2007年11月06日

今年のYCOYは

1). 今年もこの時期が巡ってきました。BBC Radio2主催のYoung Choristers of the Year 2007(YCOY)。最近、このコンテストを取り巻く環境はかならずしも良好ではないようで、あくまでも小耳に挟んだていどの信憑性でしかないが、聖歌隊側がだんだん乗り気でなくなっているらしい。ただでさえ絶対数の足りないなかで優秀なコリスターをあっちこっちに引っぱりまわされるのは困る、ということらしい。とはいえどこの聖歌隊も台所事情は火の車なので、コンテストで獲得できる賞金は貴重な財源(?)のはず。もっともカネ目当てで候補者を送りこむわけではありません、念のため。

 サイトを見たら、審査委員長はかのジョン・ラッター先生ですか。しかもプレゼンターがアレッド・ジョーンズ(ひさしぶり?)。今年の会場はセントポール。ウェストミンスター以上に残響があると感じたのは気のせいだろうか、とにかくよく響く会場ですね。ちょっとおかしかったのは審査委員長とアレッドのやりとり。「自分が少年聖歌隊員だったころから議論されてきた問題、少女聖歌隊員と少年聖歌隊員、どちらがザ・ベストか? ここではっきりケリをつけてくれませんか?」とアレッドが詰め寄った(?)ら、「両方ともベストだ」とのおこたえ。アレッドはことボーイソプラノにかんしてはかなりの保守派のようで、少年の声にこだわりがあるみたいです。そんなこと言ってる自分もそうだけれど…。けっきょく好みの問題、というわけですが(Aled: '...When I was a young chorister there'd always been debated; who'd be the best singers in the churches, girls or boys? Can you settle this argument once and for all?'/J.Rutter: 'Both!' というふうに聞こえました。ついでにアレッドは女子聖歌隊員と少年聖歌隊員の歌声を区別できる、利き酒ならぬ利き声ができると豪語してもいますが…ほんとかな?)。

 自分の聴いた印象を手短かに書いておきます。トップバッターのオリヴァー少年は、最初女の子が歌ってるのかと聴きまちがえるような声質でした。もとアンドリューくんも在籍していたテュークスベリー・アビイ・スコラ・カントルムの子。赤ちゃんヘビ(!)をペットとして飼っているらしい。でかくなると5フィートになる、とこたえていたから、オリヴァーくんの背丈くらいにまでなるのかしら。歌ったのはBrightest and best of the sons of the morningという1月6日の「顕現日(Epiphany)」用聖歌と、有名なマックス・レーガーの「マリアの子守歌」。すなおな発声で好感はもてました。二番目のトムくんという子はバッハの教会カンタータBWV.68のアリアを歌ってましたが、ちょっと解釈が皮相的というか、さらさらと歌い流している感じ(聖歌隊のほかにピアノにヴァイオリン、クリケットにチェスと多才なトム少年ですが、聖歌隊活動については趣味の時間を取られるとこぼしてもいましたorz)。おんなじアリアを歌ったウィーン少の子(「カンタータ全集」所収のもの)のディスクをひさしぶりに引っ張り出して聴きくらべてみましたが、やっぱりウィーン少のほうがはるかにしっかりした歌い方。三番手が待ってましたウィンチェスターカレッジのクィリスター、ヒューゴくん。兄弟そろってコンテストに出場、というのはそれだけでもすごいことです。バッハを歌ったさっきの子より安定感があり、堂々と歌い上げていましたが、ところどころやや力みがあったように感じました。偉大な兄の面前で歌うのはやはり重圧だったかもしれませんね。発声は伸びやかで、すなおな歌い方という印象。フランクの「天使のパン」を歌ってました(ちなみに英国聖公会ではこの作品はめったに典礼では歌われないとのこと。なんの取材記事だったかは失念したが、BACのエドもこの曲を「歌ったことがない」とこたえていたのを読んだおぼえがあります)。最後がカンタベリー大聖堂聖歌隊のソリストというジョエルくん。昨年アンドリューくんが歌ったのとおんなじMy song is love unknownという聖歌、つづいてジョン・アイアランドIt is a thing most wonderful(Ex Ore Innocentium)でした。第一印象は、ハリーくん+アンドリューくんの声を足して2で割ったような感じ。歌い方もひじょうに安定していて好印象。なので、低音質なストリーミング放送で聴いたかぎりでも、今年の選考結果はこれで順当な線ではないかと思いました。昨年はちょっと意外な気もしたが…でもまぁいまでは仲良く二代目「もぎたて」くんどうしだし、この時期のボーイソプラノの声はどんどん成熟度を増していくので、きっといいアンサンブルを聴かせてくれるはずです(ビデオクリップがあることは知っているが、暇がなくていまだに見てもいないorz)。審査委員長のラッター先生は、わりとすんなり結論がでたとおっしゃっていました(Aled: 'Did you all agree?' /J. Rutter: 'We really did! Yes, there's a little bit of discussion but pretty much we found what we think we're looking for.'という感じになまくらな耳には聞こえました)。またラッター先生は、セントポールの壮麗な建物にも引けをとらない全員の健闘ぶりをたたえてもいました(ゲストのBlakeというヴォーカルユニットのめんめんも聖歌隊出身者らしい)。

