2006年05月28日

Billy Gilman

 音楽と言えば、昔はバッハの鍵盤音楽中心の器楽派だったのですが、少年合唱の世界を知ってからは急激に声楽派へと傾き、いまでは完全に逆転…というか、バロック以前の古楽からカーペンターズまで広がって、基本的に「自分が気に入ったものならなんでも」ジャンルを問わずに聴いて楽しんでいます(歳をとったせいか、最近ようやく童謡のよさにも気づきはじめました)。とはいえ自分では音楽の中心はあくまでもバッハ。けさの「バロックの森」で、ひさびさに「ロ短調ミサ」のグロリアを、F.ブリュッヘンの指揮で聴きました。

 クラシックではない少年歌手も聴いたりしますが、なかでもお気に入りなのが米国のカントリー歌手、ビリー・ギルマン。2000年に12歳でデビューしたころ、たまたまネット経由で彼の歌声を聴いたとき、その子ども離れした歌唱力に心底驚きました…以来、これまでリリースされた5枚のアルバムを買いつづけていますが、残念ながら国内盤は「クラシック・クリスマス」とシャルロット・チャーチとのデュオ盤、Dream a dream (ともにSonyレーベル)しか出ていません(なんでかな…??)。

 でもいまではたいていのものはAmazonで入手できるので、国内盤がないのは残念ではあるけれど、とりあえず手に入れるうえではあんまり差し支えない。輸入版のほうが国内盤より割安だし、いまみたいにうまく円高ドル安になってくれればさらに価格が下がるので、米国の洋楽はやはり原盤を買ったほうがいいかも。

 そんな天才少年歌手ビリーくんですが、先日24日に18歳のバースデイを迎え、近日中に新譜をリリース予定と、一見、とても順風満帆のような印象を受けます…でも変声後、Sonyからべつのレコード会社へ移籍してリリースしたアルバム、Everything and more では、変声期、歌がまったく歌えないつらい2年半のことが「謝辞」コメント中に書いてあり、あらためて読んでみますと、本人はとても苦しかったんだなぁと、胸に迫るものを感じました。

 クラシックでもポップスでも、歌歌いの少年が避けては通れないのが声変わり。声優の子役さんでも台詞が言いにくい、声そのものが出しにくいなどいろいろ苦労するとは思いますが、歌手は自分の体(声帯)が楽器。ビリーくんの場合、2002年、14歳になったばかりのころ、声帯の専門医から「歌もダメ、しゃべるのもダメ」と宣告されてやむなく予定していたコンサートをすべてキャンセル、ひたすら声帯を休ませることに徹する羽目に陥ったそうです。「なんでこんなに早く?」。2歳から歌いつづけ、全米デビュー後は年間90回以上ものコンサートをおこない、TV出演もこなし、歌うことがすなわち生きることだったビリーくんにとって、歌えないのはどんなに辛かったことだろう。たとえ変声期が完了しても、またもとどおり歌えるとはかぎらない。歌手の道はあきらめたほうがいいかも…と考えることもあったらしい。

 アレッド・ジョーンズも、自伝に声変わりのことを書いています(pp. 87-9)。アレッドの場合、トレブルとしては珍しく15歳までソプラノの美声で歌うことができたのですが、「その日」はなんと教会でのレコーディングの最中、16歳の誕生日にやってきた。いつものように各曲を数回ずつ練習してから、本番にかかったのですがどうも声の出がいつもとちがう。心配になったアレッドは収録のあいだ、教会の外の車で待機していた録音スタッフにインターコム越しに訊きつづける。「ぼくの声、なんかヘンじゃない?」。「いやぁ、大丈夫、つづけよう」。このときすでにプロデューサー以下スタッフも声の変調に気づいていて、スタッフに同行していたアレッドの母親はすすり泣いていたらしい。そうとは知らないアレッドは違和感を感じつつもなんとか午前のテイクを終了させて、昼食をとりにスタッフのひとりの車に便乗した。声の変調は歌っている本人がいちばんよくわかっているので、このとき残りの曲の収録をやめようと言い出すと、それまで本人を気遣っていたスタッフも「よく言ってくれた」。というわけで公式にはトレブル引退、ということになり、英国中のメディアのみならず、米国やオーストラリアまで自分の「声変わり」がニュースになったと自嘲気味に回想しています(それでもこのときはまだ不安定ながらも高音が出せたようで、ほんとうに声域が「低く」なったのはそれから数ヶ月後のことだったと書いています)。

 ちなみにバッハ時代の少年聖歌隊員は、17歳になっても高音がバリバリ出せたようで…当時のトレブル歌手は、大人の女性歌手顔負けの名手ぞろいだったらしい(教会なので、女性は…という事情もありますが)。

