2006年06月10日

2011年までにNHK-FMを廃止?

 藪から棒、とはまさにこのこと。

 先日の新聞朝刊にtop storyとしてでかでか掲載されていたものだから、一瞬、なんのことなのか理解できませんでした。記事によると、NTTについてもいろいろ提言が出されていて、光ファイバ網の解放を求めたり、通信と放送という従来の垣根がなくなりつつある現状にいかにも即したようなことを言っているように聞こえるが、ではなんで衛星放送とFM放送を2011年までに廃止しなければならないのか? 

 最終報告書を見るとその理由というのが、

 「…現行のNHKの8チャンネルは、電波の希少性、個々のチャンネルの役割等を勘案した場合、公共放送として放送するには、明らかに多過ぎると考えられる。具体的には、衛星放送については、難視聴対策として行うことが適当であるが、そうした対策は1チャンネルで十分であり、1チャンネルを削減すべきである。次に、FMラジオ放送については、民間のFM放送や音楽配信サービスが普及している現状では、多彩な音楽番組の提供という公共放送としての役割は既に終えたものと考えられる。従って、これらの放送については、必要な周知等の措置を十分に行った上で、2011年までに停波の上、速やかに民間への開放等の措置を取り、視聴者が多様な放送を享受できるようにすべきである。…」

 あきれてしまってこんどは口のほうがあいてしまう。

 委員の先生方は、いまのNHK-FM放送をちゃんと聴取したことがあるのか、とまずは言いたい。これって直接間接に「国民の知る権利」を奪うことになる暴言でもある。公共放送について言えば、たとえば英国のBBCなんか、国内向けFM放送だけでも7波(国際放送や地方局も入れれば11、さらに33言語べつの放送サービスあり)もあって、それぞれチャンネルの役割がはっきり色分けされている。NHK三波削減にかぎって言えば、提言はまったくのアナクロニズムで、時代逆行もはなはだしい。だいいちみんながみんなインターネットによる放送を試聴できる環境にあるわけないし、受信料義務化云々…とこれとはべつものでしょうに。どうしてそんなに2011年にこだわるの? そんなことより社保庁問題のほうが深刻でしょうが。

 もっとも問題だと思うのは太字部分。「多彩な音楽番組の提供という公共放送としての役割は既に終えたもの」なんてとんでもない。NHK-FMほど多彩で、個性的な放送をしてくれるFM放送なんてないですよ。とくにクラシックファンにとってはほとんど唯一のFM放送です。新譜なんかも積極的に取り上げてくれますし、たとえば「バロックの森」ではじめて耳にした曲の入ったアルバムをAmazonジャパンで注文する…ということもときどきある。NHK-FMそのものが自分にとっては貴重な情報源なのです。めったに聴けない希少な海外盤もかかったりしますし。英国の聖歌隊関係もけっこうかけてくれます。つい先日もニューカレッジのCDがかかってましたし。N響のファンにとってもBSおよびFMの三波がいきなり消滅してしまうのは一大事。教育TVの「芸術劇場」だけでがまんせよ、あるいはNHKホールまで直接どうぞ、と言うようなもの。「コスト削減ができるところから手をつける」というのがまず最優先で、国民にとっての公共放送という視点がまったく欠落している。それだったらどこかのblog様でも目にしたけれど、多すぎる子会社の再編とか、NHK出版の全出版物の売り上げから数パーセントはNHK本体の経営資金として使えばいい。「ブロードバンド0地域の解消」ってそれほんとですか? ちなみに伊豆半島にはいまだにブロードバンド接続できない地域がありますし(携帯電話もつながりにくいところがある)、静岡など、政令指定都市のくせして山間部はいまだにNTT西日本がしぶって光ファイバ網を整備してくれないと現地の方の嘆きが静岡新聞に掲載されていました。ubiquitousというラテン語ばかりがひとり歩きしている。無線LANホットスポットだって、大都市圏以外では「いつでもどこでも」使える状態とはとても言えない。

