2015年08月30日

豪州のおいしいリースリング Jacob's Creek

1). 最近、「ジョルジュ・デュブッフ」輸入元サントリーワインの FB ページを見たら、なんと、もう葡萄の収穫が始まっているらしい( ご苦労さまです )。今年の欧州の夏は場所によっては熱波に見舞われたようでして、音楽の都ヴィーン( これだけはウィーンと書けない人 )でも最高気温が 35°C 近かった日があったとか、チェコやドイツでもそうとう暑かったらしい。ということは葡萄の生育にとってはまずまずだったはずなので、収穫が早まったのもむべなるかな、という気はするけれども … そういえば「セレクションプリュス」というデュブッフ社のとびきり値段の張るヌーヴォーのラベルにはいついつに収穫しました、という日付けとロット番号が表記されてるんですが、ワタシが買ったやつで最も早かったのはたしか9月初めだったと思う。8月末にもう収穫初日って、いままででもっとも早いほうかもしれない。もっとも現地の人の話を聞いたわけじゃないので、よくわかんないけれども。

 ちなみに ―― 怒られるかもしれないが ―― 上記 FB ページの8月 24 日付投稿記事をそのまま転載させていただくと、
「今日からぶどうの収穫がはじまります」

ボンジュール! デュブッフ社のアドリアンです。
8月も好天が続き、ぶどうは健康なまま「Ban des vendanges(バン デ ヴァンダンジュ)」と呼ばれる収穫日を迎える事が出来ました。

今年のぶどうの実は例年に比べ小さく収穫量も少ないと予想されますが、皮が厚く濃度の高いジュースを湛えており、グレートヴィンテージとされる 2009 年(8/27から収穫開始 )、2011 年( 8/24から収穫開始 )を思い起こさせる出来栄えになっていると実感しています。

ボジョレーのヴァカンスはもうおしまい。
美味しいヌーヴォーづくりに邁進します!

2). そんな折も折、暑い夏はやっぱギネススタウトでしょ、というわけでここんとこ缶入りのやつ買っては週末に楽しんだりしているのですが、OTTAVA プレゼンターのひとり斉藤茂 GM から、まったくたまたま耳寄りな情報を聞いた。なんでも斉藤さんは、オーストラリアの歴史あるワイナリーのジェイコブス・クリーク( ブランドン入江も Brandon Creek と書くけど、こっちのクリークは小渓流のほう )のリースリングをたまたま見かけたスーパー(!)で買って家で飲んでみたらこれがよい !!! というわけで「番組に連動したプレゼンターからのオススメ」に。斉藤さん曰く、「かなりシャープでドライな白ワインです。レモンやライムなど柑橘系をイメージさせるアロマ、重さはなく爽やかな飲み口ですが、それだけではない旨みも、しっかり用意されています」。

 安酒専科とはいえ、ワイン好きとあってはこの情報ははずせない( 苦笑 )。というわけで、運よく近所のこれまたスーパーにてハーフボトルの「リースリング」を発見したのでめでたく購入( ワタシが見つけたのは昨年のヴィンテージのもの )。さっそく試してみたけど、たまには辛口リースリングというのもいいもんだ。リースリング、と聞くと、なんか「甘口」の代表みたいな先入観があったもので、たとえばアルザスワインもかつてはドイツ語圏だったためなのか、そんな甘口リースリングが多い印象がある。そんなわけで、いままでリースリングという品種から醸された白を飲んだことがなかった。ようするにリースリング初心者、というわけなんですが、これは買って大正解! でした。もっともこれはワタシ個人の感想なので、こればっかりはじっさいに試してみるより他にないとは思うけれども、シャルドネほどのパンチの強さもドライさもなく、とても軽くて飲み口のよい白だと思いました。グラスから立ち上がるアロマも清々しい柑橘系で、これも個人的には大満足。誤解を恐れずに言えば、これは「白ワイン版ボージョレ」という感じ。すっきり辛口たけど、フルーティな味です。斉藤さんに感謝しなくては。もう少し涼しくなってきたら、こんどはここのカベルネ・ソーヴィニヨンを試してみようかな。

 … なんてこと書いているうちに、もう8月も終わりですね( 汗 ) … 。「きらクラ」じゃないけど、皆さまもどうかご自愛くださいませ。

付記:ヴィーンつながりでは、けさ見たこちらの番組。楽友協会大ホールのことが取り上げられていまして、舞台正面バルコニー上に聳える大オルガンについてもあらたな事実が。前面パイプ列のことを「プロスペクト」と呼んだりするんですが、ここの楽器のプロスペクトパイプ群は、すべてダミー、つまり音の出ない純粋な「飾り」だったんですねぇ。もっともプロスペクトの一部がただの飾り、というのはバッハ時代にもありました。で、あの名門ホールのオルガンのプロスペクトも、もしやって以前から感じてはいたんですが、ほんとにそうだったんだ。ここのオルガンはパイプ総数 8,000 本余、4段手鍵盤という大きな規模の楽器で、パイプのほとんどが実際にはコントラバス奏者の後ろの壁の中に収容されているみたいです。