2). きのうの朝、自室の掃除をしていて、たまたま茶の間に出入りしたときなにげなくTVを見たら、カウンターテノールの米良美一さんが写ってました。話には聞いていたけれども、米良さんがそんな先天性のご病気だったとは知らなかった。幼少時代は骨折を何度も繰り返したり、いわれなき偏見にいじめ。成長期には寝たきりの生活を余儀なくされ、親子心中…というのも考えたそうです。というわけでけっきょく最後まで見入ってしまったのですが、涙なくしてはとても見られなかった。米良さんというとすぐ例の映画の主題歌の歌い手として語られることが多いような気がするけれども、自分はそれ以前の国内デビューアルバムと、バッハのカンタータ録音で知っていたので、すばらしい正統派カウンターテノールの歌い手という印象を持ってました。TV番組でご自分の歩まれた険しい険しい道のりを語っているのを見たとき、ああ、だからこの人の歌は聴く者の心を動かすんだなあとあたらめて思いました。「文は人なり、歌もまた人なり」。そのような事情をなにも聞かされていなくても、歌声を聴けばその人の人生がおのずと滲み出てきて聴き手に伝わるものだと思う。その点アレッドは恵まれすぎるくらいの少年時代だったんじゃないかな。とはいえアレッドのあの歌声も、自分にとっては米良さんと同様、天からの賜りものにほかならないけれども。ともかく米良さんのお話を聞いて涙しつつ、同時にわが身が恥ずかしくもあり。米良さんにくらべればわりと平々凡々だと思うけれども、これでも高校生の時分にちょっと大きな病気をして、「昔だったらきみは死んでた」なんて医者に言われたりもしたから、いまこうして大好きな音楽が聴けるだけでも感謝しなくてはいけないのだろう。米良さんはいままでご自身の病気のことをひた隠しにして過ごしてきたという。どこかで見返してやるぞという、ひねくれた根性もあったという。でもかつてはそうだった米良さんも、いまはただただ感謝あるのみ、日々精進をつづけていると言います。

 アンソニーのアルバムのひとつに「感謝する心('A grateful heart')」というひじょうに感動的な小品が収録されていて、大のお気に入りの一曲でもあるのですが、米良さんのような心境に達しないかぎりほんとうに「感謝する心」というのはもてないのかなあ、とも感じた。口先だけの感謝じゃだめ。その「重み」を知ってはじめて心から感謝の気持ちがこんこんと湧き出してくるものなのでしょう。

