2013年04月28日

才能はすばらしいが …

 先週の「ベスト・オヴ・クラシック」は、なんとうれしいことに「オルガンの響き」! というわけで、モンテヴェルディのいつものファンファーレに乗って、たっぷりと欧州のオルガンの響きを堪能できたことはとても幸運でありました … とはいえもっとも楽しみにしていた最終日のトマーナとの演奏会のもようは、あいにく疲労困憊していたためか、ぐっすり眠っていて右の耳から左の耳へと抜けていたのでまるで記憶なし。気づいたのはすでに番組終了まぎわ、2月に逝去したフランスの名オルガニスト、M.C. アラン女史による「パッサカリア BWV.582 」だった。

 月曜日はスロヴァキア最大級とかいう、おそらくコンサートオルガンと呼ばれるタイプの楽器を使用した公開放送リサイタル。楽器の音色じたいはよかったんですけれど、なんかこう物足りない … と思ったら、残響があんまりありません。ラジオスタジオ内にあるせいかもしれないが … 曲目はフレスコバルディにフローベルガー、バッハとよかったんですけれどもね。

火曜日は、黒マリアさんと「モンセラートの朱い本」で有名なカタルーニャの聖地、モンセラート修道院内聖堂のオルガン。モンセラは FB 上でもしょっちゅう画像とか見てるけれども、ここの楽器もまた現代の楽器、というかここのページ見ると 2010年に建造したばっかの真新しい楽器みたいです。水平トランペットが突き出すこの大オルガンは 4段の手鍵盤、63ストップというもの。当然のことながら残響はたいへんに豊かで、音色もキンキンしたところがなく、とても耳に心地よい。バッハの「前奏曲とフーガ BWV.552 」とかかかってましたが … あらら、なんだかずいぶん中途半端なところで切るんですな。演奏者のミケル・ゴンサレスさんの意図がどのへんにあるのかは知りませんけれども、前奏曲だけでなく、「三位一体の」三重フーガの終結部まで、最終小節まで演奏せずに終わってしまったのはいったい … ??? 番組後半の、タラゴーナにあるカタルーニャ最大の楽器というオルガンで演奏されたプログラムにはご当地の作曲家カバニーリェスのガイヤルドとカンツォーナなどで、こっちの楽器もモンセラの現代楽器に負けずに響きが美しく、すばらしかった。

 で、トマーナの回はあいにく書いたとおりなので、最後に聴取した米国の若き「天才奏者」、キャメロン・カーペンターについて。この人のお名前は、図書館から借りて聴いているバッハの教会カンタータ全集 … とオルガン版「ゴルトベルク」のあいまにかけっぱなしにしている Organlive.com ではじめて知った。第一印象としては、「ヴァージル・フォックスの再来 ? 」みたいな感じ。故カルロ・カーリー以上にド派手で、型破りな演奏スタイル。でも番組でこの人の経歴紹介を聞かされると、いわゆる「天才肌の人」ということがわかった。十代のころより作曲も手がけ、長いオルガン音楽の伝統に則った「即興演奏」も得意としている。作曲のみならず編曲もけっこうこなし、番組でかかったのだけでもバッハの「無伴奏チェロ組曲 第1番 BWV. 1007 」とかリストの「超絶技巧練習曲」から「鬼火」、アイヴズの「ピアノ・ソナタ 第2番 マサチューセッツ州 コンコード 1840年 〜 60年」から第3楽章などなど、じつに多彩・多才です。とくにリスト作品は超がつくほどの難曲。たしかに天才です。でもワタシはあいにくこういうスタイルの演奏が苦手。それでもバッハの「ト短調の幻想曲とフーガ BWV.542 」をしかと「聴き」耳立てて聴取していたが … ひとつ重要な問題を考えざるを得なくなった。こういう演奏家って、「音楽の美しさ」という基準はいったいどうなってんのかな、と。会場はブクステフーデゆかりのリューベックの音楽会議場というところで、オルガンの音響を聴いているかぎりではおそらく演奏者当人が会場に持ちこんだ「チャーチオルガン」っぽい。BWV. 542 の演奏をひとことで言えば、「街角の手回しオルガンが奏でるバッハ」という印象でしかない。ころころ音色を変える演奏も好きになれないし、楽器の響きじたいが薄っぺらで安っぽく、ときおり耳障りでさえある。

 … どういうわけか米国のオルガニストって、せっかくの天賦の才能をこういうかたちでしか表現しないタイプの人が多いような気がする。かちかちの伝統にとらわれない、自由自在なスタイルならなんだっていいみたいなところがある。その点、おんなじ系統に属したカルロ・カーリーのほうが、「音楽の美しさ」においてまだましだった。個人的には「まともな」演奏を聴かせてくれる米国人オルガニストとくると、エドワード・パワー・ビッグスくらいしか思い浮かばない。

 同様に、たとえばモーツァルトのピアノ協奏曲のカデンツァにいきなりモダンジャズ ? を即興演奏しちゃうタイプの奏者も気に入らない。なんでもかんでもジャズにしていいってもんじゃないでしょ、と言いたくなる。

 というわけで、けさ NHK第 1 の「音楽の泉」でかかっていた「バッハのオルガン曲集」のほうが、よっぽどよかったというオチでした。

重要な追記:いましがた、待てよひょっとして … と思って過去記事検索したら、この人のことしっかり書いていたりして ( 脂汗) 。なにせ記事本数が 700 を超えているので、書いた当人も ―― 似たようなことは村上春樹氏もおっしゃっていたけれども ―― 昔書いた記事のことはてんで忘れてしまっているていたらくなので、何卒ご容赦を。m(_ _)m 

posted by Curragh at 20:54| Comment(2) | TrackBack(0) | NHK-FM
この記事へのコメント
キャメロン・カーペンターのBWV565(手持ちの「Revolutionary」に収録)、何でもありのやりたい放題のようで、実はやりたいことが見つからない、という感じでしょうか。とにかく、あまり趣味がよいとはいえませんね。しかし同CD収録の、自由曲ではないBWV659は至極まともな演奏で、彼のなかでは、はっきりした線引きがあるのかもしれません。
Posted by aeternitas at 2013年04月29日 21:28
aeternitas さん、

おお、カーペンターのアルバムをお持ちでしたか ! さすがですね。そして情報もどうもありがとうございます ! そうですか、そのコラール前奏曲はワタシも好きなのです。さっそく NML で試聴 … しようとしたら、あいにくまだ入ってないようですね。残念。

天才肌、といっても、グールドとはまたちがうのかな、と … カーペンター氏はたしかに神童で天賦の才能に恵まれたオルガニストだとは思いますが、「一種の天才」にすぎないような印象です。とはいえそのコラール、ぜひ聴いてみたいものです。
Posted by Curragh at 2013年04月29日 22:17
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