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2013年09月23日

Sileni のソーヴィニヨン・ブラン

 たまにはワインのこととか書こうかと思いました … いまごろはボジョレの新酒用ガメイの収穫が最盛期か、天候によっては終わっているころでもありますし。

 前にも書いたことの蒸し返しになるけれども、吹けば飛ぶよな薄っぺらい懐の持ち主としては、しょせん安酒専門の身ではある … でもですよ、たまーにはおや、これは … と瞠目、というとまた大げさだが、けっこうおいしいワインに「当たる」こともある。今さっき栓を開けたばかりのニュージーランド産の白がまさにそうでした。

 それはシレーニ・エステートというワイナリーのソーヴィニヨン・ブラン。シレーニってなに ? と思ったら、ギリシャ神話の酒の神、バッカスの「賢くて、忠実なる下僕」とか瓶の裏ラベルに書いてあったりして。なるほど。いかにもなネーミングではある。

 だいぶ前にここで Alice White という豪州産の白のことをちょこっと書いた記憶があるけれども、正直申しあげて、こっちのほうが断然いい。南半球のワイン、というと、行きつけのスーパーとかに置いてあるのはたいてい豪州とかチリ、南アフリカなどで、ニュージーランド産はめったにお目にかからない( もっともほかのスーパーやワイン専門店に行けばあるかもしれないが )。今回とあるルートにて手に入れた 1,700 円のこの「シレーニ・ソーヴィニヨン・ブラン」、期待以上のおいしさで正直、うれしいおどろき。

 ソーヴィニヨン・ブランっていままであんまり飲んだことがなかった … こちらの記事によると、どうもブレンド用として使われる場合がほとんどで、単一種として使われることはほとんどないらしい。ところがニュージーランドの白ワインは例外で、この品種で勝負して成功しているようです。じっさい飲んでみて、むべなるかな、と感じたしだい。

 まずグラスから立ちのぼる精妙な「香り」におどろいた。ラベルには 'TASTE : Fresh, intense fruit flavors of gooseberry & passionfruit.' とある。たしかにベリーやパッションフルーツの突き抜けるような香りが感じられます。でもライムとか柑橘系も感じられて、日本みたいに蒸し暑い夜にはぴったりなまこと爽快な香りです。昨年収穫のソーヴィニヨン・ブランなので、いわゆる熟成香というのはあんまりなくて、ヌーヴォーのような、いかにも新鮮な白、といった印象( 確認したらヴィテージが 2013 となっていたけれど、「セラー・セレクション」なので、新酒ではない )。

 つぎにまるで水みたいな透明な色からはちょっと想像できないくらい、深みのある味におどろいた。これは安酒専門だからかもしれないが、どうも元祖フランス産の白、シャルドネ種を醸した地酒( Vin de Pays )とか「超辛口」だから当たり前なんだろうけれども、やたら辛くて舌がヒリヒリするだけ、みたいなワインが多いという印象を持っている。でもこのソーヴィニヨン・ブランはまるでちがっていて、分類的には辛口なんでしょうけれども、なんというか舌の上でふんわりひろがる感じです。ひじょうにまろやかで、それでいて後味しっかり、そんな感じです。アルコール度数もなかなかで、12.5% あります。

 安い白、とくると、だいぶ前に飲んだイタリアのソアーヴェはおいしかった。このニュージーランドのシレーニの白は、それ以来かな。最近、なにかと鬱々とした気分になったりすることが多かったりしたけれども、おかげで今宵は気分がいいです ( 笑 )。

 ここで脱線して、英語のお勉強。このソーヴィニヨン・ブランは「開栓後はお早めに、保管は軽く冷やして」とある。'Drink young & lightly chilled' という一文がそれなんですが、へぇ、drink young ですか ! こういう発想は慣れないとなかなか出てこないのではないでしょうか。個人的にはこの手のワインを「早飲み用」と呼んでます。

