2007年12月03日

「Always 続・三丁目の夕日」

 ネタバレしないていどのメモにとどめておきますが、前作は本作のためにあった…と思えるほど出来がよいと言うか、ひさしぶりに見終わって心地よいカタルシスをおぼえました。ヘンな言い方ながら、「ショコラ」日本版みたいな感じです(「ポネット」ちゃんはいまでも女優をつづけているのかな?)。

 時代設定がちょうど高度経済成長前、まだ大戦の痛手があちこちに残っていた1959年ごろの東京の下町。なのでそこの住民はみんな貧しく、つつましい生活を送っています。この作品のいいところはただ懐かしい…だけの作品に終わっていないこと、強いメッセージが込められていることにあるでしょうか。そうは言っても、煙草屋のとなりの「ナショナルのお店(?)」だろうか、昔のパナ坊(?)の置き物なんか、いったいどこから借りてきたのかと本筋とまるで関係ないところで感心したり(苦笑)、Star Wars張りに迫力満点の冒頭シーンにびっくりしたり。また不法投棄(?)された廃車がさりげなく登場したり、その廃車置場がやがて新しいビルの建設用地になったりと、「消費は美徳」ともてはやされたある意味狂乱の時代へと様変わりしてゆくようすもしっかり描かれています(登場人物の心理描写にもそれは当てはまる)。監督はじめスタッフの並々ならぬ情熱は、当時の町並みを再現するCG技術とか、とにかく細部にわたってまったく手を抜いていないことからもひしひしと感じ取れます。ひるがえって役者さんたちのほうは、宣伝番組でもそんなこと言ってましたが、意識して演技しているというより、ほんとにそのまま夕日町三丁目の住人になりきっている感じで、演技の介在を感じさせないところもよかった。

 印象的だったのは、こんどこそ芥川賞を取る! と宣言して一心不乱に執筆に打ち込む茶川さんかな。原稿用紙に書き出す前の祈るような所作、執筆中の鬼気迫る姿、昔の「文士」そのものです。そしてあの散らかりほうだいの部屋。それを見たとき、坂口安吾を取材しに行った写真家の林忠彦氏の話を読んだことをふと思い出した(→関連サイト。それにしてもまる2年も掃除していない部屋って…[絶句])。茶川さんが芸術至上主義の権化にも見えました。「この世の中にはカネでは買えない、もっと大切なものがある!」という叫びは、たぶん制作者の気持ちを代弁しているようにも思う。モノゴトをたったひとつの物差しでしか考えない「時代の最先端」の人間、それに抗うようにつましく生きる下町の住人たちとの葛藤。このあたりいまの時代につながる要素だと思いますが、そのへんも説教臭くなくうまく描かれているとも感じました。

 もうひとつ印象に残ったのは、小清水一輝くん扮する一平くんが、もともと自分が東京タワーに登りたくて貯めていた貯金をはたいて親戚の女の子が喜ぶものを買い、それを手渡す場面。いくら恋心を抱いた相手(calf love?)とはいえ、自分より他者の喜びのほうを優先する、他者の喜び(幸福)=自分の喜びという点が、三丁目の住人に共通の特徴を端的に表現しているように思え、やんわりといまの人のあり方を批判しているようにも思えました。ほんとうの幸福はありあまる情報やモノとカネに支配されるのではない、「足るを知る」ことにあるのだということを考えさせてくれる作品です。そう言えば、ある高名な詩人の先生の文章に、「幸福はhappinessではなくて、artである」という一節があったのも思い出した。

 全編通じて背景に登場する東京タワーとならんで、今回は日本橋の場面も印象的。いまの日本橋しか知らない人間にとっては、こんなに広々した橋なのかと思いました。

 …そう言えば今年も漢検の「今年の漢字」一文字を募集していますね(もうすぐ締め切りだけど)。早いなー、もうそんな季節になったのか。BBC Radio3も毎年恒例のセントジョンズカレッジ礼拝堂聖歌隊による「待降節キャロル礼拝」のもようを中継していたし。今年の漢字は――みんなおんなじこと考えているとは思うけれども――「人偏に為す」という字ではないですかね? 

 もうひとつだけ。本編開始前の予告編で、山田洋次監督の最新作「母べえ」という作品が流れたのですが、カッチーニ(作とされる)Ave Mariaを彷彿とさせるようなソプラノのヴォカリーズが聴こえ、やや、これは…と思っていたらなんと大バッハの「オルガン小曲集」の冒頭を飾る待降節コラール、「いざ来きせ異邦人の救い主よ BWV.599」ではないですか! こちらもちょっとびっくりしました。昔、名優笠智衆氏の出演していたTVドラマかなにかの1シーンでオリジナルのオルガン独奏でこの曲が流れてきた場面なんかも思い出しました。こちらも興味がそそられる作品ですね。

訂正:最近、「母べえ」予告編のTVCMを見てよくよく聴いてみたら、ヴォカリーズで歌っていたのはBWV.599のコラールではなくてもうひとつの有名なコラール、「主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる BWV.639」のほうでした。クリスマス前ということもあったのか、いつのまにか頭の中で待降節コラールのほうだと勝手に思いこんでしまったらしい。ともあれ当方のまちがいはまちがい。Kenさんごめんなさい。ひれ伏して訂正します。m(_ _)m

posted by Curragh at 23:57| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画関連
この記事へのコメント
「いざ来ませ異邦人の救い主よ BWV.599」が大好きで・・・今日、風邪で休んでしまったのですが、簡単な記事(内容は曲に関係無し!)を綴ってTBさせていただきましたが・・・うまくいきましたかどうか。。。
Posted by ken at 2007年12月06日 10:19
Kenさま

コメントありがとうございます…遅ればせながらTBのほうを確認しようとしたのですが、受信されていないみたいなのです。もしよろしければ、いま一度pingを送信していただけますか? 
m(_ _)m

お手数おかけして申し訳ありません。
Posted by Curragh at 2007年12月08日 23:30
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