2014年02月16日

「ドラゴン」考

 先週見た「地球ドラマチック」。かつて「海外ドキュメンタリー」という良質な番組があって、よく見ていたもんですが、その後継番組(かな?)のこちらもいつもながらよその国のおもしろい趣向のドキュメンタリー番組をよく集めているもんだと感心しきり。

 で、その「ドラゴン」なんですが、たとえば冒頭で登場する西暦 793年のノースメン、つまりヴァイキングによるリンディスファーン島修道院の襲撃事件。寡聞にして知らなかったけれども、『アングロ・サクソン年代記』に、その直前、修道院上空をドラゴンが飛び交っていた、なんて記述があるんですねぇ。そして後半に紹介されていた、ロードス島にいたドラゴン vs. ヨハネ騎士団騎士デュードネ・ド・ゴドンの一騎打ちの話( 時は第一回十字軍遠征のころ。ほんらいヨハネ騎士団はエルサレムの巡礼者を守護するために組織された騎士修道会だったらしい )。ロードス島って、フィロンの「世界の七不思議」に出てくる例の「巨人像」のほうがはるかに有名じゃなかったっけ、とかアタマ掻きながら見てたんですが、とにかくロードス島にもドラゴンが暴れまくっていたそうです。*

 ドラゴン、とくると、やはり最古の英語韻文叙事詩、『ベーオウルフ』でしょう。番組でも、英雄ベーオウルフによるドラゴン退治のくだりが詳しく取り上げられていたから、この物語を知らない向きもおおいに楽しめたんじゃないでしょうか( ワタシもそのひとり。以前ここでも書いた、厨川文夫氏が若かりしころにこつこつ訳して発表したのも、この『ベーオウルフ』でした )。ついでに英国英語には、'from Beowulf to Virginia Woolf' という地口(?、「ウルフ」と韻を踏んでいるのがミソ)まであったりする( いま読んでるキャンベル本にも、『ベーオウルフ』のドラゴン退治の話は出てきます)。

 ドラゴン、東洋の言い方では「竜( 龍 )」ですが、古くは中東や古代中国など、この怪物は人類の歴史とともにつねに存在しつづけたといっても過言ではないと思う。番組では、古代メソポタミアの「女神( !! )」ティアマトが紹介されていたけど … とここで、あれ、アイルランド神話にはドラゴン退治の話とかあったっけ、と気になりだして、手許の資料や本とか繰ってみたけれど、あいにくそれらしいのは出てこない。ちなみにラテン語版『聖ブレンダンの航海』では、ドラゴンじゃなくて親戚筋(?)のグリフォン( グリフィン )なら出てくる( → アイルランド神話伝承におけるドラゴンについて論考したページ 。どちらかというと「蛇」のイメージに近いようです )。さらについでに『航海』の兄弟分みたいな物語、『メルドゥーンの航海』にも、「ぐるぐる回転する怪物」の住む島とか出てくるけれど、やはりこれもドラゴンではない( → 関連拙記事 )。対して、おなじケルト文化圏でもウェールズにはドラゴン退治の話があり、そして『聖コルンバ伝』には超有名な(?)「ネッシー」の話も出てくる … けれども、個人的な印象としては、ドラゴン=北欧・ゲルマン神話系という感じが強い。

 番組も、もちろん北欧神話でつとに悪名高い( かな?)大竜ファフニール( ファーフナー )とシグルズ( 中世ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に出てくるジークフリート )の一騎打ちの話とかも出てきます。

 ところでこれははじめて知った事実だが、ドラゴンのよくある急所って「口」なんですね。長い槍みたいな武器でいっきに刺し殺すというのが常套パターンらしく、これはじつはワニを仕留めるときとおんなじ方法なんだそうです。もっともシグルズが殺したファフニールの場合は、「腹( 心臓 )」を一突きされて退治されたけれども。

 ドラゴンっていつも、自分では持てあましているだけなのに、乙女とか財宝とかを抱えこんで番をしてますね。これがいわゆる西洋の典型的なドラゴン。東洋では、たとえば龍神とか、水のある場所の守護者という場合が多くて、どっちかと言えばわりとよいイメージがあります( 干支のひとつでもあるし )。ところが西洋ではたいてい、悪の権化みたいな捉え方がある。ユング、そしてその流れで世界各地の神話伝承の解読を試みたキャンベルなどは、むしろ人間心理において、このドラゴンの持つ普遍的表象を解釈している。ようするに、ドラゴンはみんなの心のなかに棲んでいる。ブータン国王夫妻も来日したとき、日本の子どもたちに向かって、これとまったくおんなじようなことを言ったりしている。

 このような「普遍的アーキタイプ」のシンボルとしてのドラゴンと、じっさいの怪物じみた動物、たとえばワニとかでかい爬虫類( コモドドラゴンみたいなやつ )とじっさいに闘った人の話とがごっちゃになったものが流布したものが、いわゆる「ドラゴン伝説」を形成しているように思えます。そしてこれは、歴史上のアイルランドの「船乗り修道士」たちが行った北大西洋の島々をめぐる航海( ペレグリナティオ、自己追放の船旅 )と、古代古典などの知識と物語とが混然一体となって成立したラテン語版『航海』や、古アイルランドゲール語で書かれた一連の「イムラヴァ」なんかにも当てはまる。

 … 1939年にイングランド東海岸で発掘された「埋葬船」と「黄金のドラゴン」が象嵌された兜、云々 … ハテどんな遺跡だったかな、と思って見ていたら、これって有名なサットン・フーのことですよね? 番組ではなんも断ってなかったから、蛇足ながらここで補足しておきます。

*... ギザの大ピラミッド、バビロンの空中庭園、エフェソスのアルテミス神殿、オリンピアのゼウス像、ハリカルナッソスのマウソロス霊廟、ロードス島の巨像、バビロンの城壁。

posted by Curragh at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史・考古学
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