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2008年11月23日

今年もありがたくいただきました

 週末、この季節恒例の感ありではありますが、買い物ついでにボジョレの新酒を買いました。

 いつもはここの会社が輸入しているG.デュブッフさんの醸すヌーヴォー(最近は'Seléction Plus'なるお高いやつ)を買うんですが、静岡の老舗ワイン屋ヴィノスやまざきの支店がこっちにもできたので、ちょっとのぞいてみた。基本的にボジョレ地区は小規模生産者ばかりなので、ボルドーの自家生産兼醸造所シャトーのように、葡萄栽培・醸造・瓶詰めまで一貫してやります、というところは少ない。ふつうはデュブッフさんみたいなアッサンブラージュの専門家(eleveur, 醸造家)とか取り引きのある地元ネゴシアン(ワイン商)に買い取ってもらって、彼らの工場で瓶詰め・出荷してもらっているのがふつうです。でもここのお店が扱っているのはバイヤーが直接、蔵元も兼ねた自家栽培農家へ買い付けに行ってアッサンブラージュしたものを自前で輸入してきているらしい。店にあったのは、モルゴン村のローラン・ギヨ氏が樹齢100年を越える古樹から醸したというちょっと変り種のヌーヴォーと、A.O.C.ボジョレの蔵元ドメーヌ・ド・シャテルス生産のヌーヴォー。お店の人の話では、モルゴンのほうはボジョレの新酒にしては条件がついていて、「半日前には抜栓してください」とのこと。古樹の葡萄(vieilles vignes)を使用しているせいかどうかはわからないけれど、いわゆるふつうのボジョレ・ヌーヴォーとはちがうみたいで、「新酒なんだけど長期熟成ワインのような複雑な香りと味わい」が特徴なんだそうな。それに産地がボジョレ地区でも「わりと強い」酒を出す北部モルゴン村。個人的には、新酒というのはあくまでも旬のもの、絞りたてのフレッシュなお酒、理屈ぬきに楽しむものと思うので、けっきょく「わりとふつうの」シャテルスさんとこのヌーヴォーを買いました。ほかにもデュブッフさんの'Sélection Plus'を2本買ったから、これだけでかなり財布が軽くなる(苦笑)。

 でも軽くなっただけのことはありました。サントリー提供の某料理番組でみんなが今年のヌーヴォーをさっそく飲んでいるのを見たら、こっちも無性に飲みたくなりました(笑)。とりあえずはじめて買った自家醸造元詰めのシャテルスさんの新酒を開けてみました。コルクがあまりワイン色に染まっていないことからしても、これが空輸直前に瓶詰めされたことを思わせます。色はすみれ色がかった明るいルビー。薄くもなく濃くもなくちょうどいい感じ。グラスの中でちょっと転がしてから、おもむろに鼻先に近づけると、なんともいえない馥郁とした特有のアロマがたちどころに立ち上ってきました。冷やしてなかった、というのもあるかもしれないが、今年のガメイはけっして出来がいいほうではない(6月に長雨が降ったらしい)と聞いていたので、これはうれしい誤算でした(じつはあまり期待してなかった)。店の宣伝文句じゃないけれど、ここのヌーヴォーにかぎって言えばすばらしい香りにほどよい味わい、酸味もさほど強くはなくて、たしかに全体のバランスはとれていると思います。とてもおいしいです。

 以前、ここにもすこし書いたけれども、いま欧州のワイン産地もグローバル化の影響をもろに受けてどこもたいへんらしい。ボジョレ地区も例外ではなくて、ワイン新興国との価格競争で不利に立たされ、設備投資で借りた資金の返済に行き詰って自殺する農家まで出ているという。その点日本などアジア諸国はいいお得意さんなんだろうか。そんなことも思いつつ、今年もヌーヴォーが飲めることに感謝して、音楽を聴きながらありがたくいただくことにします――ただし飲みすぎには注意して(笑、そういえば大バッハも大のワイン好きだったらしい。あるとき運搬途中でワインが漏れて、それを残念がる手紙を残している、とか読んだことがある)。

 デュブッフさんの醸した'Sélection Plus'のラベルにはご丁寧に収穫時期まで印刷してあって、今年は9月23-30日のあいだに収穫したガメイを使っているみたい。ちなみに2006年もののラベルを見ると9月7-14日に収穫、とあるから、今年は葡萄の実りぐあいが遅かったらしい。また瓶詰め・出荷はネゴシアンに任せている銘柄の場合、ラベル最下段の住所欄を見れば、ネゴシアンが地元の人か、よそからやってきて樽ごと買い付けているだけの人なのかを見分けるいちおうの目安になります。ボジョレ地区のあるローヌ県の郵便番号は69ではじまり、その北隣、マコン地区のあるソーヌ・エ・ロワール県は71ではじまります。また関係ないことながら、ボジョレの中心都市ヴィルフランシュ・シュール・ソーヌの川向こうには、サン−テグジュペリが幼年時代をすごし、「箱根 星の王子さまミュージアム」のモデルにもなっている城館の建つサン−モーリス・ド・レマンスがあります。

posted by Curragh at 19:46| Comment(4) | TrackBack(0) | ワイン関連

2007年11月26日

けっこう美味

1). 今年のBeaujolais Primeur、どんな出来かなと思ってこちらのとびきりお高い銘柄(Georges Dubœuf/Selélection Plus 2007)を飲んでみました(昨夜)。

