構成:おおまかな流れは、❶ 6月にベルーナドームで開催された、9人全員がそろう最後の<宴Cヴ3か月前に行われたインタビュー ❷ 2015 年2月の Aqours メンバーとして初めての顔合わせなど、10 年におよぶ活動と、その間に生じたメンバー間の葛藤についての掘り下げ ❸ 作品の舞台となった沼津との関係 そして ❹ フィナーレライヴふたたび、という構成。ほかの媒体とかを見ると、各メンバーは数時間にもわたるインタビューの受け答えをしていたようですが、尺の関係か構成上の都合か? 3年生組の発言とかはほとんどなくて、伊波さん、逢田さん、斉藤さんの2年生トリオが中心、ついで1年生トリオの小林さん、高槻さん、降幡さんがそのときどきの「想い」を口にしていた。
❶ μ's の後継というプレッシャーとの戦い:以前もここで書いたように、ワタシは『サンシャイン!!』でこのシリーズの存在を知り、その後『ラブライブ!』『同 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』『同スーパースター!!』と観てきた人なので、初期のバッシングの話とかは直接知らないが、はっきり言って常軌を逸したものだったらしいことがキャストさんたちの心情の吐露(諏訪さんなど)からうかがえた。μ's の名が神聖四文字のごとく口にするのも憚られるほど、船出≠オたばかりだというのにキャストさんたちを襲った時化≠ヘひどくて、運営側から箝口令が出ていたという話が事実だったことが語られている。
『同スーパースター!!』のファン層は、Eテレで放映していたり「リエラのうた」という新機軸(?)があったりしたせいか、園児から小中学生という子どものファンが多い、という若年傾向を個人的には感じてるんですが、そういうイマドキの若手ファンからは想像しがたいほどの重圧を Aqours は最初から受けていた。じつは薄々、こっち(沼津)でもソレは感じていて、たとえば 2018 年の紅白出場が決まったとき、なんと某オンライン署名プラットフォーム上で「出場阻止」を掲げた署名運動まであって、地元民のひとりとして呆れ返っていたことを鑑賞中に思い出していた。
❷「ラブライブ! フェス」からコロナ禍を経たグループの変容:重圧は内側からもかかる。逢田さんが Aqours のファーストライヴで、作品挿入歌のひとつで桜内梨子が奏でるピアノ伴奏を再現する場面で失敗したときのことを語っていたが、そのとき演奏を中断させ、リトライさせた判断を瞬時に下した舞台監督さんのインタビューがすこぶる印象的だった──「このまま続けていたら、きっと彼女の心に消えない傷を残してしまうと思ったから」
結果としてこの判断は大成功で、「あがこう! 全身全霊で!」と走り続けた高海千歌たちの姿とみごとに重なり、チームとしての Aqours の結束もいっきに高まったように見える。それでも μ's の呪縛は残り続け、それがほんとうに解けたと思えたのは、2020 年初頭に開催された初のシリーズ合同ライヴイベントの「ラブライブ! フェス」で憧れの先輩たちと共演を実現したときだったという(伊波さんの話)。
しかしその直後に襲いかかったのは、とんでもない伝染病の世界的大流行(パンデミック)だった。ライヴは軒並み中止、白紙にされる。クラシック界隈でもどこでもそうだったけれども、音楽家も一般人もなるべく密にならないよう要請され、沼津市も地元紙に全面広告を出して「いまは来ないで」と呼びかけていた。内浦小海漁港前の有名な海鮮料理店も大量のマアジのひらきが余って、クラファンを活用して冷凍品として一般販売するなど手探り状態だった。
それでも芸能活動という仕事の性質上、さすがに心が折れただろうことは想像に難くない。当時の振り返りに耳を傾けていると、このへんからメンバー間の距離≠站C持ちのズレが顕在化していったのかもしれないと感じた。
❸ Aqours と沼津のキズナ:先日、地元紙にこの映画の監督さんのインタビュー記事が掲載されてまして、(寡聞にして存じ上げなかったが、ゾンビものの作品があるみたい)「『サンシャイン!!』の物語にあるまっすぐさを現実の世界でも背負い、貫き通すのは並大抵じゃない。取材しながら、彼女たちの『きつさ』に思い至った」のが制作のきっかけだったようです。
舞台となった沼津とのつながりでは、Finale LIVE テーマシングル「永久 hours」のメイキングを中心に構成されてました。観ながら、ああそういえばこんなこともあったっけなと頷くことしきり …… 2018 年のエイプリルフールの朝、たまたま内浦地区に出向いたときに、三津海水浴場に巨大な千歌寝そべり(まんま普通怪獣)がデンと横たわっているのを見て、さらには詰めかけた人の多さとにぎやかさに仰天したこと、紅白出場が決まったときの商店街の盛り上がりよう、そしてついこの前も、フィナーレライヴ後の余韻を楽しむかのように作品のファンがどっとやってきて、内浦方面行き路線バスが臨時便を出していたこと、などなど(駅前のバスターミナルがそれこそ原宿の竹下通り並みに、コスプレ組も含めたファンでごった返していた)。印象的だったのは、逢田さんが(沼津との交流が)「10 年も続いているというのは、決して当たり前のことではない」という主旨の発言をしていたことだった。アニメの「聖地巡礼」ブームのきっかけを作ったのは『らき☆すた』らしいが、10 年間もキャストさんたちとともに歩んできたというのはおそらく尋常ではない息の長さなのではないだろうか。諸説あるでしょうが、「ここには何もない」と思い込んでいた市民が大多数だったことが、結果的にまっさらなカンヴァスに虹を描いたみたいな展開になったのでは、と個人的には考えている(拙小冊子参照)。
