2007年11月10日

突然の展開に驚いた

 なにがって、あのツタンカーメン(トゥト・アンク・アメン)王のミイラが公開展示されている!! あまりに突然の展開でこちらは驚くほかない(いまさっきBBC Radio2のYCOYオンデマンド再放送を聴いてみたら、番組直前のニュースでツタンカーメン王のミイラ公開のニュースが報じられていたことにいまごろ気づいたorz)。

 仕掛け人は例の「出たがり博士」、エジプト考古最高評議会議長ザヒ・ハワス博士。このほど2年にわたる米国でのツタンカーメン関連展がぶじ終わって、こんどは英国ロンドンにてふたたび展示されるらしい。そんな関係なのか、いまさっきBBCのサイトを見たら王の亡骸が石英でできた巨大な石棺から運び出されるようすの生中継映像が出てきました。一部民放のニュースでも放映していたみたいですが、あいにく見逃した。おそらくはこのBBCの映像とおんなじものが流れたと察します。

 それにしてもなぜいま、唐突に王のミイラ公開なのか。ハワス博士によると、2年前のCTスキャン以降、王の「きわめてもろい」ミイラの保存修復作業がこのほど終わったので、カイロ・エジプト博物館のほかの王たちのミイラ同様、温度・湿度管理を厳重に設定した透明ケースへと移すことにしたんだとか。このまま石棺内に放置しておけば、詰めかける観光客の湿気と人いきれのせいで「石室内湿度が上昇し、(石棺に入れたままでは)ミイラが塵と化す恐れがあった。ミイラで唯一良好なのは王の顔だ。顔だけでも守らなければならない」*。で、塵と消えないうちに、ハワード・カーターが墓の降下階段の最初の段を発見してからちょうど 85 年にあたる 11月4 日を選んで、ミイラ移動作戦を実行に移したという。ツタンカーメン王のミイラの入った木箱を、石棺内に安置されている第一人型棺からロープを渡して( ! なんだかずいぶん危なっかしい取り出し方…)取り出し、みんなでかついで玄室床面より1.5 m ほど高い「控えの間」に運び出し、そこにあらたに設置された透明ケースにミイラを入れ、晴れて王とご対面! とあいなる(→AFP通信社サイトNYTimes関連記事)。

 たしかに博士の説明はもっともだとは思うけれども、玄室そのものを空調管理することはできないのだろうか? 石棺ごと透明アクリル板かなんかで覆って、温度と湿度管理をして…ではだめなんだろうか? 玄室の鮮やかな壁画も――高松塚ほどではないが――青カビがはびこっているという話を聞いていますし。ミイラはよしとしても、地下墳墓そのものが危ないような気がします。たしか以前、王家の谷が土砂降りに見舞われたとき、ツタンカーメン王墓が水没してしばらくのあいだ閉鎖されたことがありましたし。「みんな、王がどんな顔立ちなのか夢想している。…彼の美しい出っ歯とともに、観光客はこのゴールデンボーイの微笑を見出すだろう」。ハワス博士の言動を見ていると、なんかこう、「みんなをあッと言わせる話題作り」をしてはエジプトに外貨を落としてもらおうみたいな姿勢が強いような気がするのはこちらがそういううがった目で見ているからだろうか。またハワス博士は考古学者であって、ミイラのエキスパートである古病理学者ではない。なので古病理学の専門家が王のミイラはいまの石棺から防湿透明ケースに移すべきだと主張して、最高責任者の博士がその主張を受け入れたものと信じます。The Independent紙関連記事を見ますと、カナダから来たという夫婦はハワス博士の「読み」どおりの受けこたえでしたが、やはりかならずしも突然のミイラ公開をすなおに喜ぶ声だけではないようで。

'I really think he should be left alone in quiet, in peace,' said Bob Philpotts, a British tourist. 'This is his resting place, and he should be left.'

 同感ですね…と言っておきながら、同時に「王の顔を拝みたい」という俗物根性がふつふつと頭をもたげてしまう、まったくもってアンビヴァレントな自分がいるorz( 苦笑 )。ハワス博士の術中にハマってしまった感なきにしもあらず。

 それと、いまひとつおおいに気がかりなのはセキュリティ面の問題。どう見てもあの透明な保護ケースはヤワそうだし、王のかけがえのないミイラはほんとにあれで大丈夫なんだろうか??? どっしりした石棺(sarcophagus、このギリシャ語起源のことばのもともとの意味は「肉+食べる」で文字どおり石の柩が死体の肉を喰らっていたという想像から。ふつう化粧や浮き彫りの施された豪華な石棺を指して使われます)の中のほうがやはり理想的なような気がしますが、いまの王家の谷の警備状況ってどうなんでしょうね。10年ほど前にはハトシェプスト女王葬祭殿でテロリストどもに観光客がおおぜい殺されるという悲惨な事件も起きていますし。こちらも当方の杞憂で終わればいいんですけれども。

*...The Independentに寄稿した大英博物館古代エジプト・スーダン部の先生によると、今回の措置は「ツタンカーメン王墓は谷の王墓中最小規模で、この狭い空間におおぜいの見物人が入れば地下墳墓内はすぐに蒸し暑くなる。この湿気が蒸発したあとに残る塩分が結晶化し、それが王の亡骸に損傷をあたえる恐れがある」と指摘していました(→記事)。

 追記。11日、エジプト考古最高評議会はツタンカーメン王墓保護のため、一日あたりの王墓入場者数を400人に限定、また来年5月から玄室壁画の修復のために王墓を無期限閉鎖すると発表したようです(→関連記事12)。

 王墓の見学客数を制限する、というのはもちろん賛成(1日あたり400人という数がはたして適正なのかはべつとしても)。でもなんといっても、カーターが王墓を発見して以来、ずっと手つかずだった玄室壁画の保全修復に乗り出した意義のほうが大きい。これで王墓と玄室壁画の保護保全について対策が取られたかたちになります。残る心配の種は王のミイラの「安全」面だけですね。

posted by Curragh at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史・考古学
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