 その前にほかのネゴシアンのヴィラージュ・ヌーヴォーをすこし飲んだのですが、それとくらべるとけっこう味に深みがあり、個人的にはけっこういける(笑)。馥郁としたアロマもすばらしい。色もきれいだし、香りよし味よしで、ほぼ昨年なみのよい出来かと思いました。なのでつい飲みすぎてしまいがちなのがつらいところではありますが。

2). いきなり話が飛んで申し訳ないですが、おいしいヌーヴォーを飲みながらこちらの番組を見ていました。ヴァイマール、とくるとシラーにゲーテにリスト…だろうけれどもやっぱりバッハ!(脱線ついでに横浜クイーンズスクエアモールのエスカレータ吹き抜け壁面に、なぜだかわからないけれどもシラーの詩のひとつがでかでかと書かれている)。バッハはザクセン-ヴァイマール公国宮廷礼拝堂付きオルガニスト、のちに楽師長になったというつながりでしょう、番組ではオルガンのためのパッサカリア(BWV.582)がかかってました。映像に出てきたオルガンはヴァイマールのどこの楽器なんだろうか…。

 ヴァイマールついでに、2004年に漏電による火災でたいへんな被害を被ったアンナ・アマリア図書館。世界遺産でもあるこの歴史的な図書館はこのほど再建工事が完了、来月から一般公開の運びとなったようです(→関連記事。バッハ最古の自筆楽譜がここで発見されたのは前にも書きましたね)。

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2007年11月11日

岐路に立たされるフランスワイン産地

 だいぶ前だけれどもNHKの「クローズアップ現代」で、フランスのワイン産地がいま苦境に立たされているという内容の放送を見ました。そしてついせんだっても地元紙にでかでかと「岐路に立つ欧州ワイン」と題した取材記事が。前にもすこし書いたけれども自分は安酒専門とはいえ、軽くてフルーティーなボジョレが好きなんですが、なんとボジョレ地区でもたいへんなことになっているらしい。

 NHKの番組では南仏プロヴァンス地方の――たぶんラングドックあたり、ちなみに現地語Languedocの意味は「オック語 Langue d'Oc」からきています――先祖代々、葡萄農園を継いできた生産農家の親子が暗い顔で、農園を手放さざるをえないという相談をしていた場面がやけに印象的だったのですが、地元紙記事によればなんとボジョレではワイン生産農家でとうとう自殺者まで出てしまったというから、ここのワインが好きな人間としてはひじょうに驚いた。そんなに欧州各国のワイン農家を取り巻く環境ってひどいのか、と。

 欧州ワインが苦境に陥っている原因は、端的に言えばどっかの国の構造改革じゃないけれど、欧州ワインを取り巻く構造的な不振といわゆる「新世界ワイン」に代表されるワイン新興国の安酒が世界の市場を席巻していることにあるらしい。しかも現地では「ワイン離れ」が加速するいっぽう、安い輸入ものが大量に入ったのと国内ワイン生産量が横ばいのためにもろに供給過剰になっているという。なのであまったワインはどうなっているかと思ったら、なんと工業用アルコールに転換されているという!! またNHKの番組によると、もっとも規制の厳しいA.O.C.(原産地統制呼称)ワインの格付け制度じたいを見直す――規制緩和? ――というからもっと驚く。

 欧州連合ではワイン産業の構造不況をなんとかしようと減反――これも昔よく耳にしたことば――政策とか、いままで生活補償に当てられてきた補助金の廃止や競争原理導入、とこれもどっかの国とおんなじ改革案を提案してはいる…が、あまりに急激な方向転換に当然のことながら仏独伊西の農業相は猛反発。またワインは「投機買い」されたりするので、一律に生産調整というのもたしかに非現実的のような気がする。欧州連合側の改革案の中身について、具体的には 1). 20万ヘクタールの葡萄減反。2). 在庫処理補助金廃止。3). 大規模作付けの奨励。4). 世界的な宣伝強化。

 欧州の人、とくにフランスの若い人のあいだで最近、ワイン離れが急速に広がっているというのもあると思います。彼らは健康志向で、日本の緑茶なんかも好きらしい。またより安いビールのほうが売れているとも聞きます。なるほど、だから毎年のようにデュブッフ氏はこの季節になるとヌーヴォーを日本に売りこみに来るのだな、と勝手に納得。欧州ワインにとって、いまや日本市場は最重要のお得意様にちがいありません。