げんに沼津でも長らく人口の転出超過が続いていたが、それが数年前から微増に転じた。『サンシャイン!!』関連の転入組は 100 を超えているらしい。市役所に就職してあらたな転入組向けにいろいろプランを打ち出しているとも伝え聞く。そもそもこのシリーズの舞台に決まったことじたいが偶然の成り行きで、ロケハンしていた酒井和男監督が「海辺の町で、高校が多くて、首都圏からあまり離れていないところ」を探しに来て伊豆半島に入り、「海越しに富士山を真正面に望む絶景の地」に佇む中学校を発見したことからすべてが始まった。思うに、リーダーを交代するとか制度を変えるとかもけっこうながら、けっきょく人々の意識≠ェ変わらなければ何も起こらないよね、ということをあらためて痛感させられる。「この出会いが みんなを変えるかな/今日も太陽は照らしてる 僕らの夢」(「君のこころは輝いてるかい?」)。Aqours という「普通怪獣」が上陸してからの沼津は確実に変わったと思う。
❹ Aqours の成熟度を示すメンバー間の距離:『ラブライブ!』シリーズに関して、無名の新人さんの起用に関する批判をときおり耳にする。そもそも若くて元気な人でなければとてもじゃないが務まらんでしょ、というのが個人の意見だけど(ニジガクの場合は子役などの芸能経験者が多いようですが)、まだ二十代になるかならないかの女の子たちが 10 年も同じ釜の飯を食った company ともなれば、そりゃどんなグループやバンドだって方向性の違いは出てくるでしょう。『バンドリ!』シリーズの最新作でラテン語多めメタルバンド設定の Ave Mujica でも、こうした現実のバンドでありがちな解散の危機が描写されていたし、「個性豊かな子たちなんですよ〜」とメンバーのひとりが発言していたとおり、個性のカタマリが9人も集合すれば時間の経過とともに目指すものも違ってくるよね、と。
そのメンバー間の温度差を象徴していたのが、公演前にやっていたという円陣を組まなくなった、というエピソード。高海千歌役の伊波さんの話では、コロナ禍以降の公演では円陣を組まなくなっていたとのことで、互いを想う気持ちが強いゆえに言いたいことも言えなくなってしまった的な葛藤も明かされていた。これも個性豊かな集団ではよく聞かれる話です。でもこういう葛藤やモヤモヤを抱えながらも笑顔で聴きに来てくれているファンたちを楽しませなければならない。真に強靭な精神力の持ち主でないと務まらないたいへんなお仕事です。無名の新人ガ〜とかいう批判は当たらない。ベテランだってキツいことに変わりないでしょう。もっとも経験値の差は出ると思いますが。
いまや「愛♡スクリ〜ム!」で世界的にバズっている黒澤ルビィ役の降幡さんが、ひとり黙々とランニングしているシークエンスが出てきたのも印象的だった。その降幡さんが最後の公演のときにメンバー全員に手紙を書いて手渡していた。伊波さんはストイックなあまり、自分の本心を伝えるのが苦手なタイプなのかもと観ながら感じてもいたが、それを降幡さんがみごとに補っていたかのようで、ここでワタシはうるっときましたね。個人的には最後は内浦の海をバックにエンドロールしてもよかったのかなとも思ったが、あえて黒一色背景にしたのがやはり正解なのだろう。
…… じつはこの日は商店街の休日で、それでかどうかは知らないけれども、商店街の人たちと内浦の人たちも団体さんみたいにやってきて後方席に陣取っていた。上映が終了すると自然と拍手が起こり、「よくがんばったね、ありがとう」と声も飛んでいた。かつて千歌のスカートが透けてるとかイチャモンつけてきた外野連中もいたけど、これが 10 年間を Aqours とともにあがきながら歩んできた地元民の偽らざるキモチなんだよ、とタンカを切ってやりたくもなったずらね。
…… 気づいたんだ。ぼくたちはなんのために部活をやってるのか。父兄の人たちも。……楽しむこと。みんなは、本気でスクールアイドルをやって心から楽しんでた。ぼくたちも、本気にならなくちゃダメなんだ。そのことを Aqours が、Saint Snow が気づかせてくれたんだよ。ありがとう──劇場版『同サンシャイン!! Over the Rainbow』の渡辺月の科白から
※ 地元ラジオ局制作の番組のコーナーで記者さんが語っていることで、「成り上がり」(の軌跡)という表現はまったく同感ですわ。コチラもぜひ聴いてほしい(ちなみにラッピングタクシーを埼玉の会場まで乗り付けたって話は、ライヴ定番の話デス。紹介されていた本はこちら)。
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