 今日は休みを取ったので、一日じゅうNHK-FMをかけっぱなし(それとYCOYを聴いていた)。「ミュージックプラザ第1部/クラシック」ではのっけからバンゴア大聖堂聖歌隊員時代のアレッドの歌う「天使のパン」! 「大器晩成」型の作曲家としてフランクとブルックナーの作品がかかってました。ブルックナーの'Locus Iste'、いいなぁ。またしても泣けてきた。絶筆の「9番」第3楽章もすばらしかった。往年の名指揮者ギュンター・ヴァント! でもなぜか絶筆は――モーツァルト、バッハ、ベートーヴェンの「第9」も――ニ短調ですね…これってたんなる偶然なんだろうか(前にも書いたけれど)。

*Keikoさんへ: アレッドとラッター先生のやりとり、自分の書き方がかなり大雑把だったので、訂正しました。きちんと聞き取っておられたのはさすがですね(→寝転がって聴いていた人orz)。

posted by Curragh at 00:01| Comment(9) | TrackBack(0) | 音楽関連
この記事へのコメント
詳しいレポートをありがとうございます。(うちのほうでも、Hugoにfocusした記事をまた書くつもりなのですが)

Aledの、girlsとboysはどちらがいいかという質問は確かに今さらか・・・って感じしましたが、ラター先生の返事の雰囲気からも、この2人のやりとりは事前に示し合わせていたんじゃと思いました・・(ラター氏にbothと言わせること自体が目的だったというか。。

>絶対数の足りないなかで優秀なコリスターをあっちこっちに引っぱりまわされるのは困る

あ、1年間はBBCの番組に出演するほうに時間がとられるってことですね?

Joelくんはさすがに一番良かったですね。繊細なビブラートもできてたようだし。Hugoが「天使のパン」を歌ったのはちょっと意外でした。決勝1週間前にも、例の無料イベント(Curraghさんが教えてくださった)でこれを歌ったそうですが、その様子をJudyさんから聞いていて、うーーん・・どうだろうなあ・・・というなんともいえない予感がしてたんです。。

重圧。。ほんとにおっしゃるとおりですね。



Posted by Keiko at 2007年11月06日 10:22
また繰り返し放送を聴いていたのですが、、ラター先生とのやりとりだけじゃなくて他の人たちとのやつも、どんなことを言うかってのは事前に決めてリハ重ねてるんでしょうね。girlsとboysについてのやりとりも、日本人だったら単に「どちらも素晴らしいですね」で済ませるところを、「どちらがいいかという議論にもう決着をつけようではありませんか」とひとひねりしたというか、英国人らしいユーモアだったんでしょうか?
Posted by Keiko at 2007年11月07日 00:30
ひねったというより、「すべて男声のみ」という聖歌隊の長年の伝統がないがしろにされていると憤慨する保守派(?、抵抗勢力かな?)が英国本国ではいまだに多いということを踏まえて、大まじめに、でもおもしろおかしくふるまって訊いているのだと思います。げんにVoAにいたとき、ときおり忘れかけたころに「少年のみの声がいいのか、それとも少女とmixed choirのほうがいいのか」というあまり実りのない議論が蒸し返されるのをさんざん見てきましたから。たしかBCSDのリンクページには、そんな英国聖歌隊の伝統を救え! みたいな保守派サイトのリンクが紹介されているはずです。

お手許の'The English Chorister'のp.268を読んでみてください。笑えるこぼれ話が書いてありますよ。
Posted by Curragh at 2007年11月07日 08:57
私がちゃんと聞き取っていたなんて、、とんでもないですよー(>_<) HugoとAledのやりとりだって、前半しかわからなくて、今Judyさんになんて言ってたんですかって尋ねているくらいです。。。2番目の子についても、AledがGets in the way?!ってびっくりしてたのはわかったけど、何に対してと言っているのかということが、Curraghさんの訳をみてやっとわかった次第です。ところで、彼がバッハの68を歌ったのは勇敢だったなと思うけど、ほんとに全然物足りない感じでした。この曲はAledの円熟期の録音があるので比べてしまって・・レベル違いすぎるから可哀想ですけどねー 