 新興国ワイン…オーストラリアのWolf Blassはけっこう好きながら、では欧州各国のワインも新興国ワインのような生産体制で効率第一主義、ではどこのワインの味もみんなおんなじになってしまう。現場で汗して働く農家の人はみんなその危険性を強調します。ボジョレ地区ワイン生産者団体の会長さん曰く、「丘を切り開いて平地にして機械を入れろと言うのか。ここでそんなワインを作ってなんの意味があるのか」。

 フランスにかぎらず欧州のワイン農家の人は、業界用語で言うところの「テロワール terroir」というものをことさら大切にする。ボジョレで言えば、10のクリュ(村名)ワインのある北部地域は花崗岩の風化地帯、峻険な地形が多く、水はけはいいけれど勾配が40度ほどもあり、とうてい機械化はむり、すべて手作業。たいする南部はなだらかな粘土質石灰岩地帯。クリュを取り巻くように広がるヴィラージュ地域は痩せた酸性の結晶片岩地帯、土壌分がほとんどない。おんなじガメイという品種でも、この土壌のちがいと気候の微細なちがいができあがったワインの風味に個性をもたらす。作付けした土地の「テロワール」を最大限生かす味わいのワインを作り出すまでにはそれこそ気の遠くなるような長い時間と先祖伝来の蓄積された知恵というか、「技」が絶対に必要。端的に言えば、ワイン造りはアートにほかならない。売れればそれでいいというものではけっしてない。このようにして先祖代々、苦労して築き上げてきた伝統と技と遺産のすべてを葬り去り、ぶち壊すような「改革」には反対だ、というわけです。

 それにしてもボジョレ地区でさえそんな状況なのかといまさらながらびっくりです。ラングドックの農家と同様、ボジョレ地区の生産農家も家族経営の零細経営がほとんど、年収も2千万円以下。自殺した人は、自宅や車を売り払ってもなお返済ができなかったらしい。自殺した人を知る友人の話では、「先祖代々の畑を自分の代でつぶしてしまった重圧に耐えられなかったのだろう」。むごい話だ。ボジョレ地区で最古のワイン栽培の記録は1031年らしい。ここのワイン生産者はみな970年以上の歴史の重みを背負って生きていることになります。

 それでも、ボジョレ地方ワイン生産者団体の会長さんはこうもこたえてました。「大量生産で乗り込んできた新興国のまねをしても意味はない。世界の主要市場でマーケティングを強化し、個性豊かな味わいを多くの人に知ってもらうのが基本だ」。自分も会長さんの方針は正しいと思う。スローフードとかいろいろ言われているけれども、ワインもおなじ。買うほうとしては、いろいろなワインが飲みたいものです。タンニン分が強烈なワインとか、オーク樽の香が心地いいワイン。スズランみたいなアロマがグラスからパァーっと立ちのぼるようなフルーティなワイン。南国の強烈な日差しを浴びた重厚な後味をひくワイン。ボジョレの生産者にとってはいまが苦しい時期かとも思いますが、とにかくこの荒波を乗り切って、さらにこだわったワイン造りをしてほしい。フランスワインの再起復活を願っています。

 というわけで、もうすぐ解禁日。今年の出来はどうか…というのは楽しみではありますが、いかんせんユーロが高すぎ、今年はいままで買ったうちでもっともお高くつきそう…です(泣)。

 老婆心ながら――前にも書いたかな? ――ヌーヴォーワインは特殊な醸造法で醸されているので、遅くても年内か1月くらいで飲みきってしまわないと、風味も品質も落ちてしまいます。とにかく「旬のもの」はその季節にすぐ味わうのが一番ですね。ボジョレついでに、クレヨンの一種「コンテ」の発明者コンテさんは、ボジョレの人です(c.1755-1805)。

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2007年09月30日

オーストラリアワインが旱魃被害

1). 本題の前にこちらも大切なので…以前ここでも触れた、イタリアの小学生が折った千羽鶴をたずさえて一路広島めざして走っていたバイクチーム「マルコ・ポーロ」がぶじ、ユーラシア大陸1万7千キロを走破して平和公園に到着したというニュース。またしてもちょっと古いが、まずはご苦労様でしたと言いたい。千羽鶴を折ってくれたルバーノ市の小学生も、きっと喜んでいることでしょう。

2). 先日の地元紙面にてはじめて知ったのですが、オーストラリアはいま、大旱魃に見舞われ、ワイン用葡萄の生産量が最悪の場合、例年の半分以下にまで落ちこむかも、と言うから驚いた(→関連記事)。

