2013年11月18日

サー・ジョン・タヴナー氏逝く

 昨年あたりから、なんか音楽関係者の訃報に接することが多いなあと漠然と感じていました … レオンハルト氏、別宮貞雄氏、マリー・クレール−アラン女史、最近では三善晃氏 … そしてじつは、昨夏、サントリーホールで聴いたセントジョンズカレッジ聖歌隊の来日公演で、「聖霊降臨」の場面を音楽として描写した作品(「来たれ、聖霊」 )をはじめて耳にしてひじょうに印象に残った作曲家のジョナサン・ハーヴェイ氏が、なんとその半年後に逝去されていたとの事実をつい最近になって知るしまつ。

 ハーヴェイ氏は難病を患っていたらしいけれども、タヴナー氏もまた「マルファン症候群」に長年、苦しんでいたこともはじめて知った。30 歳のときに大きな発作に襲われて以来、たびたび命にかかわる発作を繰り返し、直近では 2007年 12月にも心臓発作に見舞われたらしい(→BBC News の追悼記事)。

 現代ものにはからっきし疎い門外漢ながら、宗教声楽作品つながりでタヴナーはじめ、ペルトやグレツキなどのわりとよく知られた作品は何度か耳にしたことがあります。タヴナー作品では、やっぱり「アテネのための歌」と、ブレイクの同名詩に曲をつけた「仔羊」ですね。じつを言えばこのたびの訃報をはじめて知ったのも、この「仔羊」を冒頭に歌っていたオックスフォード・クライストチャーチ大聖堂聖歌隊による「夕べの祈り」中継を聴いていたときのことだった ( え ?! と思ってあわててスマホ操作して関連サイトとか見ていた )。

 タヴナー氏はロシア正教会に改宗したことでも知られていますが、NYT の記事とか見ますと、改宗後にはバッハも含めた西方教会の音楽に対して批判的だったことも今回、はじめて知った。もっとも後年、「正教会特有の音階によって書く音楽があまりに禁欲的で硬直化していた」ことを悟ったのちはイスラム、ヒンドゥー、ユダヤ、米国先住民の信仰などからインスパイアされた作品を書くようになったようです。

 The Guardian サイトには BBC Singers 指揮者ボブ・チルコット氏による追悼文も寄稿されていて、同氏がまだ若い歌手だったころ、「長身で日焼けした、プロンドの長髪をなびかせカリスマ性のある」タヴナー氏に仲間とともに目を見張っていたとか、「青いロールスから降りて、 自宅から2軒先にある建物に」入っていくのを目撃したなどの思い出話にこちらも思わず興味を引かれます … ちなみにその建物は当時、ロシア正教徒たちの集会所だったとか。

 「さよならだけが人生」なんではありますが、あらためてタヴナー氏のご冥福を祈りたい。そして、感動的な音楽をありがとう、と言いたいです。

 以下、各紙から拾った、いまは亡きタヴナー氏による個人的に印象に残る発言をいくつか引いておきます。

 ―― 「われわれは文字どおり暗黒時代に生きている。神性の閃きから発するものはそれがなんであれ、受け取る価値がある」(「タヴナー氏の音楽は宗教からインスパイアされているというより、宗教の代用品にすぎないのではと批評家たちから言われたことに対して」)

 ―― 「わたしは作曲をやめ、インド音楽、ペルシャ音楽など、中東地域一帯の音楽に耳を傾けた。米国先住民の音楽も聴いた。伝統的価値観にもとづく音楽はなんでも聴いた。そのとき、ある疑問が芽生えた。この西洋文明にいったいなにが起こったのか ? エゴばかりが優勢になり、それとともにしだいに神聖なるものが目につきにくい場所へと追いやられてしまったのはなぜなのだろうか ? 」

 ―― 「作品の内包する主題は、聴き手にとってさして重要ではありません。それを考え、つねに念頭に置いておく必要があるのは、作曲者であるこのわたしだけです。聴き手は思い思いに解釈してもらってかまいません」

 ―― 「マルファン症候群のたいへん怖い点は、いつなんどき解離が起こるかわからない、そしてあっさりあちらの世界へと旅立ってしまうかわからないことです。そんなわけなので、すぐ目の前に『死』が待ち構えている、という感覚があると思います。これが、わたしのものの考え方に影響を及していたとしても無理ないことです」



BBC サイトのタヴナー氏追悼関連番組リンクページ

John Kenneth Tavener, composer, born 28 January 1944; died 12 November 2013.

posted by Curragh at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | おくやみ
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