 ビリーくんの場合、不安定な状態が2年半つづいたあと、ふたたび安定した声で歌えるようになり、前出のアルバムを出せたわけですが、声が安定しなくてけっきょく歌手はあきらめた、という人も大勢います。だから彼の場合はひじょうに幸運だったと思う。運ばかりでなく、本人も言っているように、これからどうなるかわからない不安を抱えて精神的に不安定になっていたビリーくんを信じて支えつづけた家族の精神的献身が、割合早い歌手復帰を果たせた最大要因かもしれません。

 それでも変声期前後、ビリーくんは子どもの筋ジストロフィー患者を支援する活動もしていたところがえらいところ。2003年、当時13歳だった筋ジス少年詩人の書いた詩集から歌詞をとったアルバムMusic through Heartsongs もリリースしています(残念ながら詩を書いた少年はその後短い一生を終えたということです)。

 変声後のアルバムEverything〜を聴くと、変声を乗り切った自信というか、歌にいちだんと磨きがかかって、表現がさらに深まっている印象を受けます。「新生ビリー」と本人も言っているように、「大人の歌手」としてまさにこれからが勝負、みたいな気概も感じられますね。それでも聴いた感じでは、声域は低くなっているけれど、声質はあんまり変わっていない。子ども時代のアルバムから順番に聴いてもさして違和感は感じません。お医者さんの忠告をちゃんと守ったのが結果的によかったのかも。

 個人的には遅めのテンポのバラッド系が好きなんですが、最後の収録曲'Awaken the music' はとてもおもしろい…なんとモーツァルトの交響曲第40番をポップ風にアレンジしたもの。その旋律に乗せて歌うビリーくんも負けずに秀逸です。

 新譜はそのものずばりBilly Gilman。どんなふうに仕上がっているか、一ファンとしてはとても楽しみ。できればまたクラシック名曲のアレンジものが入っているといいな。

 追記です。

 延び延びになっていたビリーくんの新譜、Billy Gilman の全米リリースが9月5日に決まったそうです。

 公式サイトで曲についてビリーくん本人のコメントが読めます。

posted by Curragh at 20:39| Comment(5) | TrackBack(0) | 音楽関連
この記事へのコメント
自分も今youtubeで12歳の歌声聞きましたが、、、かなりすごい・・・・
本当に子供とは思えないし・・上手すぎです。
現在も活動されているようですが、人気は下がってきているのでしょうか?
Posted by june at 2006年10月09日 15:59
Juneさん :

いえいえそんなことはありませんよ。公式サイトにも米国版24時間TVチャリティに出演したり、カントリー専門番組に出たりとけっこう忙しいみたいです…先月もらった公式メルマガには、いまラジオ用にクリスマスソングを録音する予定だけどどんな曲がいいかな、みたいなことも書いてありました。

http://www.billygilman.com/online/tourdates.html

カントリー音楽の世界では、米国を代表する若手歌手としての地位をはやくも築いていると思います。今後がほんとに楽しみです。できれば国内盤も出てくれればいいのですが。
Posted by Curragh at 2006年10月09日 22:48
one voiceを何回も聞いてるんですが最高です(^O^)/本当にハマりました。デビュー当時の映像見ましたがトークもかなり上手いですし歌も小学生とはとても思えません。

管理人さんのおすすめの曲とかありますか?

Posted by june at 2006年10月10日 00:25
Juneさん :

お返事ありがとうございます。

おすすめですか…難問です(笑)。日本でも林明日香さんですか、デビュー当時、はじめて歌声を聴いてびっくりしたことがありましたが、ビリーくんはいわばその米国版、といったところです。デビュー当時の天才ぶりには自分もほんとうに驚きました。

以前所属していたSonyのEpicレーベルから出ている'Classic Christmas'はおすすめです。とくにアダンの「おお聖夜(さやかに星はきらめき)」が好きですが、'There's a new kid in town'もしっとりと歌い上げていていいかな…こちらは国内盤もありますよ。

それと、おなじくかつてSonyから出ていたシャルロット・チャーチとの共演アルバムも出ています('Dream a dream')。いずれの盤もおすすめですが、いまはもう品薄なので、根気よく探す必要があるかも…しれません。
Posted by Curragh at 2006年10月10日 01:55
そうですか(^-^)/
わざわざお返事ありがとうございます。

今日も学校行く前(今、笑)聞いています。なんか本当に12歳?と感動してます…しかも自分はバラードが好きなんで相性もピッタリです 笑

林あすかさんは聞いたことはあまりないです…

ビリー君は確かトークもかなり上手かったですよね!今着うたとか探してるんですがやはりないですね(;_;)
でもビリー君について語れる人もあんまりいないので管理人さんと会えてうれしいです(^O^)/
Posted by june at 2006年10月10日 08:09
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