2014年01月12日

中期英語版『聖ブレンダンの告白と祈り』

 以下の記事、本家サイト「参考文献」ページの更新事項ともカブッてますが、補足ていどに書いておきます。

 いちおう人並みに用事が立てこんでいた年の暮れもなんとか終わり、気が抜けたのか( ? )、「生さだ」見ようと思っていたのについコタツでうとうと … 気がついたら年を越して小一時間が経過していた( 苦笑 )。コタツの上にはキャンベル本だの、図書館から借りた「トリスタンとイゾルデ( トリスタンとイズー )」関連本だの、伊藤了子先生による一連のアングロ・ノルマン版『聖ブレンダンの航海』のコピーだのを広げて店開きしたまんまぐーすか寝ていた、というわけ。

 「生さだ」を見つつ、手許のコピーとかちらちら見ているうちに、あれ、そういえばかなーり前にここでも触れた、Fumio Kuriyagawa なる日本人先生が書いた、中期英語で書かれた『聖ブレンダンの告白と祈り』*とかいう作品についての論考って … ぐぐったらひょっとして見つかるんじゃないの、あの記事書いた当時はさっぱり引っかからなかったけれども、いまじゃ海外のみならず、ようやく( ? )国内の有名大学でも過去の論文とかが一定の条件つきながら Web 上で一般公開されるケースが多くなってるし、もしかして … と思っていたら、こんなとこにあるじゃない( 汗 )!! とりあえず寝て、翌日さっそく PDF 文書をすべて印刷して、目を通してみた。ざっとまとめると、以下のような記事と判明( 注:ラテン語で書かれた Oratio Sancti Brendani のローマ写本については手許の The Legend of St Brendan : A Critical Bibliography の表記を採用 ):

著者 厨川 文夫 … 1907年7月30日生 - 78年1月16日没;英語・英文学者、慶應義塾大学名誉教授。

『中期英語散文版 聖ブレンダンの告白と祈り( 以下、『祈り』 )』は、つぎの6つの古写本が現存する。

1). Lambeth Palace Library Ms. 541, fol. 150b - 165a, 15世紀
2). Cambridge University Library MS. Hh. I. 12, fol. 52a - 59b, 15世紀
3). Queen's College, Oxford MS. CCX, fol. 1a - 10b, 15世紀
4). British Museum MS. Harl. 1706, fol. 84a - 87b, 15世紀
5). Bodleian Library, Oxford, MS. Rawlinson C. 699, fol. 162b - 179a, 15世紀
6). Bibliothéque Nationale, Paris, MS. anglais 41, fol. 162b - 176a, 16世紀

この『祈り』が聖ブレンダンの名前を冠している背景に、中世を通じて各国語に翻訳・翻案されたラテン語版『聖ブレンダンの航海』の人気の高さがあったことは明白である。
cf., ラテン語版『聖ブレンダンの祈り』 British Museum MS. Addit. 33.773, fol. 2a -fol. 2b :

「祝福されし修道士ブレンダン、この祈りを書き記す。この祈りは、彼が七つの海を渡り終えたとき、聖なる大天使ミカエルによって示された。彼は『約束の島』を求める航海に出、七年のあいだそれを探しつづけ、七年のあいだ復活の主日を祝いつづけた。そして、その航海を終えたのちの主のご復活の日に、この祈りを賜った …… 神のご威光により、聖ブレンダンに示されし祈り … 」

ラテン語版は9つの写本が現存。刊行されている唯一のエディションはパトリック・F・モラン枢機卿編纂によるラテン語写本『聖ブレンダン行伝』で、底本にしているのは単一のラテン語写本( MS Rome, Biblioteca Nazionale Centrale, Sessoriano, 127, ff. 81r - 111v. B., 14世紀 )にかぎられている( ちなみにモラン編纂版が底本としたローマ写本は、出だしからして大英博物館蔵の写本とまるで別物で、いわゆる連祷[ リタニー ]形式でえんえんと綴られている )。