 公共放送というものに市場原理をもちこむ発想じたいが腹立たしい。公共放送ほど、ニッチなものまで幅広く取り入れて視聴者/聴取者のニーズに応えるべきでしょう。数々の不祥事にかこつけて、音楽や情報の貴重な選択肢まで国民から奪うというのはぜったいに容認できない。そもそもNHK-FMが必要かどうかを判断するのは聴取者であるわれわれであって、ごくごく一部の識者のみで構成された、半密室の会議ではない。この最終報告書なるものはいったい何様のつもりか? よけいなお世話である。

 もうひとつ忘れてはならない点は、大地震発生時の緊急放送メディアとしてのFM。地域限定のいわゆるコミュニティFMだけではおのずと限界があるし、施設そのものが破壊されたら元も子もない。昨年も、どこだったか地震が起きたとき、「バロックの森」を聴いている最中に地震速報に切り替わって、さすがNHKだと感心しました(ほんとは曲の終わりまで聴いていたかったけれど、しかたない)。大地震のときは当たり前だが停電するのでPCもTVも宝の持ち腐れ。インターネットだってサーバが破壊されたり回線が寸断されればおなじこと。非常時こそラジオが命綱。最近では携帯MP3プレーヤの多くがFM受信機能を内蔵しているし、電池さえ確保できればとりあえずはいつでも、どこでも最新情報のチェックくらいはできる。これこそまさにubiquitous。わが国唯一の公共FM放送をばかにするなと言いたい。東海地震の震源地に住んでいる者としては、今回の報告書はたわごとにしか聞こえないし、繰り返しになるけれども暴言ないしは暴走だと感じる。

 …というわけで、ますます意固地になってNHK-FMをかけっぱなしにしています…(今夜のFMシアターおもしろそう)。

 ちなみに調べてみると、NHKのチャンネル削減案はけっこう昔から亡霊のごとくたびたび出現していたらしい(!)。ラジオ第一を廃止せよ、教育TVを廃止せよとか。いずれにせよこういう主張をする人は、NHKでしか放送できないコンテンツもたくさんあるという基本的なことがなにもわかってない。万が一NHK-FMがなくなったら、この国の音楽文化そのものが衰退する。高名な方々がこのていたらくなので、せんだっての盗作疑惑事件も、まただいぶ前ながら遺跡捏造事件なんかも、この国の文化ていどの低さを露呈していて、どこかNHK三波削減問題と通底しているように思う。

記事本文中のBBC Radioについてですが、いまいちどサイトを確認したら自分の書き方が不正確だったため、訂正しておきました。
posted by Curragh at 14:51| Comment(10) | TrackBack(10) | NHK-FM
この記事へのコメント
はじめまして。僕もあの懇談会の面々の見識を疑っているひとりです。
記事をトラックバックさせてください。
Posted by Joeden at 2006年06月11日 09:03
はじめまして。
私もNHK-FM廃止案に憤りを感じています。
私のHPからもこの記事にリンクをはらせてください。
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/music.html#060607
Posted by 柳瀬陽介 at 2006年06月11日 14:58
Joedenさん、柳瀬陽介さん :

TBおよびリンク、ありがとうございました。

スパムTBが多かったので、ご挨拶がちょっと遅れてしまいました。

自分もNHK-FMをよく聴くリスナーであり、ファンなので、今後もNHK-FM関係の記事は書いていくつもりです。がんばれNHK-FM!
Posted by Curragh at 2006年06月11日 16:14
Phoebeさん :

TBしていただき、ありがとうございます。

見ての通りごった煮のblogではありますが、NHK-FMにかんしては自他共に認めるファンなので、今後も関連記事を書いていくつもりです。
Posted by Curragh at 2006年06月11日 16:18
Curraghさん

TBありがとうございました。こちらからもTBさせていただきました。
この問題についてはブログで5月の中間報告と、6月1日の座長案の時にも取り上げて書いてきたんですが、そのたびに文化を殺す行為だと怒りまくってたせいか、最近なんだか血圧が・・・

最終報告書は、NHKのチャンネル数の問題について、「明らかに多過ぎる」と、何の証明もなしに「明らかに」でごまかすなど、疑問が多いですし、そのほかにも矛盾が色々見られるように思います。
とにかくFM削減は絶対に阻止したいものです。
Posted by TARO at 2006年06月12日 00:47
はじめまして。
ご意見に全く賛成です。
偶然FMで聴き知った曲が気になって、速攻買いに走ったこともたびたび。
そんな大切な出会いの瞬間を奪うなと言いたいです。
そう思っている人は少なくないんではないでしょうか。
Posted by 朱 厚照 at 2006年06月12日 21:40
朱 厚照さん :