話はラター先生のところに戻りますが、、なるほど、そのへん深い意味があるのですね。ただ、私自身choristerなんてboysじゃなければ絶対ダメと思っていたので、当初は、え!girl choristerなんてーーと思っていたのですが、こうして聴いてみるとなかなかいなと思って。。少なくともこのコンテストでどちらも同じ土俵で平等に評価しているということは、girlsを認める世論?が定着してきて、最近は保守派勢力は本当に小さくなってきたということなのでしょうか?

ECのp. 268ですね?その前のページの下から2行目あたりくらいからでしょうか。。わー難しそう。。orz..後ほど。Curraghさんは全部読まれたのですか。訳本出してくださいよ。
Posted by Keiko at 2007年11月09日 11:17
あ、それからすみません細かいことですが、、ゲストの4人組の男声ユニットはBreakじゃなくてBlakeでしたっけね。

http://www.amazon.co.uk/Blake/dp/B000TZGQHM/ref=sr_1_1/203-8784148-5622347?ie=UTF8&s=music&qid=1194575100&sr=1-1

Moon River と Steal Awayを歌っていましたが、後者がとりわけ素晴らしかった。

Posted by Keiko at 2007年11月09日 11:27
お久しぶりです。ちょっと口をはさみたくなりました(笑)。
まず、エドが天使のパンを歌ったことがないと言っていたのは、エドが暁星小学校聖歌隊を訪れたときのインタビューのことだと思います。(私は「少年合唱団・天使の歌声」という世界の少年合唱団ガイドに載っていたのを見ました)
天使のパンは、アンソニーもTVドラマで歌っていましたが、急に高音になる部分が多いので、正確な音程をつかむのが難しい曲だと思います。Hugoも緊張のせいなのか、ちょっと声が不安定でしたね。

それから、ジョエルくんの歌も聴いてみましたが、やはり安定感がありましたね。声がまっすぐ伸びていて、高音も安心して聴いていられました。

私もHugoのインタビューの後半が全然わからなかったので、keikoさん、わかったら教えてくださいね!
Posted by Satomi at 2007年11月10日 17:15
そうですね。。。Hugoは、何か別の曲のほうがよかったかもと・・・うーん。
Joelくんはこれからソロとか出さないかな。もっと聴きたいですね。

それから、Curraghさん、私この記事を読ませていただいて、自分の恥ずかしい間違いに気づいたことがあるんですよーー! AndrewくんもMy song is love unknownを歌ったとありますが、これ、Harryも2003年に歌っているのです。それで、わたし、ブログにGood luck, Hugoの記事を書いたとき、当時の新聞記事を紹介したくだりで、My Song is Love (作者不詳)って書いてましたっ!!うわっ、unknownまでが曲のタイトルだったんですね。。。英語で商売をしている人間のやることじゃないです。穴があったら入りたい・・・m(__)m


Posted by Keiko at 2007年11月11日 00:50
Keikoさん

'Blake'でしたか。自分もこれ'Break'かな、それとも'Blake'なのか? と迷った箇所なんです。ようするにLとRが聞き取れていなかっただけの話なんですが。ありがとうございます。訂正しておきました。

それにしても'Blake'って、有名な詩人にして画家みたいな名前ですね。
Posted by Curragh at 2007年11月11日 01:02
あっ、私も自分で聞き取ったからお知らせしたわけじゃないんですっ!BBCのサイトにほんの一瞬載ってませんでした?? 

わたしも、なんでBlakeだろうと関連性をふと考えました。上記紹介したCDのなかに、'Jerusalem'が入っていますが、メンバーがBlakeを好きなのかな? 
Posted by Keiko at 2007年11月11日 10:29
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