ここで取り上げる中期英語版『祈り』が、これらラテン語写本を底本としているかどうか、についてはこれまで調査がおこなわれてこなかった。

ラテン語写本( British Museum MS. Addit. 33.773, fol. 2a -fol. 2b )と中期英語版写本とを比較したかぎりでは、中期英語版が上記ラテン語写本を直接の底本として書かれたとは考えにくいとの結論に至った。

以下の分析では、『祈り』は、ある個人が特定の罪を告白しているというより、宗教的教訓の書であることが明らか。『祈り』は7つの部分に分かれている。

1). はしがき( 5 - 39 )
2). 七つの大罪( 40 - 126 )
3). 十戒( 127 - 291 )
4). 肉体の五つの感覚について( 292 - 344 )
5). 肉体救済のための七つの行い( 345 - 405 )
6). 霊的救済のための七つの行い( 406 - 429 )
7). 結び( 429 - 443 )

使用言語、各写本間の関係、制作年代、作者などについての詳細な調査は、またの機会を待たなければならない。

テキストについて;
底本:Lambeth Palace Library Ms. 541, fol. 150b - 165a 。読みの異なる箇所については Cambridge University Library MS. Hh. I. 12, fol. 52a - 59b 上の語句を欄外に記す。前者は未刊行、後者は R.H. Bowers が自身の校訂版で底本として使用した写本。

凡例:1. イタリック体は、底本写本に頻出する略記を補った箇所。
2. 句読法と大文字については編者によるもの。
3. 単語の分割は標準的な分割法を用いた。
4. 各段落は、底本上の段落を示す印と対応する。

以下、その古い英語で書かれた『祈り』原テキストがつづく。

ようするに、これはたんなる当該テーマに対する一論考というより、図書館の片隅で埋もれていた古写本を、もうひとつの古写本と突き合わせて足りないところを適宜補ったりっぱな校訂版、critical edition として当時の学部機関誌上に発表したものでした … 恥ずかしながら、Wikipedia 記事にて著者の厨川文夫教授のお名前をはじめて知ったしだい。学生時代になんとあの『ベーオウルフ』も邦訳された先生でもあるとか。これはなんというめぐり合わせかとも思いました。

 一見、英国とはあまり縁のなさそうにも思えるアイルランドの船乗り聖人に、ジェフリー・チョーサーの生きていた時代のめちゃくちゃ古い時代の英語を専門とする厨川先生は、いったいどういういきさつで興味を持ったんだろうか … と、ここにいるボンクラはふとそんなこと考えたりもしたんですが、はじめてこのことに触れた以前の記事でも書いたように、とにかく 40数年も前に、日本人の研究者が聖ブレンダンがらみの「校訂版」をすでに発表していて、しかもそれが学者仲間でわりとよく引用されていることからしても、厨川版はこの分野では知名度の高い、言い換えれば「多くのほかの研究者から信頼されている」校訂版だということもわかった。… 厨川先生とはまったく面識がないながら、なんかすごくうれしい気がした。

 … 余談ながら、「トリスタンとイゾルデ」関連本について。こちらはもちろんいま読み進めているキャンベル本(『神の仮面 第4巻 創造的神話』。いまやっと 300 ページを越えたところ。まだまだ先は長い … なんせ本文だけで 678 ページもある大作なので )の影響なんですが、じつはブノワ編アングロ・ノルマン版『航海』にも、ことによったら作者ブノワが「トリスタン伝説」から借用したとおぼしき単語が出てくるんですなあ。ほかにもちょっと書きたいこととかあるので、この件については稿を改めまして、また後日に。

*... 'confession( s )' はローマカトリックでは昔、「悔悛の秘蹟」などの表記でしたが現在では「ゆるしの秘跡」という言い方が一般的。なのでここではとりあえず「( 罪の )告白」という訳語を当てておきます。

タグ:厨川文夫
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