太古先生によるとこちらの原著刊行は予定より遅れ、図らずもオルランディの没後 10 周年の節目の昨年になったのだとか。で、とりあえず目次だけでもというわけで先生みずから邦訳されたものをそのまま転記しますと、
前書き[pp. IX-X]「一般読者向け」とされる前著でさえ 515 ページ(!!)もある大著なのに、こちら editio maior は文字どおりの greater edition、さらにスケールアップしてまして、なんとなんと 745 ページ !!! 『ハリー・ポッター』シリーズかい、ってついツッコミたくなるとんでもない超絶労作でございます。個人的には拙サイト英語版にまるまる収録した「アランソン写本」や、セルマー校訂本の底本だった「ヘント写本」が、オルランディ−グリエルメッティ校訂による「写本系統」のどのグループに属するのか、というのが最大の関心事ではある。
序文[pp. 3-429]
I. 写本[pp. 3-140]
II. エディションおよびテクスト伝承研究[pp. 141-157]
III. 祖型と「修正」[pp. 158-179]
IV. ファミリーα[pp. 180-235]
V. ファミリーβ[pp. 236-244]
VI. ファミリーγ[pp. 245-299]
VII. ファミリーδ[pp. 300-304]
VIII. ファミリーε[pp. 305-373]
IV. ファミリー間の不確かな関係[pp. 374-378]
X. 作品伝承の概要[pp. 379-390]
XI. 「選択」および他のテクスト選択[pp. 391-415]
XII. テクストへの注記[pp. 416-429]
参考文献[pp. 431-453]
『聖ブレンダンの航海』(ラテン語テクストとヴァリアント)[pp. 454-695]
補遺[pp. 697-714]
索引[pp. 715-745]
興味ある方は拙サイトの「参考文献ページ」から、となるとめんどうなので、版元 SISMEL 社のページに飛ばれて検討するとよいでしょう。
2). そんな折も折、って毎度こればっかで申し訳ないですけど、英国王室のハリー王子とメガン・マークルさんの結婚式、すばらしかったですね !! ってウチは BS 持ってないから、地上波のダイジェスト版みたいな映像しか見てないんですけど。それにしても型破りというか、よい意味でコチコチの「〜すべし」を徹底的に排除した式典だったように思う。ロイヤルウェディングにはちがいないが、こちらは王位継承権が低いというわりと身軽な(?)立場だったからなのかは知りませんけど、「ナイト[勲爵士]」の叙任式典が挙行されるウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂で行われたんですね。ゴスペルで Stand By Me が歌われたり、慣習を破って王子が結婚指輪をはめたり、一般の招待客がいたりとどこをとっても unprecedented。もっとも印象的だったのは聖ジョージ礼拝堂の門前が純白のバラのアーチで飾られていたこと。あれはみごとでした。それで思い出すのがミンネゼンガー騎士、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの書いた聖杯物語群のひとつ『パルツィヴァール[当時の古い独語読みでは「パルチヴァール」]』。大団円近くで、パルツィヴァールの腹違いの兄フェイレフィースが受洗する場面があるんですけれども、この兄貴の名前は文字どおりに訳すと「まだらの息子」。肌が黒と白のいわば混血児でして、不遜かもしれないが今回の花嫁嬢と二重写しになってしまった。そしてインタヴューでだれかさんが答えていたけれども、「今回の結婚式のすばらしいことはなんといっても diversity だ!」みたいに快哉を叫んでいた。これですよ、これ !! いまの時代にもっとも足りないものにして、プチ独裁者だかなんだか知りませんけどやれ fake news だのなんだのとそれこそ鳥じゃないけどウソ八百をつぶやいて瞬時に世界中に拡散させている指導者なんかもげんに出現しているご時世であるからして、ハリー王子ならびにサセックス公爵夫人となられたメガン・マークル妃の結婚式は、見ている者をひさしぶりに晴れ晴れとした気分にさせてくれたのであった。
ところでメガン・マークル妃ですけれども、綴りは Meghan Markle で、とくにファーストネーム(ほんとうは Rachel Meghan Markle なのでちがうが)がちょっと珍しい。手許の『固有名詞発音辞典』にも載ってなくて、手っ取り早く Wikipedia のぞいたら「父親はオランダ・アイルランド系」とあり、どうもこれゲール語圏の人名らしい。で、これの日本語表記がこれまた「メーガン」派と「メガン」派に分かれてまして、どっちじゃね、と思っていたら、
どうやら音引きしない「メガン」が、「原音主義」の日本ではよろしいようで(でもべつのクリップで発音聞いたら「メイガン」のごとく発音していたが …)。そういえば昔、「ロナルド・リーガン」なんて表記していたのにいつのまにか「レーガン」になったり、「シュレジンガー」なのか「シュレシンジャー」なのかモメたりと、ほんとこの「原音主義」は翻訳者のみならず頭痛のタネ。もう原語そのまんまでいいじゃない、ってつい乱暴なこと考えてしまうんですけれども、やっぱりダメですかね?
追記:いまさっき太古先生よりご返信がありまして、「アランソン写本」も「ヘント写本」もともに「ファミリーε」の同グループに分類される「祖型」にはない「帰還と聖ブレンダンの死[ch. 29]」付きで流布した写本で、ブレンダン院長一行の乗った革舟カラハの材料が「イチイ ivus 」という特定の木から包括的な「木、木材 silva 」に変更されている点が特徴だ、とのことです。