2013年04月08日

ラウテンクラヴィーア ⇒ クレープス父子 ⇒ ヴァルヒャ

1). 先日、いつも行っている図書館にてこんな音源を借りてきました。今年はアーノンクール / レオンハルトによるバッハの「教会カンタータ」をすべて聴いていこうという野望 ( ? ) を胸にもっか一曲ずつ噛み締めるように聴きつづけているんですが、以前からこちらのアルバムも気にはなっていた。で、このたびいっしょに借りてみたんですが … いやもう、ただただおどろくほかなし。これはバッハ好きならまたしても must-buy だと思います。

 1750 年、バッハの死去後にただちに作成された「遺産目録」にはこのディスクに収録されているような「リュートチェンバロ」、a.k.a. ラウテンクラヴィーアなる謎めいた鍵盤楽器が 2台も ( ! ) 記載されていた。ライナーで渡邊順生先生が熱く語っているように、生前のバッハはこの楽器をたいへん気に入り、みずから設計してオルガンビルダーのヒルデブラントに製作させるということまでやってのけている。ライナーによると、どうも最晩年の「音楽の捧げもの」とか「フーガの技法」などのような、単純な単一主題の音楽上の可能性を徹底的に究める、という作風の霊感をあたえたのがまさしくこのラウテンクラヴィーアであり、もっと言えば若き日の作風をガラリと変えてしまったほど、バッハにつよい影響を及ぼしたんだとか。それはすごいことだ。

 バッハは職歴上、オルガン大好き音楽家だとばっかり思っていたが、当時の音楽家の必需品たるクラヴィコードも大好き、ヴァイオリンもお手のもの、だが弦楽器族ではとりわけリュートをこよなく愛していたことが資料などから明らかになっています。前にも書いたかもしれないが、リュートってけったいな形状の楽器ですね。ネック部分が直角に折れ曲がり、張っている弦もいちおう 11 本が標準らしいけれども、13 本やそれ以上、なんてのもあった。低音仕様の大型リュートのテオルボなんてのもあります。

 ライナーにもどると、なんでもこの「鍵盤で弾くリュート」、ちょうどバッハの活躍していたドイツで隆盛を誇ったとのこと。裏返せば、ドイツ以外ではまるで流行らなかったという点が、個人的にはたいへん興味を惹かれるのであった。もっとも録音に使われているのは奏者の山田貢先生の独自研究の成果といえるもので、寸分たがわぬバッハ時代のラウテンクラヴィーアの「レプリカ」というわけではない。想像で補った部分もあるとはいえ、よくぞこの音楽史から消えた楽器を復元し、その響きを録音してくれたものだと拍手を送りたい気分です。収録曲はバッハの「組曲 ホ短調 BWV.996 」などのリュートのために書かれたと考えられている 4作品と、ドレスデン宮廷きってのリュートの名手でバッハの親友でもあったシルヴィウス・レオポルド・ヴァイスのソナタ作品。一曲目の出だしから、そのなんとも言えない精妙なるガット弦の美しい調べにすっかり魅了されてしまった。ここで例によって「パブロフの犬」的にこう思ってしまう ―― これで「3声 / 6声のリチェルカーレ」とか、「フーガの技法」、「ゴルトベルク」をぜひ聴いてみたいものだ、と。ラウテンクラヴィーアのいいところは、チェンバロのようなキンキンした響きがないところ。とにかく耳に心地よいのです。眠れぬ夜には最高の友。

