンの名曲でもその名を知られる奇観「フィンガルの洞窟」で有名なスタッファ島と向きあう ( といっても距離はそれなりに離れているが ) ような感じに位置するインナー・ヘブリディーズ諸島の小島。ここでいきなり脱線だが、スタッファ島の真っ黒な柱状節理の絶壁って、卑近な例で言えば松崎町の烏帽子山や堂ヶ島北側の浮島 ( ふとう ) 海岸、南伊豆町入間 ( いるま ) 漁港近くの海蝕崖に見られるのとおんなじような、地下から登ってきたマグマがそのまま冷え固まったものだと思われます。ようするに隆起したあと差別侵食を受けて、堅固な溶岩の岩体だけが残ってそれが岩山になったり海蝕崖になって姿を現しているのでしょう。米国の「デヴィルズタワー」なんかもそうですね。

 アイオナは現地語のスコットランドゲール語では Ì Chaluim Chille 、「コルムキレの島」と呼ばれているそうなんですが、コルンバの前、はじめてこの孤島にやってきたケルト人というのは … 当然といえば当然のことながら、ドルイドたちも含まれていた。なんでもここには彼らの学校があったそうで、引用されている作家トマス・ブルフィンチの説によると、ハイランダーたちはときおりこの島のことを「ドルイドの島」を意味する、 Innisnan Druidneachという言い方で呼んでいたという。

 その後の古い文献や記録では、Ey あるいはより正確には Ii という呼び名を使っていたらしい。「イー」とは、ただたんに「島」の意。たとえばこれは the River とだけ書いて『聖書』に出てくる「ユーフラテス川」を指したり、the City とだけ書いて「世界の首都たるローマ」を指すような、そんな箔をつけた呼称だったようです。

 聖コルンバ来島後、こんどはこの「島」がかの聖人と結びつけられて、「コルンバの島」、Ii-Cholum-chille となり、これの崩れた語形の Icolmkill が残っている ( これはもとは中英語の呼称だったらしい ) 。この島名の古文書の表記は Hii だったり Hyona だったり I-hona だったりとさまざまだが、'Iona' という表記はひとつも見られない。そしてブルフィンチはコルンバのヘブライ語形を Hyona とする説を退けて、これは他の呼び名同様、れっきとしたゲール語の名前、Ii-shona の転訛であり、「聖なる島」を意味する、としている。アイオナはラテン語で記述した歴史家から Insula Sancta と言及されていた。この「聖なる島」、Holy Isle は、その昔アイオナの修道士の一派がノーサンバーランド沖に浮かぶ孤島リンディスファーンに授けた名前。この「ホーリー島」は、リンディスファーンのもうひとつの呼称としていまなお使われている … とここまで書いて、若干唐突な感ありではあるけれども、英語版 Wikipedia 記事に出てくる説を紹介しています。名づけて「イチイ説」。日本人の感覚ではある場所に渡来した人=単一言語話者、みたいな図式でつい物事を考えがちですが、じっさいには鉄器時代以降、ヘブリディーズ諸島にやってきた人というのはそれぞれ話すことばもバラバラだった。それゆえヘブリディーズ諸島各島の名前の由来、となるとどうしても一筋縄ではいかない。アイオナもそんな島のひとつということになる。

 イチイって向こうではあんまりいいイメージのない植物なんですが、スコットランドの著名な地名学者ウィリアム・J・ワトソンによると、もともとアイオナという名のもっとも古い形はオガム文字で「イチイのある場所」を意味していたという。Ivo- というかたちがそれで、ここからなんと ! ラテン語版『聖ブレンダンの航海』冒頭に登場するオーガナハト王族の氏族名 Eogan も派生しているという !! これは初耳。マナナーン・マク・リルの里子名も、「イチイの男」くらいの意味だという ( Manannán mac Lir, マク・リル=「海の子」 ) 。

 本文中にも言及のある 2003 年に作成された「地名一覧」のアイオナの項目を見ると、
Iona, Ì, Ì Chaluim Chille or Eilean Idhe.
The English name comes from a misreading
of Ioua which may be "yew island". The
Gaelic name Ì is generally lengthened to
avoid confusion to Ì Chaluim Chaluim,
"Columba's Iona", or Eilean Idhe, "the isle of
Iona". A native of Iona is an Idheach, and the
island was known as Ì nam ban bòidheach,
"Iona of the beautiful women".

もとのかたちは Iona ではなくて Iou ( v ) a ということか ? まるまる引用されている英語版記事によれば、この「誤読」による転訛は 18 世紀、「島嶼小文字書体」で書かれたもうひとつの異字体 Ioua の u と n の字面が似通っているために起きた転写ミスに由来するとしている。IouaIvova の派生形で、この Ivova がすなわち「イチイのある場所」という意味。

 以上、ベーダやアダムナンなどの記録した古文献や学説を整理すると、おおまかな共通項が浮かびあがってくる。アイオナという地名は 1). 「ドルイドの島」から 2). 「コルンバの島」を意味するいくつかの呼び名へと変化し、うちひとつが 3). スコットランドゲール語の Ii-shona 、ラテン語でいう Insula Sancta を意味していた。アイオナは太古の異教時代から特別な島だったわけですね。

 … ところでついこの前、あまり先例のない「生前の禅譲」によって招集されたコンクラーヴェにて新教皇フランシスコが選出されたわけですが、この conclave というラテン語、そのまんま「コンクレイヴ」として英語化してもいたんですね。意味は「秘密会議」。この国ではべつの意味での「密室会議」があいも変わらずまかり通っている … ような気はしますが。そして今日はイエス復活の主日、イースター。もっとも大多数の日本人にとってはさくら花ざかりのこの季節には、「花祭り」のほうがしっくりくるかもしれない、と墓参りで西伊豆に行ったときに思ったのでした。

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