 北半球のみならず、南半球も気象異変なのだろうか。ワイン産地として知られる南東部マレー・ダーリング盆地ではなんと全滅かも…というから、事態はきわめて深刻と言うほかない。

 オーストラリアワインでは、ここにもちょこっと書いたWolf Blassが手ごろな価格ながらけっこうおいしい…と思っていたので気になって公式サイトをのぞいてみたけれども、旱魃がらみの情報はとくになし。

 今夏はイタリアやギリシャのオリーヴ・ワイン産地の大規模な山火事が印象に残っていますが、スペインのリオハ地区とかはどうだったのだろうか。いまさっきそのスペインの白を飲みきった(注:大瓶一本をいっきに飲み干したわけにはあらず)のですが、Segura Viudas という蔵元の'Viña Heredad'という銘柄。行きつけのスーパーではじめて買ったのですが、お値段は1,080円、リンク先ページで5.95ユーロだからほぼ同等の値段ということになりますか(酒税分は無視)。

 産地はPenedès地区で、ちょこっと調べてみるとどうもカタルーニャ地方、バルセロナの近くらしい。カタルーニャ→モンセラート→黒マリア(この地方の守護聖母)→カタルーニャ語版『航海』…とついこんなくだらない連想ゲームがはじまってしまう(笑)。色はほとんど透明で、うっかりふつうのコップに入れてあったら子どもが水とまちがえて飲んでしまうんじゃないかと思うほど。でも香りと味はわりとしっかり出ていまして、おもに柑橘系のかぐわしい香りがグラスから立ちのぼり、かなりドライな白でしたがちょっと蜂蜜のような甘みも感じました。

 けっこうおいしかったので、調子に乗っておなじ蔵元の赤(テンプラニーリョ種)を買ってみました。こんどの週末あたり開けてみようかなるんるん

 その前に飲んだのはボルドーのグラーヴ、中瓶。サントリーが輸入しているCalvetのもの。ひさしぶりに飲んだというのもあったけれど、こちらもけっこうおいしかったです。2004年もので熟成が進んでいたせいか、メリハリのはっきりした味ですが、まろやかさも同時に感じました。もうすこし寝かせるとさらにmatureになりそう。

 …そういえばChoral Evensong, 先週はMappa Mundiで有名なヘレフォード大聖堂聖歌隊でした。ここのCDもほしいなぁとは思うのだけれど、なかなか見つからない。今週は、ウェストミンスター・アビイ聖歌隊ですな。副オルガニストのRobert Quinneyという人、昨年の'BBC Young Choristers of the Year'でオルガンの伴奏をしていた人ですね。

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2006年12月09日

今年のBeaujolais Primeur

1). 今年の Beaujolais Nouveau(地元ではBeaujolais Primeur、「ボジョレの初物」と呼び、フランスのワイン法上はこちらが正式呼称)。いままでいろいろなネゴシアン/蔵元のボジョレ・ヌーヴォーを飲んできましたが、個人的にはやっぱりあの派手派手な花柄のラベルでおなじみのジョルジュ・デュブッフおじさんの醸した「初物」が一番だなあ、と思う。というわけで、今年もまたおじさんのヌーヴォーを買いました。

 いつも4,5本、「買いだめ」するので、ただでさえ財布が軽いと言うのに、この時期になると万札が飛んで困りますorzorz。ここ数年、円安ユーロ高のせいなのか、ちとお高いなぁ…(溜息)。

 某コンビニで出しているBeaujolais-Villages Nouveau のキュベ・スペシャルというのが好きで、しかたなくこの「さらに高い」新酒を買ってしまうのも万札が飛ぶ一因ですが、今年は日本での輸入総代理店であるサントリーのサイトに紹介されている、デュブッフ氏みずから厳選した古木ぞろいの畑から収穫した葡萄から醸したというとびきりお高い新酒(2,880円)を一本、買ってしまった。それと「ふつう」のヴィラージュ・ヌーヴォーも。ふつうのヴィラージュ・ヌーヴォーはまだ開けていないけれど、あとの三つ(ただのボジョレ、キュベ・スペシャル、セレクション・プリュス)を飲んだ率直な感想は…もっとも「濃い」ルビー色だったのがキュベ・スペシャルで、グラスから立ち上る香り(果実香と熟成香)もいちばん強かった。そのつぎがふつうのボジョレ・ヌーヴォー。もっとも色が薄かったのが意外やセレクション・プリュスで、香りも抜きんでて強烈! というわけではありませんでした。もっとも冷蔵庫で冷やしすぎているのも原因かもしれないけれど…まだ半分残っているので明日あたり、しばらく室温に放置してから飲んでみますか。

 ボジョレの新酒が世界的に有名になったのは第2次大戦後のこと…というか、ジョルジュ・デュブッフという天才的なネゴシアンで醸造家がいたからこそ。でもボジョレ地区の葡萄栽培の歴史はけっこう古くて、ボジョレワインに関する最古の記録はなんと1031年(!)と言います。ボジョレ、というとガメイ…のイメージが強いですが、少量ながら白(シャルドネとアリゴテ)も栽培しています。白のほうはどんな味なのかな? 