2). そんな折も折、いまひとつ心を捉えたことがあります … それは去る週末、ひさしぶりに Pipedreams を聴取したときのこと。ヨハン・ルートヴィヒ・クレープス … そうそう、大バッハには娘を嫁がせたアルトニコルとか、キルンベルガーとか何人か優秀なお弟子さんがいたけれども、なかでも「父と子」二代にわたって文字どおりバッハの教えを忠実に学び、実践していった父のヨハン・トビアス・クレープス、息子のヨハン・ルートヴィヒ・クレープスの存在も忘れるわけにはいきません。とりあえずいま英語版 Wikipediaヨハン・ルートヴィヒの記事を見たら、バッハは高く買っていたらしい。でも時代はすでにギャラントな古典派に取って代わられようとしていて、ヨハン・ルートヴィヒのようにかたくなに師匠譲りのポリフォニックな作品は受けがよくなかったらしい。バッハ亡き後、7人もの子どもたちを抱える一家を支えるためにありつけるポストにはなんでも就いて糊口をしのいでいたようです。けっきょく作品依頼は一件もこなかったらしい。それでもオルガン作品 ( BWV 番号にも彼の作品が少数ながら紛れこんでいる ) や2本のリュートと管弦楽のための協奏曲とか書いています。彼の 3人の息子たちも音楽家になったようで、うちひとりは高名なドイツ歌曲の作曲家になったみたいです。

 … レオンハルトみずからバッハに扮した伝記映画があったけれども、ここでワタシの脳裏には、「クレープス父子とバッハ」を描いた小説とか、だれか書いてくれないかな … などとまたしてもしようもないことを夢想している。きっかけは、大塚直哉先生の「クラヴィス 〜 鍵〜 」というディスクを聴いたことによる影響、というのもある。こちらも物語仕立てになってまして、カベソンやスヴェーリンク、バッハにいたる鍵盤音楽をオルガン・クラヴィコード・チェンバロと弾き分けているとても凝った趣向のアルバム。ワタシはこのジャケットの少年音楽家に、バッハが「アリアとさまざまな変奏」を作曲した当時に14歳だったゴルトベルクのイメージを重ねあわせていた。

3). でもじつはそれでおどろくのはまだ早かった。… なんと Pipedreams のおなじプログラム内に、ヴァルヒャの作曲した作品まで流れてました !! 噂には聞いていたが、いやもう「バッハの鍵盤作品演奏の権威」という、ややもすれば「おかたい」イメージで語られがちなヴァルヒャ像がどこかへ吹き飛んでしまう、ひじょうにおもしろい作品でした。… 演奏者は弟子のひとりのヴォルフガング・リュプサム。リュプサム … はたしか Naxos レーベルの録音が多いから、ひょっとして、と思い例によって NML サイトで探したら、ありました !!! しかも 4つも !!!! これはもう片っ端から聴くしかないじゃないですか ( 笑 )。もっとはやく知っていればよかった。

 故岳藤豪希氏が師匠ヴァルヒャの即興演奏について、「あくまでポリフォニーが基本なんですが、ファンタジーからフーガになり、最後はコラールになった」のように書いていたことを思い出しながら耳を傾けていた。その評どおり、とにかく自由だ、というのが第一印象。奇しくもヴァルヒャとおなじ 1991年 8月 11日に亡くなったフランスの盲目のオルガニストで作曲家のガストン・リテーズの作品です、と言われたらそう信じてしまいそうなくらい、ドイツ的というより、なんか半音階多用の色彩的なフランス風なコラール前奏曲のように感じたのでした。こんど NML のアクセス権を更新したら全曲制覇しよう。

 … 最後に週末に聴いたこちら。礼拝の締めくくりとして演奏される英国特有の「オルガン・ヴォランタリー」。いままでいろんな作品を聴いてきたけれども、今回ほどぶったまげたことはなかった。というか、こんなん演奏していいの ? みたいな感じ。なんとジャズオルガン ?! みたいなノリノリの作品。いままで厳かに、粛々と進行してきた式次第が、最後の最後になってはっちゃけた「無礼講」になった感じ。ちなみにこの 'Live wire' という作品、今回はじめてのオンエアだとか。つぎの日曜まで聴取できるので、お好きな方はぜひ。時間のない方はプレイヤーのスライダを 51分 35秒あたりまで進めてから聴いてください。

posted by Curragh at 23:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽関連
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