2014年01月26日

衝撃の「シャコンヌ」

1). 先週の「ベスト・オヴ・クラシック」は、「新しい年に名曲を聴く」がテーマで、年末年始で少々疲れた、いやふやけた心身に活を入れるかのような「春の祭典」連続攻撃(?)に始まり、リストのピアノ協奏曲あり、ハイドンのオラトリオ「天地創造」ありとなかなかの充実ぶり。そんななか、バロック好きにとってはやはりヴィヴァルディの「四季」全曲演奏が白眉でした。演奏はミハイル・タタルニコフ指揮、ロシア・ナショナル管弦楽団。

 ここのオケは、とくにバロックものとか専門にしているわけじゃないとは思いますが、たとえば「冬」の、あのたたみかけるような出だしで、チェンバロの通奏低音がひじょうに達者な名人芸を発揮していたのがすこぶる印象的でした。通奏低音では右手が即興的にバラバラ弾いたりするのが常ではありますが、いままでいろんな演奏者による「冬」を聴いてきたけれども、あのような即興パッセージを耳にしたのは今回がはじめて。チェンバロ奏者がどんな方なのかは不明ながら、いわゆる通奏低音奏法に通暁した演奏家だと思いました。

 … バロックついでに、今年は大バッハの次男、C.P.E. バッハ生誕 300年ではないか。昨年はブリテン生誕 100年でもありましたが … これを機に、C.P.E. バッハの鍵盤作品とか、可能なかぎり ―― Naxos のライブラリー音源とかもフル活用して ―― 聴いてみようかなとも思ったしだい。

2). おなじく先週の「古楽の楽しみ」。水曜は、「偽作の疑いありの作品」でして、なんとあの「トッカータとフーガ BWV.565 」もかかってました。演奏者は、オランダの名手、オールトメルセン。この人は故レオンハルトの後を継いで、ヴァールセケルクのオルガニストになった人でもある。ここの教会のオルガンもまた名器の誉れ高い歴史的な楽器で、ワタシはコープマンによるバッハの「6つのトリオソナタ」を持ってます。案内役の大塚先生は、この超有名作品の真偽論争にいまだ決着がついていないことを述べたあと、「みなさんはいかが思われるでしょうか?」みたいに水を向けてましたが、どう思われるかって訊かれてもねぇ( 微苦笑 )。

 でもこの朝の白眉はなんといっても「伝」トンマーゾ・アントニオ・ヴィターリ作曲の「シャコンヌ ト短調」でした。まちがいなく本人作の「ソナタ 第12番 'シャコンヌ'」とつづけてかかったのですが、いくら「大胆な転調」が見られるとはいえ、どう転んでもこれバロック風には聴こえないですよ、すくなくともここにいるボンクラの耳には。

 この「シャコンヌ」がヴィターリの真作かどうかはさておき、とにかくかかっていた音源がすごい迫力で … 伴奏がよくあるピアノじゃなくてオルガンだった、というのもあるけれども、いきなり冒頭の分厚い和音の重なりから後頭部を強打されたような感覚に打ちのめされ、大時化の海に放り出されたみたいに逆巻く怒涛にただ翻弄されるばかり、うねるように波打つヴァイオリンと雷鳴のごときオルガンサウンドに浸っているうちに、那智大滝を目の当たりにして別次元の世界へトンでしまったとかいう逸話の残るアンドレ・マルローじゃないけど、一瞬、トランス状態に陥りそうになった。どうもこれ昨年出たばかりの音源みたいだから、さっそく今年第1号のお買い物になりそうだ。

 NHK-FM つながりでは、先々週だったかな、「トーキング ウィズ 松尾堂」は、分野が分野なだけに、すこぶるおもしろかった。岸本佐知子さんの脱力系( ?! )トークもさることながら、海外小説翻訳という奥深い世界を垣間見た感じもしたものです( 来月に再放送されるようです )。

 翻訳家、とくると、岸本さんにつづいて思い出されるのが、鴻巣友季子さん。以前ここでも書いたけれども、「英語で読む村上春樹」でもゲストとして登場した方で、その著書も何冊か行きつけの図書館にて拝見したことがある。とりわけ『カーヴの隅の本棚』は、ワインの蘊蓄と翻訳の話を絶妙なサジ加減でまとめていて、読んで楽しい本です。

 NHKついでに、正月だったかな、「100分 de 名著」の特番で、なんと! あの鈴木晶先生( キャンベルの『宇宙意識』という本の翻訳者[ 共訳 ]でもある )が登場してしゃべってました。鈴木先生の書き下ろし『翻訳はたのしい』という本( 1996年、東京書籍刊 )。あいにくいまは絶版らしいけれど、翻訳者を目指している方は図書館などで探して読んでみる価値ありです。いろいろおもしろい情報てんこ盛りな本なんですが、… ひとつだけ、印象に残っている箇所を引いて終わることにします。
(「中年留学」で英国に渡航した時の話 )どこの大学でもそうだというわけではないらしいが、ほとんどの大学では先生をファーストネームで呼ぶらしい。日本ではとても考えられない。学生から「ねえ、ショウ、ここのところがわからないんですけど」なんて声がかかるなど、私にとっては想像を絶する事柄である。

… 明日はモーツァルトの誕生日。

追記:いま、「きらクラ!」を聴いてます。ここではあえて取り上げなかったがもちろんマエストロ・アバド( かつてNHK では「アッバード」という表記を採用していた時期があった )の訃報にはショックを受けています。そのアバド指揮のベートーヴェン「5番」の一部がかかっていたのはうれしかった。そして今回の「BGM選手権」は、これもまたどのへんから探してくるのかな、ほんとうにすばらしい、美しい作品を ―― いつぞやの『茶の本』もそうだったが ―― いつも紹介してくれて、スタッフさんに感謝( 下線部は引用者、最初のはきのう「こころの時代 セレクション」で見た中村元先生による「ブッダのことば」と通底し[ ほんとうの意味での自己=アートマン ]、二番目のほうはおんなじことを高倉健さんも言っていた )。
他人よりも自分だ、社会よりも自己だ、外よりも内だ
それを攻めろ、そして信じ切れ
孤独に深入りせよ
自然を忘れるな、自然をたのめ
自然に根ざした孤独はとりもなほさず万人に通ずる道だ
孤独を恐れるな、万人に、わからせようとするな、第二義に生きるな
根のない感激に耽る事を止めよ

けさもフランスの名指揮者マルティノンによるサンサーンスの「オルガンつき」を聴いたばっかだけれども、個人的にはこの「オルガンつき」一楽章後半部分がいいですねー。

posted by Curragh at 12:16| Comment(0) | TrackBack(0) | NHK-FM
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