 ちなみに今週号の『週刊アスキー』の神足裕司氏の連載コラムになぜかデュブッフ氏と神足氏のツーショットが…そうか、今年も来日してたんですね、デュブッフ氏。

 ボジョレというと、10年ほど前に飲んだ、10のクリュ(村名)ワインのひとつシルーブルChiroubles A.O.C.が最高においしくて、スズランの香りというか薔薇の香りというか、とにかくその強烈な香りがいまだに忘れられない。このとき飲んだシルーブルもデュブッフ氏が醸したワインでした。それ以来、このおじさんの醸すボジョレが好きになり、花柄ラベルの新酒を買うようになりました。ボジョレはガメイという葡萄の個性がそうさせているのだと思うけれども、理屈ぬきで飲んで楽しくなる赤、というところが最大の魅力ですね。

 自分が買うのはせいぜい1,000円から2,000円くらいの安酒ばかりなんですが、このクラスでもけっこう「掘り出し物」が多いと思います。アテネ五輪のときはふだんあんまりお目にかからないエーゲ海もの赤なんか飲んだりしまして、見た目も味もけっこう濃いなぁ、と…でもけっこうおいしかったですね。またたまに「もらいもの」もありまして、ボルドーのグラーヴ(Graves, 白)なんて高級品をいただいたときは冗談ぬきで大喜びしてしまいました…そのときはじめてグラーヴの味を知りました。世界遺産にも指定されているサンテミリオン地区の赤は…まだ(注 : アル中ではありません。飲むのは週に一回ていど。でもこの時期はどうしても酒量が増えますねー)。で、新世界ワインとか、いろいろ飲んだけれども自分の体にいちばんあっているのはやっぱり軽いボジョレの赤、みたいです。

2). 先日のつづきになりますが、モスクワアカデミーの演奏会に行く前、時間つぶしに立ち寄ったのが日本橋の三越本店。お目当てはもちろんWurlitzer。で、正午からの演奏を聴いたのですが、いきなりバッハの――ほんとはバッハの真作ではないらしいが――「御身がともにあるならば BWV.508」が。つづいて「おお樅の木よ」、「赤鼻のトナカイ」、「聖夜」、最後が「もろびとこぞりて」。シネマオルガンだから最初から付属していたのでしょうけれども、「赤鼻の〜」と「聖夜」はタンバリンの鈴(?)みたいな打楽器の音も聴こえてきました…最下段の手鍵盤の両脇からなにやら光るものがあって、光っているときだけ打楽器が鳴り響いていました。どうやら最下段の手鍵盤と連動しているらしい。最後のはクリスマス時期定番中の定番ですが、後半、即興的にアレンジした部分をカデンツァふうに挿入していたのがおもしろくて、とてもよかった。演奏者紹介の立て札を見ると、この日の演奏者は高橋美智子さんという方でした。

 …オルガン演奏を聴くだけでなにも買わないのも…と思って三越のフロアガイドを繰ってみたら(こういう高級百貨店にはまるで縁のない人)、新館に山野楽器が入っているのを発見。さっそく行ってみたらちょうど折りよく(?)Liberaの新譜が試聴コーナーにありました。試聴コーナーにはほかに村治佳織さんと英国のヴォーカルアンサンブルThe Sixteenのコラボで話題になったアルバムも(村治さんはついこの前、静岡音楽館AOIでも声楽アンサンブルと組んで演奏会を開いたらしい。静岡ついでに脱線すれば先日5日のAOIでのオルガンコンサート。地元紙記事でも紹介してあったのはよかったけれども、「松居(直美)さんはドイツの国立フライブルク音楽大の国歌演奏家コース卒…」とあって、こけてしまった。最近この手の看過できない誤植が多すぎ)。で、三越で買い物したことには変わりないのでここでLiberaの新譜お買い上げ。おまけとしてポストカードが…これがまた特大サイズ。折り曲がらないようにカバンに入れるのにひと苦労。その後「スペースセントポール」でハードカバーの本を買ったので、本にぴったりとはさんで持ち帰り、いまは机の上でマクマナーズくんのカードと仲良く並んでいます。(追記。村治佳織さんと共演した声楽アンサンブルを「シャンティクリア」と誤記していました。お詫びして訂正させていだきます)

