1). まずはこれ。30 年前、平安京跡で出土した 12世紀末−13世紀はじめの土器の「小皿」。昨年暮れだったか、京都市埋蔵文化財研究所が発見した「最古級のひらがな」についてはここでもちょこっと書きましたが、そのおんなじ研究所で、「そんなら過去に掘り出した土器についても調べてみよう」というわけで再調査した結果、ひらがなで「いろは歌」のほぼ全文が、その 30年も前に出土した「小皿」に墨書きされていたことが判明したと言います。これまたすごい発見です。
こちらの報道によると、どうもこれ「いろは歌」を習っていた貴族の子ども ―― おじゃる丸みたいな感じかしら ? ―― が練習として綴ったひらがならしい … 拙いながらも、こうして掲載画像そして地元紙夕刊にも載っている写真とかもじっくり拝見していると、いっきに時代を遡って、はるか昔、平安京に生きたやんごとなきお方の子息がまさしく目の前で、一心に筆を運んでこの皿に「いろは歌」を書きつけているさまがありありと浮かんでくるようで、軽い眩暈さえおぼえた。こういう仕事ってたしかに好きでなきゃできっこないですが、こんなことがあるから、やめられないんだろうなあ、うらやましい、などとしがない門外漢は思ったしだい。最近、『百年前の日本語』というすこぶる刺激的かつおもしろい新書本を読んだばかりなので、「昔のひらがな字体 ( たとえば、「し」の異字体で「志」によく似た「かな」とか )」にも興味が湧いてきたし、その本に取り上げられていた夏目漱石の『坊っちゃん』と『それから』の「直筆原稿」を通してはじめて知ることも多かった。影響を受けやすい単純 (「単細胞」ではない ! )な性格ゆえ、なんだか急に手書きで、満寿屋さんの原稿用紙とかになにか書きたくなったりしてしまった。
昔の人の書いた日本語の文章、とくると、いまさっき聴取した「きらクラ ! 」で、またしてもびっくりしてしまった。なにがって、岡倉天心の『茶の本』からの一節。恥ずかしながらいまのいままで、こんなすごい本がほぼ百年前に書かれていたとは知らなかった ( 寡聞すぎ )。しかも ―― 知っている人にとってはなにをいまさら、なのだが ―― これ、もとは日本語で書かれたのではない。くわしくは知らないが、おそらく米国滞在中に書いたと思われるけれども、もとはこれすべて英文 ! ですぞ。以前ここでも新渡戸稲造の英文だったかな、とにかく明治の先達の書き著したすぐれた英文のことを書いたような気がするけれど、会話、発信、もちろん重要です、でもね、こういうすばらしい先達の英文をインプットすることも大事だと思うんですね。'Yes, let's.' なんてほとんどお目にかかったことのない言い回しとかを習わせるよりもね。もっとも、ワタシがおどろいたのは原文が英語だった、という点にあるのではなく、村岡博という翻訳者がこの原文を達意の、格調高い日本語にみごとに移し替えたその技にある ( もちろん、原作の内容だってすばらしいのですが。→ 青空文庫版による全文 )。ちなみに岡倉天心の実弟岡倉由三郎という人は、知る人ぞ知る研究社『新英和大辞典』初版の編集主幹だった英文学者で、この『大英和』は「岡倉英和」なんて呼ばれたりします。*
それと、ふかわさんが言っていた、「ボンネット」というのは、蛇足ながらこちらのことで、けっして車のエンジンフードじゃありません !! とここでも念押ししておく。
2). と、そんな折も折、「じぇじぇ ! 」という一方言の「オノマトペ」がブレークし、巷ではけっこう評判の高いらしい、いまの NHK「朝の連続テレビ小説」なんですが、個人的には来年のいまごろに放映予定だという「花子とアン」のほうがはるかに興味あり。なんと、『赤毛のアン』や『秘密の花園』、『小公女』などあまたの児童文学ものの翻訳を手がけた偉大な先駆者、村岡花子さんの半生を描くという ! しかも、「翻訳家」が主役の「朝ドラ」というのは、今回がはじめてではないだろうか。この発表の報に接してから、文字どおり I can't wait, 放送が待ち遠しくてしようがない ( 苦笑 )。
*... 『茶の本』について。いま、比較神話学者キャンベルが 40 数年も前に書いた四部の大作『神の仮面』の最終巻、『創造的神話』を 3章の冒頭部 ( ダ・ヴィンチが描いた音楽家の肖像画のモデルとも推定されるイタリアの音楽理論家ガフリオによる「天球の音楽」図の手前まで ) 読んだところなんですが、ここでカンが働き、おかしいなあ、キャンベルほどの人が『茶の本』を読んでないはずがない ! と思って調べたら、なんと ! 『千の顔を持つ英雄』に出てくるらしい。あいにくそれは持ってなくて、手許にある Reflections on the Art of Living / A Joseph Campbell Companion というアンソロジーに引用箇所が転載されていることを確認。のちほど目を通してみることにします。
2013年06月30日
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