2006年05月11日

639年もかかる演奏会って…

 いろいろ変わったことをして町おこし、というのは過疎や高齢化に悩む町や村では世界的な常套手段です。

 音楽関係でもこの手の話題はよく耳にしますが、5日付NYTimes電子版のこの記事で紹介されたある演奏会もユニークさではピカ一かもしれません。

 「4分33秒」など、いろいろけったいな作品を残した現代音楽の巨匠ジョン・ケージ。記事の内容は、リューベック、ハンブルクとならぶハンザ同盟都市だったドイツのハルバーシュタットの廃墟となった教会で、ケージのオルガン(!)作品の演奏会が5日に開かれた、というものですが、ただの演奏会じゃありません。なんと作品を演奏し終えるのが639年後!!?? 

 いったいどういうことかというと、このケージの作品名はAs slow as possible で、それを文字通り「できるかぎり遅く」解釈して、きわめてゆっくりゆっくりのろのろ演奏していこう、という企画。作曲者ケージは演奏時間を指定していないことから、過去の演奏では30分だったり70分だったりしたそうです。今回の企画は、ケージの命日1992年9月5日(関係ないけれどもシュヴァイツァー博士の命日のつぎの日)にちなんで2001年9月5日から動き始めたそうですが、音を出すまでの準備に時間をとられて、実際にオルガン――ごたいそうなものではなくて、最低限そろえただけの代物――が最初の和音をめでたく奏でたのが2003年2月5日。以降、年に一度ないし二度ほど、その月の5日につぎの音符が奏されるまでずっとおんなじ音鍵が鳴りっぱなし(さすがにご近所迷惑なので、楽器はガラスケースに封印されている)。それをひたすら繰り返して639年後には晴れて演奏終了、お疲れさん! という運びになる…予定です(あくまで予定)。

 なんでまた639年なのか? 初期ドイツバロックを代表する作曲家・オルガニストで音楽百科事典(Syntagma musicum)もものしているミヒャエル・プレトリウスが、近代的な鍵盤(おそらく全音半音がほぼ現在とおなじ組み合わせの、完全8度音程をそなえた鍵盤のことだと思います。ただし当時は鍵盤と言っても指ではなくてこぶしでひっぱたく、カリヨンタイプの鍵盤でした。またこのハルバーシュタット・オルガンは復元されてもいます)をはじめて備えたオルガンがハルバーシュタット大聖堂に建造された、という記事を書いているため。それが1361年のことで、ミレニアムイヤーの2000年から引き算すると639…からだそうです(なんか牽強付会の嫌いがないわけでもないが…)。

 このとほうもない企画、単なる悪ふざけのようにも聞こえますが、もともとは町おこしとはまるで関係のない、9年前に開催されたきわめてまじめなオルガン音楽の会議に出席していたドイツ人音楽学者の何気ない一言から生まれたものだそうです。「ケージはAs slow as possible の演奏時間を指定していない。理論上、オルガンという楽器は音鍵を押しつづければ永遠に音を鳴らすことができる。となると、この作品の演奏時間は? 何日単位か何週単位か、それとも年単位なのか?」

 もっとも発言した当人は冗談半分だったのに、ほかの出席者が真剣に議論しはじめた…「楽器が壊れるまで」なんて意見まで出たり…ついで問題になったのが、これをどこで演奏するかということ。これについては、出席者のひとりだった作曲家がたまたまハルバーシュタットのシトー会修道院だったこの廃墟で少年時代に遊んだことを思い出し、当地の彫刻家のつてでケージ・プロジェクトとして組織。当局側も町おこしになるというので全面協力とあいなり、今月5日につぎの和音が鳴り響いたのでした。

 …ほとんど楽器と人間双方の耐久レース、みたいな感じではありますが、もうひとつ、聴衆のほうもたいへんな記憶力を要求されますね…つぎの音が鳴るまでそれまでのパッセージなんか憶えてないですって(苦笑)。

posted by Curragh at 02:22| Comment(1) | TrackBack(0) | 最近のニュースから
この記事へのコメント
気の遠くなりそうなお話に、思わず笑いが漏れてしまいました。

どなたが最後の一音を聴くのでしょう。
聴き届けたら、またニュースになりそうですね。
Posted by Klavier at 2006年05月11日 20:32
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