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2006年05月08日

Alice White

 南半球のワインはチリのコンチャイ・トロの赤や南アフリカの、よくコンビニとかで見かける安いものくらいしか飲んだことなかったのですが、近所のスーパーにてAlice White なる銘柄のオーストラリア産赤(シラーズ)が1000円しなかったので買ってみました。

 で、さっそく日曜の夜に飲んでみますと南半球の陽射しをたっぷり浴びたのでしょう、たいへん濃い赤で、ほとんど黒。アルコール度数も高くて13.5%。開けたばかりのせいでしょうが、強烈なタンニン臭、いや焦げた樽の内側の臭いがやけに印象的でした。これと、赤ちゃんのほっぺみたいなモッツァレラチーズを適当にちぎって、市販のピザの上にまぶして酒のつまみに。

 かなり酔いがまわったところでふとラベルに目をやりますと、こんなことが書いてありました。

 「『ぼくはニックだ』カウボーイは微笑んでそう言うと、自分を信用してくれるんなら、安全な場所まで案内してやるよと請け負ってくれた。どんなにがんばっても自分の名前しか思い出せない彼女にはほかに選択の余地はなかった。男のあとについて歩くこと数時間、ふたりは濁った水がゆるやかに流れる川に出た。ニックが馬をかたわらに引き寄せて慎重に川に入ると、アリスもぴったり寄り添って川に入って歩きはじめた。そのせつな、前方にクロコダイルが潜んでいることにふたりは気づいた。『引き返せッ!』ニックが叫んだ。だが遅かった。クロコダイルは巨体を躍らせ、水をバシャバシャ跳ね上げながら猛然とふたりに向かってきた…つづく」

 …¿¿なにこれ?? でもなんかつづきが気になるな…ワインの中味とはまったく関係ないけれども。

 …こんどはニュージーランド産ワインを飲んでみようかな。そしてまったく話は飛びますが、いまさっき聴いたNHK-FM「気ままにクラシック」の定番コーナー、「よく聴くと、アレ、どこか似てるかも」。日本の歌曲と聴いた感じが似ているクラシックの名曲を探して投稿しようというコーナーなんですが、今回取り上げられたのはなんとちあきなおみさんの「喝采」と泣く子も黙るバッハの「平均律クラヴィーア曲集」の第24番のプレリュード!! …このふたつ、聴いてみましたが…このプレリュードを聴いて「喝采」を思い起こすとはある意味すごい!?

NHK-FMへの要望
posted by Curragh at 00:45| Comment(0) | TrackBack(0) | ワイン関連

2006年02月18日

赤だけではなくて白もあった

 こんなニュースを発見しました。

 王家の谷では、KV62、つまりツタンカーメン王墓のほんの数メートル先で約80年ぶりに発見された墓(隠し場所という人もいる)の話題でもちきりですが、ツタンカーメン王墓に収められたワインについても新たな展開が。

 いままで、王の亡骸とともに埋葬されていたのは赤ワインだった、と言われてきましたが、記事にもあるとおり、よくよく調べてみたらじつは赤だけでなくて白もあった、という結果が出たそうです。

 古代エジプトにも葡萄醸造学があったのかもしれませんね。

 個人的には、当時栽培されていた葡萄がどんなものだったのかも興味があります。

 古代エジプトのビールを復元して試飲した話はかなり以前に聞いたことがありますが、ツタンカーメン王の飲んだワインというのもおおいに興味あり。ぜひ試飲してみたい(赤白どっちも)。

 …ワインというと、アレッド・ジョーンズの自伝でも何箇所か「シャブリをグラスに注いで…」みたいな記述がありました。どちらかというとアレッドはフランス産辛口白ワイン党みたいですね。

 自分はいろいろ――みんな安酒ばかりだけど――試してみましたが、軽くてフルーティなBeaujolais(ガメイという葡萄から醸される軽い赤)がいちばん自分の体質・嗜好にあっているみたいです(キャンティや、アテネ五輪のときにはじめて口にしたギリシャ産の濃い赤もおいしかったけど)。

 ワインといえば、ハンガリーのトカイも強烈でしたね。数年前にはじめて飲んでそれっきりご無沙汰ですが、どこかで安く売られていたらぜひまた買いたい。自分が飲んだのは3プットニョスという甘さのクラスで、色はウィスキーのような濃い琥珀色、味は、なんというか、蜂蜜を飲んでいるような感じ…乱暴な言い方をすると、蜂蜜味のウィスキー、といったところですか。

posted by Curragh at 13:51| Comment(2) | TrackBack(0) | ワイン関連