2007年12月30日

邦訳版、刊行されていたんだ!

1). 昨年夏、ここでも取り上げた『ナグ・ハマディ文書』英訳校訂版刊行に尽力したグノーシス研究の権威、ジム・ロビンソン博士のご本。今日、たまたまふだんは行かない本屋に立ち寄り、なんとなくボーっと突っ立ってキリスト教関連書籍の書棚を眺めていたら、ほえ? なんかどっかで見かけたご尊名が…と思いきや、なんとなんとThe Secrets of Judas、すでに2月に邦訳版が刊行されていたとはまるで気づかなかった(Amazon日本サイトは関連本買ったことあるのになんでこっちのほうをメールで教えてくれなかったんだろ? 『ぼくのぼうけん』とかは寄こしてきたのに[苦笑])…こんなとこで出会うとはまたなんと奇遇なことか。しかもとなりにはこれまたユダ関連のまじめな労作、『イスカリオテのユダ』。こちらは本邦グノーシス研究の第一人者のおひとり大貫先生による「古今東西のユダについて書かれた文献を収録した」アンソロジー。個人的には『イエスの幼時物語』などの聖書外典、オリゲネスの『ケルソス駁論(Contra Celsum)』やエイレナイオスの『異端反駁(Adversus Haereses)』などの教父文書、『黄金伝説(Legenda Aurea)』などの中世の伝説、シュヴァイツァーやエルネスト・ルナンといった史的イエス伝研究者の著作に出てくるユダにかんする記述を一冊の手軽なレファレンスとしてまとめたこっちの本に興味が惹かれてしまいましたが、パラパラ繰ってみたら、いちばん知りたかった「生前のユダの3つの善行」の出典については手がかりなにもなし、だったので、とりあえず「『ユダの福音書』を追え・ロビンソン版外伝」のほうを買ってしまった。

 いま邦訳本を開いてみてさらに驚くには、なんとこれ著者謹製「増補改訂版」。初版本の「最終章」のうしろにさらにそうとうな分量が加筆されてます。初版を底本とした邦訳原稿があがったころ、タイミングよく(?)著者から五月雨式に「第二版」のオリジナル原稿が送付され、けっきょく「完成稿」まで送付されてしまったため、急遽底本じたいをこっちの原稿に切り替えて訳稿に手を入れたらしい。なので原本の「増補改訂本」と章構成が一部食いちがっていると訳者先生が断っています。

 ロビンソン博士はたしか昨年5月、「国際聖書フォーラム」に招待されて来日していたのですね。そのとき目につき、ハナにもついたのが――例の日経NG社の関連本の山。これはイカン! と思ったのか、「私は、それら出版物を正しいパースペクティヴのもとに置こうとする私の本もまた、日本語で入手可能となることを期待しました。そこで、今やそれが現実となったことに満足しています」(p.5)。なんてこと書いてます。しかもこの本、12か国で翻訳出版が予定されているとか。こんなこと言っちゃなんなんですが、ロビンソン先生だって「当事者」になりかけるチャンスをみすみす逃した経緯の持ち主なので、ここまでくると学者どうしの確執というか功名心というか、売名行為ともとれる言動にいささか嫌気が差してきます。よく言えばきわめて人間臭いおじいさんなんですけれどもね(齢80を越えている)。訳者先生もなにか引っかかる臭いを感じたのでしょう、「訳者あとがき」にもそのへんの事情にすこし触れています。それでもせっかくの「著者謹製第二版」ですので、またあとでぼちぼち読んでみることにします。こっちのほうはまさか「偽装」なんてあるわけないし(笑)。

 …でも見方を変えれば――ロビンソン博士ふうに言えば'perspective'を変えれば――なんだかんだ言っても日経NG社の「誇大広告」のおかげで、これだけユダ関連書籍が刊行され、翻訳ものもきちんと刊行してくれるわけでして(もっともピンキリ、すべてが内容的にすぐれているわけではありません)…一時期、散発的に刊行された「例外」はあるけれど、聖ブレンダンものもそうならないかな…。

2). ついでに先日ちょこっと触れた、こちらの本を「なか見! 検索」で見てみると…第2部の「翻訳の問題」とかおもしろそうです。とりあえず先を見てみると、こんな文が。

... Christianity in the second century was not controlled by a single church or a single hierarchy or a single orthodoxy. In fact, "orthodoxy" (correct thinking and practice) and "heresy"(wrong thinking and practice) were very relative terms. Who was orthodox and who was a heretic depended upon where you were standing. If you were a mainstream or apostolic Christian, you were orthodox and everyone else was a heretic. If you were a Sethian Gnostic Christian, you were orthodox and everyone else was a heretic. (p.5)

2-4世紀の原始教会は、たとえばニケア公会議などでのアレイオス派との確執など、もっとも根本となる教義・神学論争に明け暮れていた。ローマ帝国の迫害にくわえ、教会そのものがまだ揺籃期だったのだから当然と言えば当然なんですが、この著者もそのへんの事情をきちんと書いています。いずれにせよ当時のキリスト教会は、それぞれ自分の所属している教会ないし教えこそ正統だとたがいに主張しあっていたので、「正統教会(カトリック)vs. グノーシス派」のような単純な二項対立的発想は当てはまらない、ということをくどいようだけれどもまた強調しておきます。

この記事へのコメント
来年もよろしくお願いします。
Posted by HIDAMARI at 2007年12月31日 15:00
ひだまりさん

こちらこそありがとうございました。来年もよい年でありますように。

…せっかくですのでひとこと…だいぶ前の話ですが、羽田健太郎さんの追悼記事にコメントしようとしたところ、なぜかエラーが出てしまいました。そのとき書きたかったのは、どんどん才能溢れる若手が(拙記事でもちょこちょこ紹介したりしていますが)登場してきているので、日本の音楽界の将来も明るいのではないか、ということでした。この場をお借りしまして遅すぎるコメントでした。m(_ _)m
Posted by Curragh at 2007年12月31日 20:14
改めて明けましておめでとうございます。
いやあ〜実にそそられますね。読んでみたい本かも〜!
今、エミール・マール氏の図像学の本を読んでいてちょうど『イエスの幼時物語』の話なども出ていましたので、過剰に反応しちゃいそうです(笑顔)。

今年は真剣にフランス語を勉強すべきか、いささか悩んでいたりします??? う〜ん、やりたいことが多過ぎていけませんネ。努力が足りないのを痛感します。
Posted by alice-room at 2008年01月01日 23:32
alice-roomさん

こちらこそよろしくお願いしますm(_ _)m

「ユダ福音書」がらみの上記新刊本、一読しましたらまたこちらにて妄評を書きますね。

今年もよろしくお願いします。
Posted by Curragh at 2008年01月03日 13:12
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