コメントとTB、ありがとうございます。

いまは「ミュージクスクエア」を聴いてますが、その前の「ベスト・オブ・クラシック」も邦人・海外問わずにいろいろな演奏会を取り上げてくれて、とてもおもしろいです。朱さんが仕事帰りに聴かれたのは、N響定演でしたね。今年はシューマンの没後150年でもあるので、すべてシューマンのプログラムでした。自分もシューマンの作品はたいして聴いていないので、こういう機会はとても貴重です。じつはつい先日も、「バロックの森」で聴いたバッハのオルガンコラールのCDが気に入って、Amazonで買いましたよ。

そういえばつい先日も首相が海外のオペラの歌手たちに囲まれている映像が流れてましたけれども、ほんとうに音楽に理解があるのかと疑いたくなりますね。

のちほどこちらからもTBさせていただきます。
Posted by Curragh at 2006年06月12日 22:29
トラックバックからやって参りました。この所NHK偏向番組とその顛末を書いていますが、クラシックをはじめ琴三味線、ジャズ、民俗音楽など、NHK-FMでしか放送されないコンテンツも多く、NHKの存在はなくてはならないものだと考えています。NHK-FMの廃止案は、おっしゃる通り音楽文化の衰退であり、民放FMから流れているような低俗な流行歌ばかりになってしまうとしたら、残念では済まされない事になりそうです。
Posted by burinosushi at 2006年06月13日 18:48
「通信・放送の在り方に関する懇談会」という、国の方向性を左右するような識者の集まりであるはずの会議が、「NHK−FMの役割が終わった」などという非見識な結論を国民の前に出すなどというのは、本当に我が国の文化レベルの低さを嘆かざるを得ません。洋楽、邦楽、民謡、世界の民族音楽、現代音楽、吹奏楽やコーラスなどの学校音楽等々、プロ・アマを問わず多彩な分野での芸術への真剣な取り組みを励まし、助けているNHK−FM。音楽以外にも、およそ音を介した様々な芸術を育てているNHK−FMはNHKテレビと同様、日本の良心です。全てが商業主義のおちゃらけだけになってしまったら、・・若者が目指す自己表現、自己実現の目標が低俗な(そうでない人もいますが)お笑い芸人になってしまうような気がするのは私だけでしょうか。そういった多くの人が、様々なところで大声を上げて反対しないと、たいへんなことになってしまうと思います。我が国にとって、それほど重要なことであると思います。一度廃止されてしまうと、もう二度と復活は無理でしょう。
Posted by inakade101 at 2006年06月18日 23:15
burinosushiさん、inakade101さん :

コメントありがとうございます。

たしかにFMのほうは純粋に音楽中心の構成なので、偏向の入る余地はあまりないですね。いつも思うんですが、NHKのアーカイヴに収集されている音源っていったいどのくらいあるんでしょうか。戦中戦後のSP盤からでも80年近くものストックがあるわけになるのですから、これはもうりっぱな国民共通の音楽財産だと思います。それを死蔵させずにきちんとオンエアすることこそ公共放送の存在理由(使命)のひとつではないでしょうか。

もうひとつあの報告書について感じたのですが、この国には知識人はいても本物の教養人がいないな、ということです。あの懇談会の目的は世界的規模で進む放送・通信統合の流れに乗り遅れないようにNTTおよびNHKの改革(改悪?)が必要だ、という提言を出すことのようですが、本来NHKの改革とチャンネル数削減というのはまったく次元のちがう問題なのにないまぜにしている点が最悪です。人選からしても音楽とはほど遠いところにおられる人たちのようですし。「ソフトパワーを強化する観点からは、世界に“日本ファン”を増やすことが重要である」なんてわけのわからないことも書いてありますが、文化・芸術面でのソフトパワーを強化どころか死滅させようとしているのがほかならぬ自分たちだということがわかっていない。

いずれにせよたった数名の密室会議で公共FM放送の存廃を勝手に決議されてはたまりませんね。
Posted by Curragh at 2006年06月19日 02:01
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